おでん食べてから宿題やるよ

おらしおん

1.玉子


『おでん売り始めました』

 いつの間にか10月になり、急に空気が冷たくなってきた今日、駅直結のコンビニにそんな看板が出ていた。


「あぁ、もうそんな季節か。早いな。」


 静(セイ)は誰にも届かないほど小さな声で呟いた。18時過ぎに退社、45分程満員電車で押しつぶされてもうすぐ19時。


 空はもう真っ暗で、少しだけ雲が出ていた。家に向かって歩いていると、雨粒が頬を濡らした気がした。静はふと空を見上げるとそこには十三夜の月が出ていた。でも久しぶりに見たその月を、静は綺麗だとは思えなかった。


「今年は方月見か。」

 

 また、ぼそりと呟いた。


 静は幼い頃、お星様やお月様が大好きだった。自ら本を読む子どもではなかったが、宇宙の図鑑だけはお気に入りだったのだ。それは成長しても変わらず、高校では天文部に所属していた。


十三夜の月… 十三夜は新月から数えて13日目なので、満月には少し欠ける月。十三夜の月は十五夜の次に美しいとされている。


方月見… 十五夜または十三夜のどちらか一方しか月見をしないこと。片方しか見ない場合は、縁起が悪いとされている。


 いつから夜空を眺めなくなったのだろう。静はふと、そんな風に考えて

”大人になってから”だと結論づけた。

 

 今日はまだ火曜日。疲れは溜まってきているのに、休日までまだ半分以上ある火曜日。静の1番嫌いな曜日。


 すり減っていくことしかない一度きりの寿命を、ただ淡々と消費していく日々。

 でも、そんな生活ももうすぐ終わる。


私が死ぬまで後半年_

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