天使と悪魔のスクランブル

ヘイ

第1話 鵜戸宮古は天使と悪魔に悩まされる

 

 学校には悪魔と天使が居る。

 

 悪魔は最悪だ。天使も最悪だ。

 何せ、巻き込まれてる俺が言うんだから間違いない。悪魔は俺のあることないことを言いふらすし、天使も俺のある事ない事を言いふらす。

 何だろう、どっちも変わんないような。

 

「今日も妹ちゃんのパンツを見て、朝から興奮してるんですか〜?」

「おい、俺を変態の枠組みに入れようとすんな。お前のせいで他の奴らに揶揄われてんだよ」

 

 悪魔のような少女、小泉こいずみ千春ちはるは今日も今日とて俺の事を揶揄うだろう。

 

「妹に欲情する変態だの、女子更衣室にカメラ仕掛けてるだの。散々好き勝手やりやがって……!」

「えー、でも私だけは離れませんよ?」

「とんでもねぇマッチポンプやっといて舐めてんのか。流石にお仕置きが必要だと思うんだ、俺も」

 

 このまま放置しても悪化するだけだ。

 

「な、DVですか? で、出るとこ出ますよ?」

「俺とお前はまだ家族じゃねぇからな?」

「へぇ……まだ、ですか」

「すまん。一生家族じゃないの間違いだ」

「何でですかー!」

 

 悪魔な癖に押し掛け女房みたいな事をしてくるから。俺と妹の朝飯と弁当まで用意するから、何か家族っぽい気がしなくもないから。

 

「私の事を何だと……」

「俺と妹に飯を作ってくれる都合の良い女」

「ぶっ飛ばしますよ?」

「オイオイ、俺に勝てると思ってんのか?」

「あ、間違えました。社会的に殺します」

 

 俺がそんなのに屈するとでも?

 

「あの、それだけはやめてください」

 

 当たり前に屈するんだよなぁ。美少女とただの男の俺の言い分なら、どう考えても美少女が勝つんだし。

 情報戦になったら勝ち目なさすぎる。

 

「大丈夫です。私だけは味方なので」

「ダメだ……一瞬でもそれでいっかって思いかけた。俺は末期なのかもしれねぇ」

「良いでしょうが、別にっ!」

「良くねぇよ?」

 

 何なんだろう、コイツは。

 何が目的か。

 いや、多分だけど分かりはするんだ。何かそれを言葉にするのは小っ恥ずかしいから言わないけど。だから、確かめる事もしないけど。

 

「────いい加減にしなさい、小泉さん」

 

 慈母のような声が聞こえたかと思うと、千春は俺の後ろにサッと隠れた。

 

「おい、何で隠れるんだよ」

 

 千春が「いや、私この人のこと苦手で」と小声で答える。

 

鵜戸うどさんも困ってますし」

「そ、それは天津神あまつかさんが決めることじゃありませんし」

 

 何言ってんだコイツ。

 困ってるのは誰の目から見ても明白よ。

 

「まあ、小泉さんのホラ吹きは意味はないのですがね。私がしっかりと鵜戸さんの素晴らしさをお伝えしてるのですからっ!」

 

 コイツもヤバいのはそうだったよ。

 恍惚とした表情浮かべてるの見ると、頭ぶっ飛んでるのはこっちの天津神かなえの方な気がする。

 

「……それはどうもです」

 

 その話、すっごい有難迷惑でもあるんですけどね。貴女が俺を善人フィルターかけまくって伝えるせいで、そう動かなきゃならない気がしてしょうがないと言いますか。

 小泉の確かめれば嘘だったと分かる程度の悪意ある吹聴を掻き消すのに、ハードル高すぎる善行をしてるって語るのもどうかと思うの。

 

「クソッ、負けてらんないっ!」

「お前は黙れ」

 

 何に対抗意識燃やしてんのかな。

 

「そうですか。貴女が鵜戸さんを悪く言うなら、私は更に鵜戸さんの素晴らしさを皆さんに伝え聞かせなくては」

 

 頼むからやめてください。

 

「ど、どーせ、天津神さんは宮古みやこ先輩の日常生活知らないでしょーっ」

「知ってますけど?」

「い、家での事知らないでしょ!」

「知ってますけど」

 

 堂々とした顔で答えんのは怖いって。

 

「毎朝六時に目を覚まし、優雅な朝食。登校時は困った人を助けながら。それでいて自身も遅刻などする事なく……なんて素晴らしい人なんでしょうか!」

「誰だろ、それ」

 

 知らない人の一日ですね。

 

「そして学校では────────」

 

 演劇みたいに語り出しのを見ていた俺の制服の袖を千春が引っ張る。

 

「宮古先輩、行きましょ」

「おう、そうだな」

 

 

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