2話 切符

電車はほどなくしてトンネルの中へ入っていく。車窓から見える景色はトンネルに設置された明かりが時折見える以外真っ暗だ。暖房は効いているのだが心なしかトンネルに入ってから車内の温度が下がった気がした。そしてこのトンネルだがなか終わりが見えない。地下鉄以外にトンネル状の構造のところを通る電車は私生活で使うところにはないなと俺は気が付く。それだけ平坦なエリアに住んでいるのだろう。などと考えていたがまだ続いていた。いつまで続くのだろうか。

俺は窓の縁に肘をかけ、真っ暗な外をぼんやりと眺めていると次第に電車はスピードを落とし始めた。こんなところで減速するなんてどうしたのだろうか。何かトラブルでもあったのだろうか。俺が不思議に感じていると電車は駅に着くというアナウンスが。こんなところに駅?混乱した頭で外を見ると、たしかに何やらトンネル内が明るくなり駅名が書いてあるプレートが掲げられたホームと思わしき足場があった。トンネル駅?そんな駅があるとは知らなかった。まさに旅は未知との遭遇だ。

 電車はもちろん誰も降ろすこともなくそして誰も乗せることもなく次の駅へ向けて進みだす。しばらくたつと電車はようやく長いトンネルを抜け地上へ顔を出す。そこに広がったのは、夜の闇にもかき消されることのない純白だった。トンネルを抜けるとそこは雪国であったという一説が頭に浮かぶ。残念ながら日は沈んでいるためそのフレーズが描く景色と今見える景色は異なるかもしれない。けれども今こうして降りしきる雪はトンネル前に見たものと抜けた後とでは明確な違いがある。まさに豪雪と言わんばかりだ。けれども電車に向かってくる雪は電車が放つ光に照らされて美しく輝いていた。俺はその光景に見とれた。


「お客様、乗車券を確認させてください」

 

俺が意識を外に向け感動している俺に乗務員が声をかける。


「ほえ」

 突然の出来事に俺は間抜けな声を出してしまう。乗車券?ICカードで入ってきたのだが?俺はどういうことか乗務員に確認した。

「ここはICカード非対応区間なんですよ。そのため切符が必要でして」

 どうやらICカードが使えない区間というものが存在し、その区間に関しては紙の切符を購入しないといけないらしい。ならどうすればいいのかと疑問に思ったが、どうやら説明を聞いたところICカード区間の精算と乗車券の購入はこの場で車掌の持つ端末で行えるようだ。

「どこまでお乗りになられますか?」

精算はできることには安心したが車掌にそう問いかけられ、俺は目的もなくただ電車に乗っただけなのでどこで降りればいいのか分からず、焦ってしまった。ふと頭に浮かんだ数字があったので

「えっと、3つ先の駅で降ります」

 そう言って料金を精算した。車掌が去ってから俺は改めて外を見た。そこで俺は不安を抱いた。

「これ3つ先の駅って何があるんだ…」

 そう。ちらほら民家はあるのはだが、それ以上に何かにぎわったような場所があるわけではなさそうで唯一あるのはスキー場だけ。しかも平日のど真ん中ということであまり活気があるようには見られなかった。徐々に積もる不安は解消されることなく電車は気が付けば車掌に降りると伝えた駅に到着した。俺は急いで荷物をもって下車する。必要以上に長いホームに俺はポツンと取り残される。そしてあたりを見渡す。

「ここどこだよ!案の定人いないし、ここもしかして無人駅ってやつ!?雪もなんかひどくて寒いし」

 衝動に身を任せたこの旅は、もしや自身の憂鬱な日常が誘った破滅への片道切符だったのでは?そう思わずにはいられなかった。

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