第4話
「そ、それはそうとお父様、神聖獣とは一体どのような存在なのですか??まだまだ未熟な僕にはとても理解ができない存在なのですが…」
ノランはこの場における空気を変えようと思ったのか、先ほどグライスの発した神聖獣というものについて深堀りをしようと試みた。
グライスはそんなノランの雰囲気にややいぶかしさを感じながらも、そのまま自身の言葉で説明に移る。
「神聖獣は、この王宮に代々伝えられている古文書に記載されている幻の存在だとも。その姿はかなり抽象的にしか描かれていないため、どんな見た目をしているのかはっきりとしたことは分からない。しかし、その能力たるやすさまじいものであり、記述によれば天候を操る力であったり、大地を揺らすほどの大きな力であったり、果ては人間の心を操る力をも宿しているとされている存在だ」
「……」
突然にグライスから告げられた言葉を聞いて、なかなかその内容が受け入れられない様子のノラン。
それもそのはず、彼の知るグライスと言う男は、幻想や伝説といった類の話が大嫌いであり、極めて現実主義的な考えを持ち続けてきた人物だからだ。
…それゆえにノランは最初、神聖獣なる存在の話をするグライスの事を、なにかの冗談だと思っていたのだった。
しかしその雰囲気は冗談を話しているそれではなく、グライスは本気でそう言葉を発しているのだという事を察したため、ノランはグライスが適当な事を言っているわけではないのだと理解した。
「…どうしたノラン?まだ話の途中だが、なにか言いたいことでもあるのか?」
「い、いえいえ、そのような事は…」
「ノラン、だからこそお前が婚約者に置いたアリシラの存在価値は非常に大きい。彼女の体に流れる聖女の血があれば、これまで眠っていた神聖獣たちを呼び起こし、その力を我々のものとすることが出来るのだ…。これこそまさに、私が最初から狙っていた状況に他ならない…。これほどまでにうまく行くとは思ってもいなかったが、これが現実なのだから…」
「……」
非常にシリアスな表情でそう言葉を口にするグライス。
しかし一方、その言葉を聞くノランは今だ懐疑的な視線を向けていた。
「(ほ、本気でお父様はそう言っているのか…?その雰囲気を見る限り、やっぱり冗談を言っているような感じではなさそうだけれど…。そんなおとぎ話の世界のような存在の事を、現実に存在するものだと思って言っているのか…?)」
心の中でそう言葉をつぶやくノランだったものの、それをそのままグライスに対して告げる勇気など彼にあろうはずもない。
ノランはひとまずグライスの言葉をそのまま流すことにし、この場を適当に終わらせる方向にかじを切っていく。
「そ、それはすごいですね…。本当に存在するというのなら、この目で姿を見てみたいものです…」
「おそらく、すさまじいほど恐ろしい見た目をしているのだろうな。王都から少し外れた場所に大きなクレーターがあるのを知っているな?古文書の記述によれば、あのクレーターもまた神聖獣によって生み出されたものだという。…あの大きさと深さから考えれば、その体もまたかなり大きなものであろう…。それこそ、聖女の存在がなければとても人間には扱えないほどの…」
想像を絶するほどの能力を有しているという記述から、きっと自分たちには想像もできないほど恐ろしい見た目をしているのだろうと考えを膨らませるグライス。
しかし現実に存在する神聖獣はその想像とは正反対であり、非常に愛らしい見た目をしているということを、彼は後にその目で見ることとなる。
「それゆえにノラン、絶対にアリシラの存在を手放すんじゃないぞ?」
「も、もちろんです…!」
「もしも、もしもお前が勝手な判断でアリシラの事を追い出そうなどと考えたなら、その時はこの私と対立することになるものと心せよ」
「し、心配しすぎですよお父様…。ぼ、僕がそんなことするはずがないじゃないですか…」
やや震え声になりながら、グライスに対してそう言葉を返すノラン。
権力の上では第一王子であるノランの方が上ではあるのだが、実質的にこの国を支配しているのは国王たるグライスが実際の所であり、やはりノランがグライスに歯向かえる筋合いは全くなかった。
しかしこの時、ノランはこの状況をあまり深くは考えていなかった。
「(仕方ない…。お父様にここまで睨まれてしまっているのなら、婚約破棄は中止にするほかないな…。ま、まぁ婚約の証として交換したペンダントはまだ残っているのだから、何も問題はないことだろう…。適当なタイミングを見計らって処分するつもりだったのだが、あれを提示すればいつでも婚約破棄を撤回できるからな…)」
2人が婚約の
一方的にアリシラの事を追い出したため、そのいずれも今はノランの手元にあった。
あれが生きているうちはノランの好きなタイミングで婚約破棄を撤回することが出来るルールであるため、この時ノランはあまり事態を深刻にはとらえていないのだった。
…しかし、彼は後に知ることとなる。
この時すでにそのペンダントは、自身の部屋から持ち出されていたという事を…。
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