第21話 新人戦2回戦2試合目①

ー観客席ー




「公家院様はいまだ調子が良くないのでしょうか?」




従者のレイリーが主の水炎寺へと問いかける。




「あの子が、コンデション不良で試合に出ないなんて絶対ないわ。…多分、まだ意識が戻ってなんでしょう」




「主従での試合、楽しみにしてたんだけどな。迅の試合も含めてな」




「仕方がありません。まぁ、情報収集はある程度済んだのでこの辺で帰りましょうか」




レイリーが帰宅を促す。


すると水炎寺は、




「いいえ、最後までこの大会を見続けるわ」




レイリーは驚いている。




「お嬢様の本命だった公家院様はもう出ないのですよ?」




「迅が出るけど?」




「貴様には聞いていない」




「確かにあの子は出ない…けど、彼が出る可能性があるわ」




「…またあの護衛ですか」




レイリーは嫌悪感を示す。




「お前はなんでそんなに迅を嫌うんだよ」




「貴様には関係ない」




「私が目を掛けてるからって、嫉妬してるのよ」




「男の嫉妬は悲しいだけだよんっ」




「…死ね」




レイリーは風間に手刀を見舞う。


風間はそれを軽々避け、




「それにしても水炎寺さんよ。あの主席の戦いもよく見てた方がいいんでね―の?」




「…それもふくめて観戦するって言ったのよ」




「さすが水炎寺お嬢様」




黄色のバンダナをクイッとあげ、お嬢様をほめたたえる。




「マリウスも老游院も帰る気ないみたいね」




「…いえ、お嬢様。マリウスの方は帰宅準備がなされていました」




レイリーの報告に驚く水炎寺。




「なんですって!?イリーナルの首席なんて目じゃないっていうこと?」




「1回試合見たらもういいってことじゃね?化け物だって認識できただけでも収穫もんだろ」




「…そうゆうものなのかしら」




水炎寺は不思議そうに考え込む。




「お嬢様。そろそろ試合が始まるようですよ」




レイリーの言葉の通り、試合が始まろうとしていたのだった。












「さぁ、おまたせしました!学内新人戦第2回戦の1試合目をお送りいたします!」




実況の音無2年が張り切って指揮をとってくれている。


佐々木先生は何も言わず、うんうんっと頷いている。




「右側から来るのは前の試合圧倒的な実力差を見せつけた主席。レオナルド・テリオス選手!」




うおぉぉぉぉ。




観客席が先ほどの試合による期待度からか、さらに大きな盛り上がりを見せている。




「なによ、圧倒的な実力差って。私はかませ犬ですか」




隣で怒りに震えているうさみを視界の端にとられつつ、触れないようにする。




「鬼には触れない方が吉だぜ」




先ほどあれだけ怒られたのに未だに鬼呼ばわりするなんて、こいつもこいつで残念な奴だな。




「…それ以上言わない方が…」




「次やったら私が勝つっつーのっ!」




「それは…どうなんだろうな」




さすがに肯定しきれない自分がいた。




「対するは左側!言葉の通り一瞬でその試合を終わらせた最速の選手!クノウ イチカ選手!」




すでにステージにいたクノウは動かず眼だけ開く。




「双方準備はよろしいでしょうか?」




音無2年が試合をする2人に尋ねる。




「いつでも」




「忍」




「それでは、学内新人戦第2回戦!両者試合を始めてください!」




「クノウさん。さっきの試合は試合に勝つという点では実に見事な勝利だった」




「…東郷殿の実力を考えた上、あれが1番無傷で突破できると踏んだまでじゃ」




「なるほど」




「皆は、あの者を過小評価していると思うが、白兵戦において俺ほど優秀なものもおらんと思うがのう」




「確かにそれはそうだね」




「世間話はこのくらいでよいかのう」




「あぁ、すまない。始めようか」




互いに剣とクナイを構える。


先に動いたのはクノウだ。




「忍忍」




手に持ったクナイとは別に、多数の手裏剣をレオナルドに投げる。


レオナルドはそれを軽々しく払う。


クノウは止めることなく手裏剣を投げ続ける。




「遠くから投げるだけじゃ何も変わらないよ」




「そうじゃろうな。…ではこれでどうじゃ」




クノウは両手で印を結び、




「…『忍分身』」




クノウの姿が5人に分かれる。




「分身体ですか」




レオナルドは驚く様子もない。




「クノウ選手が複数人に増えました!」




「『忍分身』ですか~。魔法ではなく、忍法といった方が得策かもしれませんね~」




「あれは魔法ではないんですか?」




