第23話 決意
「勝者、レオナルド選手!」
実況のアナウンスとともに試合の終わりが告げられる。
観客の歓声がやりやまない。
今大会1の盛り上がりだ。
さすがのレオナルドも少し疲労が見える。
クノウもあと一歩のところまでいったが、身体の限界が先に来た様子だ。
クノウが勝っていた世界線も充分にあり得るいい試合だった。
入学して間もないってのに、成績優秀者ってのはあそこまで実力があるものなのか?それとも俺らの世代が例外なだけなのか。
だけど、他人のことを気にしている暇は今の俺にはない。
お嬢かレオナルド、次の俺の対戦相手だ。
どちらにせよ、激闘は免れない。
俺も気を引き締めなおさないといけないな。
―観客席①―
「これでこの大会で誰が一番か分かりましたね」
観客席にいるレイリーが告げる。
「大会はまだ終わってねえよ?」
近くにいる風間 風助が釘を刺す。
「誰があれを倒せるんだ?相手の実力も相当なものだ。それに打ち勝つ奴の強さ。今後の統合戦はやはり奴が肝」
「そうね。あの主席君が肝なのは間違いないわね」
隣にいる水炎寺 波流渦も同意見を述べる。
「でも…」
言葉を続けようとするが、レイリーが遮る。
「何度も言いますがお嬢様。あいつを過剰評価しすぎです。あの試合を見てもなお、あの男に勝機があるとお思いで?」
「確かにレイリーが言うことも正しいわ。でも彼と戦うのが誰かなんて、まだ決まってないわ」
「迅にはあの公爵家様との試合が残ってるからな」
風間は先延ばしにされた試合のことを明言する。
「公家院様が試合に出られると思っているのか?貴様は」
「その時になってみないと分からないってことだぜ」
「さすがにそれは望みすぎだ」
「そうかねえ」
2人の会話を聞いた水炎寺は口を開く。
「あの子が戻ってきたら…って考えはあるわ。…でも可能性は低いわね」
希望はあるものの、現実的な事実から目を背けることはできない。
「次の試合が事実上の決勝戦になるでしょう」
レイリーはもう次の試合を見据えていた。
ー観客席②ー
「ブラボー!」
観客席にいる2年生、今井 翔は先ほどの試合を手放しで褒める。
「ほんっとに今年の1年生はすごいわね」
隣にいる本城 楓も思わず称賛の声をあげる。
「いいねぇ、こんだけ盛り上げてくれるなら学園側も様々でしょ」
「あんたはどの目線で語ってるのよ…」
「まあまあ、これが先輩風ってことよ」
「それ、意味あってないからね」
呆れる本城に対して、ニコニコで話す今井。
「俺らの年代より明らかにレベルが違うだろ」
「私たちは少数精鋭っていう方が適切よ」
「俺とか?」
「…あながち否定できないのもむかつくわね」
「俺が最強ってことで」
「あの主席君に勝てるのかしら?」
「そんなの無理に決まってんじゃん。聞かなくても分かるだろ」
急に真顔で諭す今井に殺意を覚える本城。
「…あんったねぇ…」
沸々と怒りを抑えきれない本城。
爆発寸前のところで…、
「楓ちゃんじゃん」
「あいかわらず今井の御守り?」
2年生のクラスメイト達が声をかける。
「…うん、そうなの。こいつ何するか分かんないからね」
さっきまでの怒った顔とは違い、ニコッと笑いながらクラスメイト達に返事をする。
「…怪獣二百面相」
ボソッと放った言葉は、しっかりと本城の耳に届いている。
「…あんたあとで覚えときなさいよ」
今井はこのあと起こる事象に身震いするのであった。
ー現在ー
先ほどにレオナルドVSクノウの戦いから少し経ち…
「…お嬢の様子はどうですか?」
救護室にいる俺、黒崎 迅は目の前で未だ寝ているお嬢、公家院 華の様子をうかがう。
近くにいた梅野先生は少し考えながら話す。
「うーん、今のところ目覚める気配はないわね。身体的には特に問題ないのだけどね」
「そうですか…」
俺は、お嬢を見ながら返答する。
「そういえば、次は貴方たちの試合だったわね」
梅野先生は次の試合のことを気にして問う。
「そうですね。でも、これじゃあお嬢は出場できません」
