9話 取り残された私
長すぎるホームに私は一人取り残される。さっき彼を乗せ出発した電車から降りた人は当然いなかった。
「いいな~東京」
日は暮れはじめ。赤紫の空が私の心を包む。きっと線路が伸びるはるか向こう側へいけば華やかなネオンが私を包んでくれる。けれども今いるこの場所は
「また雪だ」
天気予報通りに雪が今日も舞い始め華やかさのかけらもない。しかし不思議なことにいつもは気が重くなる雪もなぜだか今日は憂鬱な気分に感じない。
「外から見ればここもいい場所なのかな」
スキー場に用がある人以外でこの場所を気に入る人なんて初めてだ。私にとってそれは衝撃的なことだった。田舎と馬鹿にする人は見てきた。けれどどうやら彼は本気でここを気に入っているようだった。そんな彼と話してみて私は、今まで話してきた人とは違うものを感じた。自分に自信があるわけではなく、どこか冷めていて達観としている。それでいて子供っぽい。私はホームの端で並ぶ複数の雪だるまに目を向ける。これを作ったのは彼で間違えないだろう。
「なんか可愛いな」
随所にみられるこだわりが微笑ましく思える。いい大人(と言うほど本人は大人のつもりはないんだろうけど)が何してるんだろう。そんな雪だるまを眺めていると
「また会えるといいな」
そんな言葉がポロリと口からこぼれた。
少し時間を置いて私はハッとする。
「らしくないこと思ってどうしたんだろ」
ふと出た言葉を思い返して顔を押さえる。なぜだか体温が上がってくる。降り始めた雪は次第に大きくなる。これはまた積もりそうだ。私は身体を冷ますためと言い訳し、駅の端の方へ向かい雪に触れる。今はその冷たさが心地よい。触れた雪を掌で握る。手を開くと雪が歪な形で固まっていた。
「折角だし私も久しぶりに雪だるま作ってみようかな」
手に収まった雪と積もった雪を合わせていく。うん。いい感じかも。彼が作ったような大きなものではないが小さな雪玉を二つできあがった。私はその雪玉を合体させる。そして彼が作った雪だるまの群れの隣に添える。こうしてできた雪だるま達はなんだか家族みたいだ。電車が止まるとき誰か気が付いて見てくれたらいいんだけどな。
「って本当、何してるんだろう。ばかみたい」
私はそんな言葉とは裏腹に口元に笑みを浮かべホームを後にし、家へと向かった。
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