第2話 最終電車

 雨宮祐希は、背にリュック姿で、駅の階段を1段飛ばしで駆け上がる。

 階段を上り切ったところで、虚しく本日最終電車の最後尾車両が走り去って行った。



「はぁ はぁ」

 膝に手を付き息を整えながら、どうしようかと途方に暮れる。

 いつもはこんな時間まで居残ることはない。今日は完全に時間配分を間違えた。

 普段は会社から歩いて10分の距離だが、運動不足ぎみの28歳には全力疾走がこたえる。


 上背のある若い男が、ホームの自販機で買ったコーヒーを屈んで取っていた。

 やっと膝の手を離して背を伸ばすことができた時、男も立ち上がるのが目に入る。

 男が振り向いた瞬間に目が合った。

 驚くほどに好みのタイプ、イケメンだ。

 すぐに目を逸らすが、男がふ、と表情を緩めた気がする。笑ったのか。

 カァッと顔が赤くなった気がして、慌てて背広の胸ポケットにある携帯電話を取り出し操作した。

「あ、諒。悪い、起きてたか?終電逃しちゃって。うん、今から行っていいか。うん。すぐ行く」

 高校大学と一緒だった梶山諒に電話が繋がるなり、身を翻して、今上がって来た階段を降り始める。会話は短く用件だけで通じた。助かる。

 何だ今の男。何で笑った?

 さっきの電車を降りたって事は、今後ろ歩いて着いて来てるのかと思うと背中が緊張する。

 あえて違う事を考えるなら、今日は朝から散々だった。

 朝、夢見が最悪だった上に、仕事ではアポがリスケとなり、普段しないミスをした。結果この時間だ。

 改札を出る時、気になっていた後ろをさりげなく見る。

 違う改札から出る男の後ろ姿が見えて、何故だかホッとした。

 気を取り直し、コンビニで歯ブラシと下着買って行かないと、と近くのコンビニに向かって歩いて行った。

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