「たしかに。どうするんでしょうね」
「そのことで相談しに来たよ~」
聞き覚えのある話し方に振り返るとさっきまで解説席にいた佐々木先生が立っていた。
「あら、歪ちゃんじゃない」
「こんにちわ~梅野先生~。黒崎くんも~」
「どうしたんですか?こんなところに」
梅野先生がめったに来ない佐々木先生に対して質問する。
「それはですね~、次の試合についてです~。次の試合は黒崎くんの不戦勝ということで進める方針になりました~」
ってことは…。
「それは、ここにいる公家院さんはリタイア、ということになるのかしら?」
「と、いうことになりますね~」
「…そうですか。それなら俺も決勝戦は不戦敗でいいですよ」
これ以上、大会に出る理由が今の俺には思いあたらない。
「それは困りましたね~」
佐々木先生は困った様子でこちらを見る。
先生がなにを言っても、俺が出る気は起きないぞ。
諦めろ。
「…っ」
ふと、横から聞き取れるか分からない程度で何かが聞こえる。
「…お嬢?」
「…っ」
やはり寝ているはずのお嬢から何かが聞こえる。
「お嬢!どうしたんですか?」
俺はお嬢のそばにより、その声をよく聞く。
「…勝って…」
意識がないはずのお嬢が俺の勝利を願っている。
初戦のことを繰り返し、うわ言の様に言ってるだけかもしれない。
…それでも。
「…先生。俺、出ますよ」
「それでこそ今年の目玉選手~」
分かっていたかのように先生は拍手をする。
癇に障る先生だ。
「ふふっ。青春よね」
梅野先生もニコッと笑い、喜んでいる。
「レオナルドの許可は取ってるんですよね」
「もちろん~。いつでもいいですよとのことですよ~」
手負いや体力も万全じゃねえってのに、ずいぶんよゆーじゃねえか。
「それならいますぐにでも始めましょうよ」
「いいですね~その心意気~」
「先生も見に行こうかしら?」
梅野先生がウキウキで観戦しようとする。
「梅野先生は救護室の仕事があるでしょ~」
「ここのモニターじゃ小さくて見えずらいのよねえ」
「仕方ないですよ~」
先生たちが話をしている横で、俺はお嬢に向けて声かける。
「…お嬢、行ってきます。絶対に勝ちを届けますね」
俺はお嬢に別れを告げ、ステージのほうに歩きだす。
「じゃあ梅野先生~。我々は行きますね~」
「はーい。いってらっしゃい。黒崎くん、頑張ってね」
俺は相づちを打ち、その場を出る。
…レオナルド・テリオス。
相手に不足はない。
むしろ、アベレージは圧倒的に向こうだ。
俺が勝てる見込みはないといってもいい。
…でもお嬢のために最後まで戦おうと思う。
待ってろ。
ー???ー
『さいっこう!』
通信にてビューが興奮している。
『うるさいよ~ビュー』
桃夏は頭の中に流れてくる声にもかかわらず、耳をふさぐ。
『落ち着きなさい。ビュー』
ハクノも冷静になるように声かける。
『ハクノはその眼で
『まぁ、目の前で見ていたけど…』
『羨ましいぃ』
再び大きな声が通信を通して聞こえる。
『うるさいのぉ』
眠そうな声で反応するのはメメだ。
『あなたは
『何の話かのぅ』
『気にしないでいいわよ』
『じゃあ、そうするぞぃ』
『それよりこれから
『そうね。私は華様を見ないといけないから、あなたたち見てらっしゃい』
『早くいくわよ!桃夏!』
『ちょっと待ってビュー!これ通信だからビューがどこにいるか分からないよぉ』
ビューと桃夏の通信が切れる。
『元気じゃのぅ』
『それくらいがいいものよ』
『たしかにのぅ。華の嬢の容態はどうかのぅ』
『問題はないわ。
『周りの音も特に悪い感じはないから、今回は大事はなさそうじゃのぅ』
『メメがそうゆうなら安心ね』
『わしの感知も完ぺきではないぞぅ』
『充分信頼に値するわよ』
『ありがとうじゃぁ』
数十分後…
「それでは、決勝戦!開始!」
俺の新人戦、最後の試合が始まった。
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