12話 突発旅行再来

 思えばプライベートでの出会いは久しぶりだ。会社で増える人とのつながりは人に夜のだろうが、俺の場合あくまで会社のPCや名刺の関係だけだ。毎年のように誰かしらの連絡先が増えていった学生時代とはわけが違う。これが俺のような波風が立たないように仕事をしている平凡な社会人の姿なのかもしれない。そのためか連絡先が増えたことを実感して少し心が若返った気がする。ただ好感した相手が女子高生と言うことを踏まえると少し穏やかではない。冷静に考えれば分かるように普通は接点を持つことの方が稀な立場なのだから。しかしもう好感したのだから仕方がない。立場をしっかりと理解したうえで適切な距離感を保てば大丈夫だろう。何しろ普通の毎日に疑問を抱いていたんだからこのくらいの変化はきっと必要だ。俺はそう自分自身に言い聞かせる。

 そんな中ポケットの中のスマホが振動する。俺はスマホを取り出す。振動の正体はいすみからだ。

「今日はありがとう」

「これからもよろしく」

「私は家に帰ったよ。今かけるんはどの辺かな?」

「気を付けて帰ってね」

 そんな内容が届いたので、俺も

「こちらこそ、ありがとう」

「俺は今スキー場の方」

「人が増えてきた」

 とレスをする。スキー場からの帰りの乗客が一駅一駅と増えていく。幸いなことに俺は座れているので影響はないのだが大きな荷物を抱えた人がぞろぞろと入り込む。俺が使う駅は毎度人を見ることは無いが、実はなんだかんだスキー場のユーザーが乗降するエリアはあるのだ。そんなやや混雑した電車から次の電車へそしてまた次の電車と乗り継ぎ俺は夜遅くに帰宅した。


そんな1日を終えてからの俺達の関係性はと言うと、頻度こそ高くはないものの定期的に連絡を取り合っていた。内容は今日こんなことがあったと言った些細なことからちょっとした私生活のこと。お互いふとした隙間時間にちょっとだけチャットをするというラフな関係性だ。そうして2週間が経過し…


「結局こんな短いスパンで来てしまった…」

「本当に。せめて一か月くらいかなと思ってた」


 また俺と彼女はこうして会っていた。ただ今日はいつもの駅ではない。少し離れたこの辺では一番栄えた駅だ。駅から降りると確かに商店の数は段違いだ。とは言ってもシャッターも多いのだが。二人で少し歩いていると車通りが増えてきた。積もった雪が残っているので慎重に俺は歩いているのだが、彼女は動じないで堂々と歩いている。これが経験の差か。

「氷のとこは避けて足の裏全体で歩けば滑らないよ」

 なんていう知恵を教示してもらい未知なる土地を俺は彼女の後を追いながら歩いていた。どうして今こうなっているかと言うと数日前のことである。


「いすみの住んでるところで一番栄えてる場所ってどんなとこなん?」

 ふと疑問に思い俺が彼女にSNSで尋ねたところから始まる。

「ショッピングセンターがあるところかな。みんな車で行ってるけど。

そんな面白いところでもないから、人によっては先の違う栄えた都市に出てるよ」

「へえ。いすみのところだと駅近くが栄えてるってわけではないんだ」

「まあ、無いわけじゃないけどね。うん…まあ…って感じ」

「それはそれで気になるな」

「じゃあ今度来た時に案内しよっか?」

「おお、お願いします」

「くるしゅうない」

「なんか違くないか?」


 というやり取りを仕事の休憩中にしていたわけだ。しかしこの日の退社間際に仕事の不備を見つけてしまい気分を沈め残業をしてそれなりに会社に残ってしまったわけだ。気が付けば周りに誰もいなくなっていたオフィスで、俺は息抜きがてらネットサーフィンに明け暮れた。そこでたまたま見たローカルニュースの地名がどうにも聞き覚えのある場所でよくみるといすみの住んでいるエリアだったわけだ。どうやらいろいろな飲食店でどんぶりをアピールしているようで俺は少し気になった。この残業で出る給与で交通費は多少カバーできるか。ふと俺はそう思い、そこからは速かった。俺は見ていたニュースのURLをコピーし彼女とのチャットルームにそれをペースト。

「これ気になったから週末行こうと思うんだけどもしおすすめあれば教えて」

 そんな血迷ったこと呟くと、速攻で既読が付き

「急に何?」

「盛り上げようとしてる話は知ってるけど、こんなに色々やってるのは知らなかった」

「私も行く」


 まあ、そんな感じのやり取りがあり今に至るわけだ。彼女に色々街について紹介をしてもらいながら目的地である飲食店を目指しているところだ。てっきり商店街の中にあるのかと思っていたが予想は外れ少し外れたところにあるようだ。このお店は、今日俺が電車に乗っている最中にいすみと相談をして決めた場所だ。寄り道をしながらだいたい20分くらい歩き目的地に到着する。今回は今までに比べ知らない土地を大分ゆっくりと歩いた気がする。同時に疲労感も襲い掛かる。店に座ると俺といすみは一瞬だけメニューを見たが、来店前から食べるものは決まっていたので、惑わされることなく

「「サーモンかつ丼ください」」

 と店主に伝える。このメニューだが、名前の通りサーモンをかつにしいくらを添えるという前代未聞の親子丼となっていて、俺は衝撃を受けた。これをいすみに伝えると彼女もどうやら知らなかったようで、

「何これ⁉」

 と大きなリアクションとスタンプの連投がチャットでは繰り広げられた。そんな期待の一品を待つこと10分。

「お待たせしました」

 と目の前には迫力満点などんぶりが2つ並べられる。すぐさま食べようとする俺とは対照的に彼女はどんぶりの写真を撮る。構図なども気にしているようで何枚か撮っているようだ。さすがにその姿を前にして食べることはできないので俺も折角だしと一枚パシャリ。

そんな時だった。俺の方になぜだかレンズが向けられたスマホからぱしゃり。いすみはなぜか俺を写真に撮ったようだ。

「それいらないだろ」

「いいじゃん。減るもんじゃないし。折角だし。記念記念。そうだ折角だし私も撮ってよ」

 おい。待て。さすがにそれは…アイドルのイベントじゃないんだし…しかし俺の葛藤とは裏腹に彼女は写真を撮ってもらう気満々でポーズをしている。しかたないので、

「分かったよ。はい」

 特に合図もなく俺は写真を撮った。

「じゃあ食べようか」

 そうして俺達は楽しみにしていた昼食を取ったのだった。そしてこの時撮った写真が後々ちょっとしたトラブルになるとは思いもしなかった。

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