第7話
「しかし、すさまじいほど恐ろしい存在だと形容される神聖獣がまさか、このような愛らしい姿をしているとは…」
「むぁーーご」
私とお父様はその場に座り込み、空洞となった天井に視線を向けたままでいる。
一方、ルピアは私の膝の上であくびをしながら、完全にリラックスした雰囲気でくつろいでいる。
自分が穴をあけた天井の事など、完全に気にも留めていないといった様子…。
けれど私には、ルピアがこの行動を見せたのはその前に話をしていた私たちの方に理由があるのではないかと考えた。
「…ねぇルピア、もしかして私とお父様がマッチの話をしていたから、炎を起こしてくれたの?」
「え?そ、そうなの…??」
私の言葉を聞いたお父様は、まさかといった表情を浮かべてルピアの方に視線を移す。
そしたらルピアは、かなりうれしそうな表情を浮かべながら私の方に自身の顔を差し出し、なにやら頭をなでてほしそうな雰囲気を
私はそんなルピアの誘いに答えるかのように、とりあえずそのまま差し出された頭を撫でてみる。
「みゃごろがぁーー♪♪♪」
「これがいいの??」
「みぇらごーーーー♪♪♪」
するとルピアは、明らかにうれしそうで気持ちよさそうな表情を浮かべる。
…どうやら私の考えは当たっていた様子…。
「やっぱりそうですよお父様、ルピアは私たちの役に立つと思って炎を起こしたんじゃないでしょうか?」
「にわかには信じられないけど…。でも現実に起こったことだしなぁ…。炎を吐く生き物なんてこの世界にはいないだろうし…。でもいるとしたら伝説上の神聖獣くらいだろうし…。にしてもこんな可愛い子が神聖獣などとは…」
お父様は再び先ほど持っていた本を手に取ると、そのままその内容を読みあさっていく。
その内容は私も気になるところではあるけれど、膝のうえにルピアが乗ってしまっているために体を動かすことができないので、とりあえず適当にルピアに言葉をかけてみることにする。
「ルピア、あなたは神聖獣なの?」
「むぁーご(首こくり)」
「それじゃあルピア、あなたはどこから来たの?」
「むぅあーー(首ごそごそ)」
「(あっちの方、って言ってるのかな?まぁどっちにしてもそれだけじゃわからないけれど…)」
直接的にルピアの言っていることが理解できているわけではないけれど、うっすらとこの子が言わんとすることは読み取れる気がする私。
ルピアもおそらく私たち人間の会話を理解できている様子で、その雰囲気は完全に私たちの事を相手にコミュニケーションをとっているようにしか感じられない。
「ねぇルピア、あなたはどうしてここに来てくれたの?」
先ほどまでに続けて、そう質問を投げかけた私。
するとルピアは、それまでとはかなり違った雰囲気で私に答えた。
「みゃーお!みゃーお!」
ルピアはそう声を発しながら、自身の右手で私の体をポンポンとたたく。
「…私??私に会いに来てくれたの??」
「みゃーお♪♪♪」
私に意志が通じたことがうれしいのか、ルピアはかなりご機嫌な表情を浮かべる。
この子ははるばる私に会いに来てくれたという。
こんなかわいらしい子からそんなことを言われて、うれしくないはずがない。
「ありがとうルピア!あなたみたいなかわいい子に会えて、私もうれしい!」
私は思わずそう言葉をかけると、膝の上でくつろいでいたルピアの体を両手で抱き上げ、そのまま胸の中に抱きしめる。
こういった体つきはやっぱり猫のようにしか感じられないけれど、正直もう私にはルピアの種族がなんであろうとどうでもよくなっていた。
だってこんなにかわいいのだから!
「アリシラ、かなりご機嫌だね…。そんな表情はノラン第一王子との婚約式典の場でも見せなかった気がするが?」
お父様は私の事をからかっているのか、やや笑みを浮かべながらそう言葉を発する。
「だってこんなにかわいいんだもの。ノラン第一王子様よりもうんと愛らしいわ」
「やれやれ…。この国に住む女性でノラン様にそこまでの事が言えるのは、お前くらいだろうなぁ…」
呆れたような雰囲気を見せるお父様だけれど、その様子は決して私の事を悲観しているそれではなく、むしろ私の事を誇らしく思っているようなものだった。
「私はただ正直なだけですよ、お父様」
私はお父様に対してそう言葉を返した。
しかしその時、私の言葉に対してお父様ではない人物の声を伴ってこう言葉が返ってきた。
「あらまぁ、ノラン第一王子様に追放された身分だというのに、随分とご機嫌な様子ですね。しかもノラン様よりもそんな獣の方がましですって?それをノラン様にご報告したらどうなるかしらね?♪」
…嫌味たらしい口調で突然私たちのお店の中に入ってきた人物、それはノラン第一王子の妹である、ルルナだった。
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