第24話 新人戦決勝①
ステージ前に俺、黒崎 迅は立っている。
次の試合、学内新人戦決勝戦に向けて。
お嬢の期待に応えるため、今持てる全てを使ってレオナルドに勝つ。
心意気だけは一人前だが、いざ実力差を前にすると勝てるビジョンが皆無だ。
…いや、勝つ。それだけを考えて戦うだけだ。
「おーい、迅」
そんな俺に対して、後ろから見知った男の声が聞こえる。
「なんだよ、大樹」
俺に声をかけてきたのは、ずっしりとした体格の持ち主、東郷 大樹だ。
「振り向かなくてもわかるなんて、お前どんだけ俺のこと好きなんだよ」
「気味の悪いことを言うな。試合前に」
フッと鼻で笑いながら、大樹の悪ふざけをあしらう。
「あら、思ったより緊張してないわね」
次は凛とした声で、まるで鬼のような…天使のような女性の声が聞こえてくる。
「…あんた、また変なこと思ったでしょ」
…勘が鋭いやつめ。
野生的すぎるのも問題だな。
「うさみに応援されるなんて、さっきの試合では考えられなかったなって思ってな」
勘が鋭い女性の正体は宇佐 美鈴。
特徴的なツインテールが印象の彼女だ。
それっぽい言い訳でうさみの圧を躱す。
「バカ言わないでちょーだい。私はいつでも優しいわ」
「そーゆーことにしておくよ」
うさみとの会話中、宇佐美の後ろから小さい女性が顔を覗かせる。
「…黒崎くん」
この小さい女性は、天縫糸 かのん。
背が低く、可愛らしい容姿の女の子だ。
「どした?かのん」
かのんはおどおどしながら、言葉を続ける。
「…華ちゃんのことは、残念です。…私のせいではあるんですが…。…緊張、してますか?」
俺よりも緊張してそうな奴が、緊張しているかどうかを説いてくる。
「緊張とかはないが…、どうすれば勝てるかは模索中だ」
「…そうですか…」
かのんは少し寂しそう。
「かのんはあんたに頑張ってほしいのよ」
「それ言ったら俺らみんなそうだがな」
大樹は笑いながらうさみに返す。
「まあ、人並みに頑張らせてもらうよ」
「…無理しないように、してくださいね?」
「分かってるよ」
「それにしても、華が棄権した時点であんたもおんなじかと思ってたわ」
「俺もそのつもりだったんだけどな。結果的にこうなってしまった」
「いいじゃねえか。いい試合を期待しているぜ」
「上でしっかり俺の試合見て笑っとけよ」
「そうさせてもらうぜ」
「そうさせてもらうわ」
2人の声が重なる。
「被らないでよっ」
「お前が被したんだろ」
2人は勝手にケンカし始める。
「…お2人とも、そろそろ時間なので、戻らないとっ…」
かのんは口喧嘩する2人を押しながら、その場を離れる。
「…それでは、黒崎くん。またあとで」
「ああ、またあとでな」
…ふう。
騒がしいやつらだったな。
何しに来たんだが。
わあぁぁぁぁぁ。
会場の盛り上がりも、最終盤。
歓声が大きくなっていく。
「それではいよいよ、学内新人戦決勝戦っ!この長かった大会も最後を迎えました!」
実況の音無2年もテンションが上がっている。
「佐々木先生。これまでを振り返っていかがでしょうか?」
「ん~、そうですね~。見どころはたくさんありますが~。結局この決勝戦が1番の見どころにになるかもしれませんね~」
解説の佐々木先生もコメントを返す。
「そうなるかもしれませんね!…では、皆さんをお待たせするのも申し訳ないので、さっそく選手紹介から始めていきたいと思います!」
「私はあと1日くらい先伸ばしにしても面白いと思いますけどね~」
さらっとえぐいこと言ってんな、あの先生。
「せ、先生、それはちょっと…」
音無2年も困っている。
「冗談ですよ~。音無くん、実況を続けてもらって大丈夫ですよ~」
「は、はい。では、まずは右方!初戦・準決勝とともに首席たる所以の実力をいかんなく発揮し、順調にこの決勝戦に参戦するのはこの男!レオナルド・テリオス選手っ!」
おおおおおおぉぉぉぉぉ。
大きな歓声とともに、レオナルドが入場する。
この歓声は、期待の表れでもある。
「続いては、予定を変更し急遽初戦に参戦!見事にジャイアントキリングを達成!この男の快進撃はどこまで続くのか!左方から入場するのはこの人だ!黒崎 迅選手!」
俺はアナウンスとともにステージに向かう。
歓声は上がらず、むしろ場違い感が周囲を包む。
これも分かっていた光景だ。
「気張れよー!」
「無様な姿さらしたら承知しないわよ!」
「…黒崎くん、頑張ってください!」
そんな中、見知った声たちからの応援する声が聞こえる。
空気が読めない奴らみたいになってるな。
…応援する姿を見ていると知らない間にリラックスしている自分に気づく。
あいつらも俺の頑張る糧になってたんだなと改めて実感する。
「いいね、仲間からの声援。とても羨ましいよ」
こいつはなに言ってんだか。
声の正体は対面にいるレオナルド。
「お前の方が歓声あるだろうが」
「観客とクラスメイト達では、また違うだろう?」
以前の俺なら、いや、変わらんだろ。
と淡白な返しをするだろう。
…だが。
「そうだな。あいつらも俺の友達だからな。その辺とはわけが違うわな」
「分かってるじゃないか」
レオナルドはうんうんっと頷きながら返事する。
「あの声援を無下にするのは申し訳ないが、勝たせてもらうよ」
「精々、無様に足搔かせてもらいますよ、主席さん」
