第6話

「こ、この子は一体…?」


入り口のそばにいたのは、それはそれは可愛らしい姿の猫ちゃんだった。

…でも、よく見るとその体は猫のそれとは違っているような…?


「にゃーーーご!!!」

「きゃっ!」


するとその時、私と目が合った猫ちゃんはいきなり私に向かって飛びついてくる態勢を取り、私はそのまま猫ちゃんをおなかの上に抱きかかえる形になりながら押し倒されてしまう。

ただ、この子の体重があまり重くはなかったからか、倒れた時の痛みは全く感じられなかった。


「お、おいアリシラ、大丈夫か??」

「だ、大丈夫大丈夫」


急に入り口の前で倒れる形になった私の事を心配してか、様子を見守っていたお父様がそう言葉を発しながら私の元まで駆け寄ってくる。

そして、私のおなかの上に座り込む猫ちゃんの姿を視界にとらえた後、お父様はやや驚きの表情を浮かべながらこう言葉を発した。


「あ、あれ…?この子、なんだかまるで…」

「お父様?どうかしたの??」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」


お父様はそう言うと、さっきまで私に見せていた神聖獣について書かれた本を急いで取りに戻り、そのままその場でささっとページを開いて中を確認していく。

そしてあるページを開いて止まると、そのままそこに書かれている言葉を読み上げた。


「えっと…。右目に赤い瞳、左目に青い瞳を持つ圧倒的な殺気を放つ存在であり、その全身をまとう茶色の毛皮は何人も寄せ付けないオーラを感じさせる…。口の中に控える獰猛な牙は、いかなる生命をも蹂躙じゅうりんすることであろう。この存在を見た者、決してこの神聖獣に近づくことなかれ…。って、これってそのままこの子の見た目そのままなんだが…」

「へ??」


左右で違う色の瞳、いわゆるオッドアイというやつなのだろうか?

確かに非常に珍しいものを持っている事は確かなのだろうけれど、だからってこの子が神聖獣だと言うにはあまりにも総計な気がしてならないような…。

とは思うものの、確かにこの子にはただの猫とは違っているような様子があるのも事実…。


「…この子、見た目は猫ちゃんに似てるけど少し違ってるよね…?目つきは猫ちゃんほど鋭くないし、体は猫ちゃんよりも大きいし…。でも体の大きさの割には体重を感じさせないし、なんだか不思議な感じ…」

「ねぇアリシラ、この本によるとこの子の名前は”ルピア”って言うらしい。呼びかけてみたら答えるんじゃないか?」

「えぇ?そんなまさか…」


…とは言いつつも、もしもルピアって名前を呼んで振り返ってくれたらうれしいなと思う私。

私は倒された態勢のまま体を起こすことはせず、おなかの上に乗るこの子の顔を見つめながら、試しにその名前を呼んでみることにした。

ただ、何を言ってもリアクションを見せてくれる可能性があるから、最初はあえて違う名前で様子を見てみることにする。


「マリアちゃーん」

「……」

「セレナちゃーん」

「……」

「クロちゃーん」

「……」

「ルピアちゃーん」

「!!!!!」

「ひゃっ!?」


他の名前には一切反応を見せていなかったのに、ルピアと言う名前を呼んだ途端、全身を震わせて尻尾を突き上げ、かなりうれしそうな雰囲気を見せ始める。


「…ルピア?あなたの名前はルピアなの?」

「♪♪♪」


すると、今度は分かりやすく私の言葉に対して首を縦に振り、肯定の意思を示してくれる。

…どうやら、お父様の見つけてきた本の記述は正しいらしい…。


「ほ、ほらやっぱりそうじゃないかアリシラ…!!この子は神聖獣だ!!大発見だ!!」

「で、でもお父様、先ほどまでは神聖獣は信じられないほど恐ろしい見た目をしている存在だって…」

「ま、まぁそれは…確かにそう言ったけど…」

「この子、恐ろしいどころか可愛らしくてたまらない見た目をしているのですけれど…。ほ、本当に神聖獣なのでしょうか??」

「…も、もしかしたら親戚とか?」

「う、うーーん……」


本に書かれた見た目と、そこにあった名前に反応してくれたという点以外、正直この子が神聖獣だなんてとても信じられない今の状況。

…とは言ってもこれ以上この話を続けてもなにも進まないと思った私は、そのまま視線をルピアからお店の天井に移してみる。

すると、オイルの切れたランプがつるされているのが目に入った。


「…そういえばお父様、新しいマッチを買い出しに行かないといけないのではなかったですか?」

「あぁそうだ…。ストックが切らしてたんだ…。また忘れてたよ…」

「もう、お父様ったら…。私がいつも言って」

「みゃーーご!!!!!!!!」

「「っ!?!?」」


…その時、ルピアはいきなりランプの方に視線を移すと、そのまま可愛らしい口を開けて何かなき声をつぶやく。

するとその刹那、その口からまばゆい輝きを放つ火炎が直線状に放たれ、一瞬のうちにお店の天井を貫いてその周囲を焼き尽くし、ランプがあった場所にはぽっかりと大きな穴があけられた……。


「「……」」

「♪♪」

「「……」」

「♪♪」

「「(絶対本物の神聖獣だ、この子!!!!!!)」」


…私とお父様は穴の開いた天井を口をあんぐりと開けた表情を浮かべながら、互いに心の中で同時にそう言葉を叫んだのだった…。

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