絞首台
ここは森澤骨董商店。
店内にはあらゆるいわく付きの古道具が並んでいるが、客には自分が必要なたったひとつの品物しか見えないという不思議な店だ。
店主はたいてい不在で、店番をしているのはこれまたいわく付きの一五歳になる店主の孫がひとり。
彼の一人称は僕なので、ここで仮に彼を僕君と呼ぶことにしよう。
僕君は男だというのに大正時代の女給のような格好で、栗毛の頭の上にちょこんと頭飾りまで乗せている。そんな格好をしているのにも理由があるのだがそれはまた別の話。
店は閑古鳥が鳴くほどでもなく、客もほどほどにやってくる。
今日もまたひとり――
「いらっしゃいま……」
午前一番の客を僕君が出迎える間もなく、一人の太った中年男はズカズカと店内に入ってくるやいなや、店の一番奥にあった簡易絞首台(そんなものまであるん
だね)のロープに手をかけた。
僕君は焦ったね。
「え!? あの! ……ちょっと待ってください!!!!」
男は両手にロープの輪をつかんだまま、じろりと僕君を一瞥する。
しどろもどろになりながら僕君はこう言った。
「え、えと、あの……お客さん! お代がまだです!!!」
すると男は懐から財布を取り出すとポイッと僕君に投げてよこした。
なかなかに厚みのある財布だったね。
「毎度。あ、お客さん、サービスで
財布を受け取った僕君は中身を数えながらレジへと向い――あとは、ご想像の通りだ。
◉
「おじいちゃん、さっき来たお客なんですけど……」
午後になって、出掛けていたタカカズさんが帰ってくると、僕君はそう言って店の奥をちらりと見た。
簡易絞首台には、先ほどの男が満足げにぶらぶらと首を吊っていた。
タカカズさんもちらりとそちらを見ると──
「……ああ、商品に『使用見本付き』って書いた札を下げておけ」
――と言って、すたすたと店の二階に上がってしまったもんだ。
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