「両者揃ったところで、最後の合図をさせていただきます!双方、準備はよろしいでしょうか?」
「問題ねーよ」
「始めましょう」
音無2年の問いかけに了承する2人。
「では、学内新人戦決勝戦!開始っ!」
最後の試合開始が告げられる。
さて、レオナルドの野郎はまた様子見かね。
そんな事を考えていると、
「『
初手から魔法を唱え、俺目掛けて突進してくる。
俺は、瞬時に鞘付き剣を構え防御態勢をとる。
レオナルドはお構いなしに剣を振り下ろす。
ギィィィィン。
攻撃を受けきろうとするが…。
ヒュン。
ドオオォォォン。
そのまま、ステージ外に吹き飛ばされる。
「くっそ…」
土煙を払いながら、レオナルドを探す。
受けきったと思ったが、思ったよりパワーがあるな。
そりゃそうか、魔法使ってんだったな。
「まだまだこんなものじゃないでしょ」
思ったより近くにいたレオナルドが迎撃していく。
ギリギリのところで受け流しながら、反撃を狙う。
…が、そんな隙もなく防戦一方だ。
激しい白兵戦を繰り広げるが、その内容はただのレオナルドの攻撃を受ける俺の図だ。
このままじゃ、あっという間に終わっちまう。
「おらっ…よっ」
鞘付き剣を振り上げ、レオナルドの剣をはじく。
その一瞬のスキをつき、レオナルドの腹部に蹴りを入れ間合いを作る。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
息をあげながら、レオナルドの動向を確認する。
「ここまで来て手加減かい?」
レオナルドは少し不満そうに話す。
「…なにいってんだ?まじめにやってんだろうが」
悪意なしで煽るのがデフォルトなのかこいつは。
「
…あの力?なんのことだ?
俺は考えるような仕草をしていていると、
「美登君の試合で使ったあれだよ」
…あぁ、人工魔装のことか。
「あれは使えねーよ。1回使ったら数日は使えないんだよ」
「…なるほど。それじゃあ、他になにか勝つ算段があるのかい?」
「ずいぶん警戒してるじゃねーか」
「勝つ算段がないと、ここに来るわけないじゃないか」
「…なくても来る理由はあるんだよ」
「負けるのが分かっていてもかい?」
「わりーかよ」
「…僕にはよく分からないな」
「分かんなくて結構。お前に分かってもらおうなんて思ってないからな」
話し終えると同時にレオナルドに向かって走る。
「考えなしの特攻は美しくないな」
レオナルドの発言も無視し鞘付き剣を振り上げる。
「しっねぇ!」
「何度やっても結果は変わらないよ」
俺の攻撃をひらりと躱し、追撃する。
かろうじて致命傷を避けるが、腹部を斬られダメージを負う。
「んなことでっ、止まると思うなよ!」
俺は斬られようが関係なくレオナルドへの攻撃をやめない。
「ほんとに理解できないな。なぜそこまでするんだい?」
剣と剣の攻防に対し、余裕の表情で俺に問いかけてくる。
その顔はほんとに俺の行動を理解していない奴のそれだ。
「お前には、支えたい奴がいないのか?そいつのために、何が何でも期待に応えたいとか、そんなのはねーのかよ」
レオナルドはポカンっとした表情で返答する。
「僕の力は僕の物だ。他の誰のものでもない。僕の家族はみんなそうだった。自らの強さが、自分の価値そのものだったから。他人のために何かをしたところで、それは自己満足じゃないかな?」
自論を述べ、疑問系で話を返すレオナルド。
「…かわいそうなやつだな。お前の家じゃ強さこそ全てで、それ以外は無価値だった。その結果がこれか。他人興味はあれど、表面上でしか物事を語れない、その人物の深層まではたどり着くことはねぇ。自分のことを自分でしか価値を示せないなんて。器が大きいんだのなんだのって言われてはいたが…なんだ。ただの心がない人形じゃねえか」
ただの感情がなく、自分の価値を見出せてないだけの人形が、たまたま強さを手に入れてしまったが故の末路。
ほんとに悲しいもんだ。
さらに俺は続ける。
「…お前は器がちっちゃい、ただのガキだよ」
「好き放題言ってくれるじゃないか。…それで?それを言ったところでこの勝負の勝敗が変わるのかい?」
「また勝負勝負って、馬鹿の1つ覚えみたいによぉ。そんなん変わるわけね―じゃねえか」
「だよね」
レオナルドは自身の剣を見ながら相槌を打つ。
そして今度は俺を見ながら告げる。
「見事な演説に免じて、次の一撃で終わらせるとしようか」
「…なんだお前。さっきの言葉にピキッてんじゃねえか。器が小せえ上に短気かよ」
とはいえ、次の一撃に大きいものが来るのは分かった。
それを乗り切れるかどうかが鍵だ。
ぱあぁぁぁ。
レオナルドは剣先をこちらに向け、魔力を貯めている。
「…冗談きついぜ」
あまりの魔力量に唖然とする。
「負ける準備はできたかい?」
「…くそくらえ」
「君らしい。…では、いくよ」
レオナルドの剣がまぶしいくらいに光り輝く。
「『
魔法を唱えると剣から放たれる光が俺を包んでいく。
「…これは…さすがに…」
ドオオォォォン。
レオナルドの魔法が俺めがけて発動し、直撃する。
魔法の規模が大きすぎて、俺の安否すら不明だ。
「…ふぅ。これで、僕の勝ちだよ」
レオナルドは自身の勝ちを宣言したのであった。
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