第12話 進展

 店を出て、南條が1台のタクシーを止めたあと、気付いたら南條の自宅マンションに一緒に来ていた。

 それ程酔っ払っていた訳ではない。自分も南條も嵐山では当たり障りなく会話していた。でも店を出た後、お互い別れの言葉は口にせず、当たり前のようにここにいたのだ。

 並んでエレベーターに乗り、南條が階数ボタンを操作する間もお互い無言だった。

 玄関に2人の身体が入った途端、先に入っていた南條が振り向いて祐希に覆い被さるように身体を包み込む。

 直後、鉄製の扉がガチャンと締まる音が響いた。

「南條さん?」

 廊下の明かりの入らなくなった玄関で、南條の顔を見ようと上向いた祐希の顔は、南條の両手で優しく包まれる。

「んっ」

 唇に南條の唇が押し付けられた。

冷たい頬を押さえる手は温かく、南條の唇はもっと温かい。

 南條の自宅に向かう途中、こうなることを期待する自分がいた。

 自分からも南條の顔を両手で挟み、唇が深く合わさるよう南條に一歩近づく。

 それに応えるように、唇のすき間から南條の熱い舌が祐希の唇を割って入ってきた。

 南條は口腔内の全てを舐めるかのように唇から喉の奥近くまで舌を這わせ、やがて祐希の舌と絡め合わせてくる。

 祐希も、南條の舌を夢中で追いかけ、やっと捕まえた南條の舌に舌で縋りついていった。

 狭い玄関で立ったまま、お互いの舌を味わうように深いキスを交わす。

「はぁ、んっ」

 息継ぎもままならない程の気持ち良いキスで、祐希の口から声が漏れる。

 唇だけでなくスラックスの下で硬くなったお互いの下肢同士が触れ合い、知らず腰を擦り付けていたようだ。

「祐希さん、煽ってるの?」

「え?」

 祐希は上向きのまま、離された唇を目で追う。いつの間にか、南條の手は祐希の腰にあった。

「腰、動いてる。ベッド行こうか」

 祐希が返事をする前に、手首を引かれて玄関から部屋の奥に向かう。

 真っ暗に見えた室内も、目が慣れると外からの灯りで薄っすら壁や家具の配置が見えた。

 南條は部屋に入るなり、自らの上着やネクタイをバザバサと椅子の背に脱ぎ捨てる。電気は付けないまま、寝室のベッドに祐希を促し座らせた。

 そうして、どうしたら良いかわからず座ったまま固まる祐希に屈み込んだ。

 また頬に優しい南條の手が触れ、もう片方の手で軽く押し倒される。

 さっきの南條の唇がまた与えられるのかと思うと、自らの口が南條を迎えに行った。

 南條がクスッと笑うのが気配で解る。

 変なことしちゃったかな?

 考えられたのはそこまでだった。

 祐希は、唇が触れた瞬間からその行為に夢中になっていくのが自分でもわかった。

 南條の唇が貪るように自分の唇と合わさり、さっきより強引に舌を絡めさせてくる。

 唾液が混ざり合い水音が官能を呼び覚ますと、深いキスをしたまま、祐希は来ていた上着のボタンを外し、肩から落としていた。そして自らのネクタイを外し南條のワイシャツのボタンに指を伸ばしたのだった。

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