第2話 ごめんなさいの瞬き
私の前に座っている彼は、見るからに好青年だった。
歳は私より三つ年上。
高校の先輩だ。
彼が卒業して私が入ったから、ギリかぶっていない。
この辺りは見合いイコール結婚だ。
まだまだ家どうしだとか、親が決めるという結婚も多い。
そもそも恋愛結婚と言ったって、大抵は同級生同士でくっつくパターンばかりだ。
だから披露宴でも、新郎側と新婦側の来賓の区別が付かない。
二次会などは、いつものメンバーでの飲み会と変わらない。
都会に行けば、二次会で出会いが生まれるなんてことがあるらしいが、この辺ではみんな顔見知りだから、二次会でくっ付くなんて、この辺では皆無だ。
この見合いは、完璧だ。
彼は市役所に勤めていて、実家は造り酒屋。
でも次男だから、造り酒屋を継ぐことはない。
親の援助で家を建ててくれるらしい。
顔もタイプだし、性格も良さそうだ。
よく結婚すると豹変して、過度な実家思考になったり、マザコンだったことが発覚したりするが、この人なら大丈夫だろうと思える。
そもそも全く知らない人でもない。
親同士が知り合いだし、何度か会ったこともある。
この状況で未来に不幸があると言うなら、よその見合いの大半は不幸になるだろうくらいのレベルだ。
私には入社以来世話になった先輩がいる。
彼はとても温厚で、本当に良い人だ。
ただ良い人過ぎて、恋愛には向かない。
私も一時期心を開いていた。
奥手で、何も言ってこない。
でもそういう所も私にとっては、好感が持てるところだった。
好きだったのかと言われると、よく分からない。
でもこの人となら幸せになれるかもしれないと思っていた。
いつも別れ際、後ろの走る先輩にハザード二回で(お疲れ様)と合図をしていた。
でももしかしたら(愛してると)言っていたのかもしれない。
でも今、私は見合いをしている。
見合い相手の彼は、結婚相手としては申し分ない。
おそらくこの人と結婚しなかったら、これ以上の人には出会えないだろうと思う。
家同士の関係性もある。
世間体も、経済状態も、子育ても完璧だ。
唯一問題があるとすれば、この人は消防団の役員をしている。市役所勤めと言うこともあり、その活動が多いかもしれない。
でもそれだけだ。
こんなに完璧な結婚はない。
職場の先輩には悪いけれど、あなたと比べたら、私はこの人を選んでしまいます。
でもあいつは私がいなければ生きてゆけない。
あいつは今も東京の片隅で息も絶え絶えに生きている。
私は見合い相手の彼に瞬きをしてしまう。
きっとそれは。
(ごめんなさい)の意味だ。
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