「クノウ家に伝わるものの1つですね~」




「他の誰もまねできないオリジナルってことですね」




「…では」




複数人のクノウが手裏剣を一斉に投げる。


全方位から来る攻撃。


レオナルドは剣を振り回し、その剣圧ですべてを跳ね除ける。




「…なんとっ」




「平然とやってのけるの反則だろ」




「あれと戦ったうさみが戦意消失しないのやっぱおかしいって」




「…大したことないわよ、あんなの」




強がりにしか聞こえない言葉だ。




「これも防ぐとは…」




「それほどでも」




レオナルドはにこっと笑いながら答える。


クノウは少し考え、




「これじゃろうて」




そう言い、再び手裏剣を出す。


だが、先ほどとは少し違う。




「あれは…お札か」




手裏剣には赤い文字の札がついている。




「…なんて書いてあるのでしょう?」




「こっからじゃ見えないわね」




その札がなにを書いているかまでは、ここからじゃ見えない。




「ではいくぞ」




クノウはレオナルドめがけて投げる。




「何度やっても無駄だよ」




レオナルドは再び、剣圧で防ぐ。


はじかれた手裏剣を見てクノウは、




「…『ぱらとねあ』」




すると宙を舞う手裏剣の周りは電気を帯びる。


その手裏剣は方向転換し、レオナルドに向かって動き出す。




「…追尾」




レオナルドは淡々と分析する。


それ防ごうと剣を構える。


手裏剣がレオナルドと衝突する直前、




「…忍忍」




クノウが合図を送る。


すると…、






ぼぉぉぉぉん。






宙を舞っていた手裏剣が爆発する。




「おっとぉ、これは!」




「あのお札は爆破の付与がついてたんですね~」




爆風に包まれて、レオナルドの姿が見えない。




「あんな不意打ちくらったはひとたまりもないだろ…」




大樹は呆然とする。




「でも相手は、あのレオナルドよ」




「無傷でも、不思議ではないよな」




観客は息をのむように静まり返っている。




「…どうかのう」




クノウもダメージを期待している。




「…これは驚いた」




爆風が少しずつなくなっていき、レオナルドの姿が現れる。




「…致命傷ではないと思っておったが…」




クノウが残念そうにレオナルドを見る。




「無傷ってほどではないよ」




確かによく見ると身体の所々に擦り傷が。




「不意を突いてその程度は、悲しいのう」




「それはすまないね」




「…『パラトネア』」




「なんだ、かのん。知ってんのか?」




大樹が尋ねる。




「…あれは雷魔法の1つです。わずかな帯電で大きな力を使うことができる魔法です」




「優等生様はご勤勉ですこと」




「それにしても、その魔法であの軌道は説明つかないわよね」




「その帯電ってのが、肝なんだと思うぞ」




「…電気を帯びる…追跡する…鉄…」




かのんは黙々と1人で考える。


その発想は正解にたどり着くのも時間の問題か。




「ぜんっぜんわかんねえ」




「…あっ」




かのんは答えにたどり着く。




「…避雷針ですね」




その通り。


最初の手裏剣はレオナルドの剣に対して投げるも同義。


ダメージを与えるのが目的ではなく、剣に対して帯電させるのが目的。


それも分身で数こなせば、でかい電気を帯びるってわけだ。


最後の極みつけは爆発する札。


同じことを繰り返す中で、1つアレンジを加えることで威力を倍増させる。


まさか剣を避雷針扱いして、追尾させるなんて高等な技を思いつくなんてな。


微力な電気を操作し、レオナルドにばれないようにするのは緻密な魔力操作が大事。


あれでも、成績優秀者なのは伊達じゃないってことか。




「じゃあ、あの剣めがけて全部飛んでいくってことよね。レオナルドはもう逃げることはできないわけ?」




「そうなるな。剣を手放さない限りな」




「そんな事するタマかね」




「…想像できなせんね」




「たしかにな」




「…この剣に帯電してるわけだ」




レオナルドはそのからくりをあっさり解く。




「わかったところで、この技を崩すことは…」




クノウが言い切る前にレオナルドがさえぎる。




「忍者がどうゆうのかを観察していたのだが…、この辺で反撃に出ようか」




これまで攻撃をしてこなかったレオナルドが一歩前に踏み出す。


その威迫に後ずさりするクノウ。


ここからが主席、レオナルドの本領発揮だ。

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