第19話 翌朝
腕の中で祐希が身じろいだが、また規則正しい寝息を立て始める。
いつもの習慣から、早くに目醒めた南條だったが、しばらく前から見飽きず祐希の顔を眺めていた。
瞼を閉じた祐希の長い睫毛を撫で、薄く無防備に開いたふっくらとした唇をなぞり、額に掛かる艶やかな前髪を指先で整える。
いつもなら起床しすぐに軽く走りに行く所だが、祐希のいるベッドから離れられないでいた。 昨夜、やっとひとつになれた。自分の下で恥じらいながらも喘いでいた祐希を思い出すと、また昂りそうだ。
求められることには慣れていたが、まさか自分が1人の人間に、こんなに愛着を感じるようになるなんて、少し前の自分には考えられなかった。
ここに至るまでの自分の所業に考えが及ぶと、我ながら眉を顰めてしまう。
本気で人を好きになることもなく、言い寄られれば女でも男でも適当に付き合って抱いてきた。
そろそろそんな付き合い方にも厭気が差してきていた頃、重役の威光を傘に近付いてきた女に言い寄られた。
やむを得ず食事に付き合い、その際に知り合いに目撃され噂になってしまった。流されるまま、他人事のように結婚するのかもしれないと思っていたが、まさか会社を辞める状況になるとは思わなかった。
小さい頃から割と何でも手に入った。苦労知らずで生きてきた中での、初めての挫折だった。
だがそれも、今となっては祐希に出会うための布石だったのかもしれないと考える。
祐希は、最初、恋愛に消極的だった。それが過去の恋愛に因るものなのかもしれないと思うことがある。
祐希の心を傷付けた以前の恋人には、憎しみを感じるのと同じだけ、祐希を手放してくれて感謝をしている。
そして祐希にも。自分も好きだと言ってくれただけで、心が満たされ温かい気持ちになる。
ずっと一緒にいよう。もう離さない。
南條は、まだ夢の中にいる祐希を眩しそうに見つめ、その唇に触れるか触れないかのキスを落とした。
『プルプルプルプル』
昨夜居間に置いたままの携帯電話が鳴った。
「チッ、誰だよ。祐希さんが起きちゃうだろう」
南條は、静かに祐希の寝ているベッドを抜け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます