第11話 川辺の空き家
サジ・ベルジ率いる傭兵団から逃れ、クレメンテたち四人は川づたいに中心市街目指したが、明るい時間帯に人通りが多い場所に出るのは避け、川辺で見つけた空き家に身を隠すことにした。
交代で見張りをしながら仮眠を取っていたが、サレハは朝日とともに起き出し、外に出ていった。
見張りをしていたクレメンテは「小便か」と思って特に呼び止めもしなかったが、しばらくして戻ってきたサレハの手には二羽の鴨が逆さまに握られていた。
「なんで、鳥?」
「食料」
クレメンテの質問に答えるサレハは真顔である。
陽が高く上がる頃には全員が目覚めていた。
「で、これからどうする?」
香ばしく焼き上がった鴨肉は、すでに冷めていた。
それを頬張りながら、ジルがクレメンテに尋ねる。
バイロウのところから逃げ出したものの、クレメンテにも行く宛はない。
「……実家にでも帰るかなぁ」
「出身はどこなんだ?」
冗談混じりに呟いたクレメンテにサレハが尋ねた。
「レンツォって港町だ。マリゼラの」
マリゼラ共和国はエラム南西部の諸島からなる海洋国家である。
クレメンテの話に思いがけずサレハが興味を示したので驚いたが、
「マリゼラか……いいかもしれん」
と続けたので、また驚いた。
「マリゼラに行くなら船が必要だけど、検問が厳しくなってるだろうね。
クレメンテが実家に戻ろうとすることぐらいバイロウも想定してると思う」
「……モヘレブは出たほうが賢明か」
ジルの言葉に、少し考えてサレハが答えた。
「ここ以外に港は?交易してるぐらいの」
「近くてパオパネ、遠くてボポーノといったところか」
「警備が手薄な場所と頃合いがいいよね。体制が整える前か、みんな忘れた頃か」
「………………」
サレハがジルの顔をじっと見つめる。
「何?」
「いや。お前はモフセン王国の関係者か?
モフセンに隣接しているからタサは知っているようだったが」
「『関係者』の意味は分かんないけど、モフセン・ウェセロフ戦争の生き残りだ」
ジルの話を聞いて、サレハはしばらく黙した後
「たいへんだったな。我々も撤退は不本意だった。力になれずすまなかった」
と続けた。
ジルは眉根を寄せて顔を歪ませたが、すぐに俯いてしまった。
手に持っていた鴨肉を皿に置くと
「……もう、忘れたよ」
と笑って見せたが、すぐに寂し気な目を見せた。
「弱っているジルを見るのは初めてだな」とクレメンテは思った。
直後にジルと目が合った。
「だからさ!憐れむような眼でオレの顔、見ないでくれる?」
とまた自嘲気味に笑って茶化してきた。
「だから!憐れんでなんかねーって!!!」
クレメンテは手でジルを払いながら、顔を背けて立った。
自分は聞かないほうがいいかな、と思ったからだ。出会う前の過去の話を、クレメンテまで知らなくていいだろう。本人が話したいならいくらでも聞くつもりだが、知らないヤツも必要なことがある。
「パオパネ?ボポーノ?オレはどっちでもいいや。着いて行くから、決めといて!ちょっと小便」
「いや、お前がオレを連れ出したんだろ!お前が決めろ!!!バーカ!!!」
クレメンテの背中に罵声を浴びせるのを、ナギルは静かに笑って見ていた。
サレハも立ち上がり、荷物の中を探っている。
ジルが向き直ってナギルに話しかけようとした時、サレハが適当な短剣を持って戻ってきた。
それを見てジルが再び真顔に戻る。
「戦い方は、忘れてないか?戦える人間は多いほうがいい」
と言ってジルに短剣を手渡した。
「多分。でも……」
ジルは受け取りながら笑って言った。
「その前に、オレ、これで自刃するかもよ?」
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