3話 雪国の無人駅

 何も分からず降りたこの駅はまさかの無人駅。降車して駅構内を見渡しても、かつて有人駅だった名残の駅員室のようなものがあるくらいで他には何もなかった。無人駅を体験したことがない俺にとっては新鮮であった。これがもし昼の時間帯であればの話だが。

「ちょっと待ってくれよ、俺もしかしてここで凍えて死ぬんじゃ…」

 駅からこの近辺の様子が少しだけ見えるのでざっと見渡してみるがぽつりぽつりと民家はあるが明かりはなく人気は感じられない。さっき電車で通過したスキー場があった駅まで行けば宿泊場所はあるかもしれない。けれどこの天気でかつおそらく長距離を歩くのはなかなか厳しいものがある。俺は全く想像していなかった自分の置かれた状況に

「は、はははは」

 気持ちの悪い笑みを浮かべるしかできずその場に膠着した。

「へくしょん」

 ただこの雪景色の寒さは尋常ではなく、悪い夢ではなく現実だと思い知らされる。いつの間にか手の感覚もなくなってきた。やばい。とりあえず待合室のようなものが見えたので俺は急いで駆け込んだ。

飛び込んだ先の待合室にはもちろん誰もいなかった。当然暖房もついていなければ灯りもついていない。ただ空気を閉じ込めているだけの状態だ。しかし凍てつくような風を凌げるだけで大分心強い。天井を見上げると蛍光灯らしきものがあるようなのでどこかにボタンがあるのでは?と壁に手を添わせ室内を徘徊していると案の上ボタンがあったので押してみる。もしすでに使えなくなっている蛍光灯だったらどうしようかとも思っていたが無事灯りは点灯した。明るくなった待合室を確認すると清掃は定期的に行われているようで無人とはいってもメンテナンスは行われているようだ。また待合室には電車の時刻表も掲示されていた。一時間に数本あればましという恐ろしい時刻表には、当然ながら帰宅するための上り電車の設定はなされていない。下り電車でどこか人気のある所に向かおうかと考えたがちょうどその時反対側に下り電車が到着していた。走れば間に合う気もする。俺は待合室から足を出す。しかし電車に乗ったら切符はどうしたらいいんだ?そんな疑問がふと浮かんでしまう。未知が故に足がすくむ。そうしているうちに電車は出発してしまった。

「やってしまった…」

こうして俺はここを移動するという一つの手段を失ってしまった。どうしたものかと俺は待合室に戻りうなだれる。待合室の灯りが辛うじて俺の折れそうな心を支えてくれる。寒さは堪えるがまだ身体が動くうちに結論を出さないと。そう思っていると

ガラガラとドアが開く。

「ねえ、余計なお世話かもしれないけど、もし行き先なくて困ってるなら少し歩いたところに白銀荘ってところあるからそこいけば?」

俺は声の方を振り向くとすでにドアは閉められてしまった。けれど声をかけてくれた人の姿は確認できた。こんなに寒いのにミニスカートを着こなした地元の高校生のようだ。

「ありがとうございます」

 俺は急いで待合室のドアを開きその場で彼女に届くように声を上げる。彼女はこちらに振り返ることなく手だけ振ってこたえる。

「おいおい、こんなときに助け舟を出してくれてそのまま正体を明かさず帰ってくなんてイケメンかよ」

 俺は彼女がさっき教えてくれた白銀荘を早速スマホで調べてみる。するとここから1キロ前後の距離に同名の民宿のようなところがヒットした。急いで俺はそこに電話をかけて宿泊できるか確認した。これでもし泊まることができなかったら本格的に詰みである。電話はスリーコールくらいでつながった。

「はい。もしもし白銀荘です。」

 電話越しから透き通った女性の声が伝わる。

「あ、突然すみません。今日そちらに泊めていただくことは可能でしょうか?」

「はい。空きがございますので大丈夫ですよ」

「では急で申し訳ないのですが、お願いしてもよろしいでしょうか」

「かしこまりました」

 それから宿泊の事務的なやり取りを少しだけして

「ではお待ちしております」

 なんとか宿泊予約にこぎつくことができた。俺はこれ以上雪が強まっても困るので急いで待合室の灯りを消しそのまま駅を飛び出した。

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