第9話
王宮で私の事を相当に好き勝手言ってくれたルルナ。
そんな彼女が今、私の前にその姿を現した。
「お久しぶりですねお姉様。あぁ、もうお姉様じゃないから元お姉様ね。お兄様から捨てられてからの生活はいかがですか?みじめで仕方がないですか?」
最後に彼女と会ったのは確か、あの婚約式典の前日だっただろうか。
それからしばらくの時間が経過したものの、その嫌味たらしい口調はあれから全く変わっておらず、ここが王宮でなくともその様子は全く変わらないらしい。
「あなたが追い出してくれたおかげで、私はここで自由にやっているわ。ご心配なく」
「まぁ、こんな安っぽいお店で一体何が楽しいというのですか?意地になってそんなことを言っても何にもなりませんよ?少しは自分の負けというものを認められたらいかがですか?」
ルルナはあえて私の神経を逆なでするような雰囲気で、そう言葉を発する。
そんな彼女の様子を後ろから見ていたお父様が、そっと小さな声で私にこうつぶやいた。
「…なぁアリシラ、あの子一体どういうつもりなんだ?ノラン第一王子様の妹だという事は知っているが、こんなところまでわざわざ何をしに来たんだ?」
「さぁ…。王宮で暮らす方ですからお忙しい事とは思いますが、意外とそうでもなのかもしれませんね…」
「うーむ…。王族の人間にもいろいろとあるのだなぁ…」
お父様はルルナの嫌味な言葉を聞いていながらも、その内容をあまり気にしているような様子はなかった。
むしろ彼女の言葉を的確に聞き流し、どこか彼女の事を
「それに、なにこの大きな穴。こんな状態にしておいて恥ずかしくないだなんて、もはや品性を疑う人種だわ」
さきほどルピアが炎で燃やし尽くした天井の穴を見て、ルルナはそう言った。
ただ、それに関しては完全に向こうの言い分の方が正しいのかもしれない。
私たちはルルナのその言葉に反論をすることはせず、そのまま静かに彼女の続きの言葉を待った。
「…ねぇ、何その小汚い動物。
「「…?」」
するとその時、ルルナは私たちの横に座り込んでいたルピアの事に気づいたのか、刺々しい口調でそう言葉を発した。
「小汚い?そんなことないでしょう?」
「汚いじゃない。だってこんなところにいる動物でしょう?私たちみたいに崇高な王宮で暮らしているのならまだしも、こんな場所に綺麗な動物がいるわけがないじゃない。元お姉様たちとつるんでいるところを見るに、どうせ大した存在でもないのでしょう?見ているだけでイライラしてくるわ」
「「…」」
…どうやらルルナはかなり大きな勘違いをしている…。
さっきあなたが言及した天井の穴は、他でもないこの子の能力によって開けられたという事に…。
「やっぱり汚いものは汚いもの同士で集まるのね。まぁお似合いと言えばお似合いなんじゃないかしら?」
「えっと…。わざわざそんなことを言いに来たの?」
「あぁ、あまりに可哀そうな光景すぎて忘れていたわ。今日は元お姉様にプレゼントを持ってきたのよ♪」
ルルナはなぜか嬉しそうな表情を浮かべながら、自身の懐からあるものを取り出した。
小さな木箱に納められたその物に、私は見覚えがあった。
「あ、それって…」
「そう、お兄様と元お姉様が婚約式にあたって誓いを立てられた、愛のペンダントです」
お互いに相手に対する愛の誓いを言ったのち、私たちはこのペンダントを交換し合った。
この先なにか悩むことやうまく行かないことがあったなら、そのペンダントに刻まれたお互いの名前を見つめることで、どんな苦難をも乗り越えようという意味で作られたもの。
でもそれはただのアピールにすぎず、結局は周りに対する演出の一環でしかなかった。
「元お姉様、正直に言ってみてください?あなたはまだこのペンダントが生きていることに望みを託していたのでしょう?これが残っている限り、まだお兄様との関係は正式に切られたわけではない、だからまだ挽回できるチャンスはある、と」
「……」
…言われるまでその存在を完全に忘れてしまっていた。
でも今の私にしてみれば、むしろそれが残っていることの方がまだ関係が続いているみたいでいやだから、早く処分してくれた方がうれしいのだけれど…。
「ほら!何も言えない!図星なのでしょう!でも残念でした!そんな元お姉様の儚い願いはここに消滅させていただきますわ!」
「まぁ」
ルルナはそう言葉を発すると、その場で床に向けてペンダントを力強く叩きつけた。
無論、外側も内側ももろい存在でしかなかったペンダントはその場で粉々に粉砕することとなり、同時にその存在は永遠に失われる。
「残念でした、これでもう完全にお兄様との関係はおしまいです♪」
「(いやむしろ、助かったわ…。それを残したまま追い出されていたから、後からなにか文句を言われても嫌だったし…)」
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