第3話

「国王様…。話とは一体何だろうな…」


グライス国王の待つ部屋を目指して歩きながら、ノランはぼそっと一言そう言葉をつぶやいた。

それもそのはず、ノランの中ではグライスに呼び出されるような理由が何も思い浮かばないためだ。


「王室の今後に関する話だろうか…?それとも貴族家の連中との関係についての話…?分からないな…」


…この状況で呼び出されるなど、どう考えてもアリシラとのことに決まっているというのに、ノランの中ではすでにアリシラとの関係はすでに終わったもののようにとらえていた様子だった。

しかしそれはまだ終わりではなく、むしろこれからが本番であるという事を、ノランはこれからグライスによって思い知らされることとなるのだった…。


――――


コンコンコン

「ノランです、グライスお父様」

「おぉ、来たか。まぁ早く入れ」

「失礼します」


ノランにとって国王の部屋を訪れるのは、決してこれが初めてというわけではない。

しかし、今日のグライスの雰囲気はこれまでの彼の雰囲気とはかなり違ったもののように感じ取れた。


「(…お父様、なんだかすごく機嫌がよさそうな口ぶりだな…。これはやはり、なにかうれしいことがあったから僕の事を呼び出したんだろう。僕の思った通りだ♪)」


自分が呼び出された理由が、怒られるためではなくうれしい報告をされるためであると読み取ったノラン。

その雰囲気を見て取ったためか、ノラン自身もまた機嫌を良いものとし、来た時よりも明るい雰囲気でグライスの待つ扉の部屋を開け放つ。


「ノラン、喜べ。お前にとって一番うれしいであろうことが判明したんだ」

「ぼ、僕が一番うれしい事ですか??」


グライスはノランの事を視界にとらえるや否や、非常にうれしそうな表情でそう言葉を発する。

ノランはグライスが一体何を言いたいのかをまだ察せていなかったものの、その雰囲気からなにも悪い事ではないのだろうと思い至り、その心を一段と軽くする。


「なんでしょう…。お父様からこういった言葉をかけていただいたことがあまりないので、なかなか想像ができないですね…」

「決まっているだろう、アリシラに関することだ」

「…?」


アリシラ、その名前がグライスの口から出てきた途端、ノランはややその表情を険しくする。

それもそのはず、ノランの中ではアリシラとの関係はすでに終わったものとなっており、彼女に関するどのような話をこの場で告げられようとも、自分にはもう関係のない話だと思ったためだ。

ノランはやれやれといった雰囲気を発しながら、グライスに対して事実の説明をしにかかる。


「あ、あの…お父様?実は僕はもうアリシラとは…」

「まぁ聞けノラン。私がずっと言っていた聖女の血を引くものの力、その正体がようやく分かったのだ」

「!?!?」


…その時、それまでやれやれという雰囲気を見せていたノランの姿が一変、やや血の気が引いたような表情を浮かべる…。


「…なんだノラン、どうした?」

「い、いえ…。べ、別になにも……」

「……」


しかし、そんなノランの様子の変化をグライスは一瞬にして見抜いた。


「…お前、私に何か隠しているのか?」

「い、いえ!そ、そのようなことな断じて!!」

「…まさかとは思うが、お前、アリシラとの婚約関係はすでに破綻している、などと言うんじゃないだろうな?」

「っ!?!?!?」


…的確に自分の心を読まれてしまったノランは、分かりやすく動揺した表情を浮かべる。

この部屋を訪れる前にノランが恐れていた光景、それが現実のものとなっていく…。


「…ノラン、お前この私に黙って勝手なことをしたというのなら、どうなるか分かっているだろうな?」

「だ、大丈夫ですお父様!!信じていただきたい!!」


…そう、それまで上機嫌だったグライスの雰囲気は非常に珍しいものであり、本来の彼は国王として非常に厳格で、時に接するものに対して恐ろしささえ感じさせるオーラが、本来のグライスなのだ。

ノランはそれを知っているからこそ、こうなることを非常に恐れていたのだった…。


「アリシラに聖女としての血が流れていることは、この私が明らかにしたことなのだ。そしてその力は、”ある神聖獣”をなつかせるものだと言われていることも判明した。…しかしお前、まさかここに来てアリシラの事を追放などして、私の思いと考えを無にしたというのではないだろうな?」

「ぜ、絶対にそのような事はありません!!そ、それにしてもまさかアリシラにそんな力があったなどと!!さすがはお父様です!!この僕にはとても想像もできなかったことです!!感謝しかございません!!」

「……」


必死に状況を取りつくろい、アリシラを追放したという事実をひた隠しにするノラン。

…その表情は、この場に訪れた時のウキウキとしたものとは完全に正反対のものになっていたのだった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る