第19話 新人戦4試合目
ー観客席①ー
「これが今年の学年主席様かぁ」
後輩の有志を見守る先輩の姿がそこにある。
だがその先輩はアツアツのたこ焼きを頬張りながらこれでもかっというくらいにリラックスした状態で見ている。
とても先輩風を吹かせる格好ではない。
「あんまりだらしない恰好しないのっ」
隣に座っている本城 楓が注意する。
「へいへい。…結果として首席様の圧倒に見えるが、ありゃ1年坊の実力を超えてるね」
「新入生として異例の強さってこと?」
「可愛げがないってこと」
「真面目に聞いた私が馬鹿だったわ」
「でも、試合前の期待通りの展開ではあったな」
「…えぇ、イリーナル学園もあんな生徒がいれば今後安泰でしょ」
「あれで性格最悪とかなら仲良くなれたのになぁ」
「…さいっっってい」
本城は今井に対し、溜めに溜めた罵倒を浴びせるのであった。
ー観客席②ー
「すごいねぇ、あの主席君」
他の観客席では、サンジュ学園の生徒3人が先ほどの試合の感想を述べていた。
そんな中、最初に口を開いたのは風間 風助。
「あの程度、お嬢様なら一捻りだ」
「と、申しておりますけど?」
レイリーの感想に対して風間はその主に問いかける。
「当たり前よっ。…と言いたいところだけど、あんな化け物と楽に倒せるほど私に実力はないわよ…」
呆れたように返答するのは公爵家の水炎寺 波流渦。
「お嬢様を高く見積もりすぎだな~そこの従者は」
わざと煽るように話す風間。
「ふん、お前にはお嬢様の謙虚さが分からんのだ」
「俺にはお前の頭の中が分からないよ…」
「そんなことより、あの主席よ。今度の統合新人戦には要注意人物に筆頭する実力だわ」
水炎寺の発言により、和やかな場が急転する。
「たしかに。あれほどの男がいるのであればどこかで耳にするか、もしくは爵位を持っていてもおかしくないものです」
「相手のあの速度に初見で反応してカウンター返すとかどうやったらできるのかいささか疑問だね。直接会ってどんな風なのか見てみたいよ」
「あら、この距離じゃ風とやらは見えないのかしら?」
「見えないことはないんだけど、おおまかな感じしか分からないんだよねぇ」
「そんなものあてにならん」
レイリーは真っ向否定する。
「レイリーの見解はともかく、あの主席の情報があるだけでも来た甲斐があったわ。他にも粒揃いだしね」
「俺はあのぬいぐるみ使いが気になるなぁ。可愛い見た目しといてあの最後の魔法はおっかなすぎるぜ」
「粒揃いってのはそうゆうことよ」
「ですが、総合的に見れば我らがサンジュ学園の方が上だと」
「私たちは同年代で1番に決まってるじゃない」
「はいはい、サンジュ学園は最強ですよっと」
「あなたねぇ、バカにしているの?」
「滅相もない」
自身の学園への絶対的な自信とともに、統合新人戦への意気込みがうかがえるのであった。
「さぁ、第1回戦もこれで最後!残る第4試合を始めていきたいと思います!」
「どの戦いも見どころがありましたね~」
「そうですね!この試合もいい戦いを見せてくれることを期待しております!」
実況解説席の音無2年、佐々木先生も次の試合を楽しみにしている様子。
「さっそく、選手に入場していただきましょう!両選手、ステージにお願いします!」
双方のステージ端から選手が入場してくる。
先に出てきたのは東郷 大樹。
観客の歓声は少なく、あまり期待されていない様子がうかがえる。
「これまでの試合と違い、歓声があがらないですねぇ」
「まぁ東郷くんは始まりの時も似たような感じでしたからね~」
「…先生としてそこは危惧すべきところではないのですか?」
「私が言ったところで~何も変わりませんよ~」
「先生が諦めてどうするんですか…」
少しため息気味に話す音無2年。
「まあ、思ってた通りの出迎えだな」
大樹は独りごとを呟く。
「それにしても…クノウはどこにいんだ?」
辺りを見渡すがそれらしき姿が見えない。
「クノウ選手はどちらにいったんでしょうか…?」
「クノウさんは神出鬼没ですからね~」
観客席もざわつき始める。
「…大会前もふらっときてはどこかに行ってしまいましたよね?」
「たしかに」
俺とかのんもクノウを姿を探すがどこにも見当たらない。
ボォォン。
するとステージ上で大きな煙が舞う。
「なんですか!?」
「派手ですねぇ~」
実況解説席も突然の状況についていけていない。
「…なんだ?」
大樹も煙の方に注目する。
煙が徐々に晴れていき、1人の少女の姿があらわになる。
「忍忍」
黒髪のポニーテールが手を合わせポーズをとっている。
「あぁーっと、ここでクノウ選手の登場です!」
「派手ですね~」
「おぉ、クノウじゃねえか。目立つ登場だな」
大樹が声をかける。
「なぬっ!?姿が見えないよう隠したつもりじゃったのに…」
…え?あれで隠密のつもりなのか…?
「…えっとぉ、クノウさんってもしかして…」
「もしかしなくてもだな…」
かのんですら、少し苦笑いをしている。
「クノウって、案外天然なんだな」
大樹がストレートに言葉を投げる。
「わしは天然ではないぞ」
真顔で返される。
「…そうか」
大樹が残念そうな目で見つめる。
「ここで両者が出揃いました!さっそく試合を始めていきたいと思います!双方準備はよろしいでしょうか?」
音無2年が2人に問いかける。
「おう」
「よかろう」
「双方の許可がとれたところで始めたいと思いますっ!学内新人戦第4試合目っ!東郷 大樹選手VSクノウ イチカ選手っ!対戦を開始してください!」
「お2人とも頑張ってくださいね~」
大半はクノウの応援が多いだろう。
ただでさえ、大樹の登場時にブーイングがあったくらいだ。
でもそんなの気にする大樹ではない。
「東郷殿。よろしく頼む」
クノウが大樹に握手をしようと近づく。
「おう、いい勝負をしような」
大樹はそれに合わせるように手を伸ばす。
…その瞬間、
「…御免」
懐に入ったクノウが大樹に一閃。
手に持っていたクナイで斬りかかる。
「うおっ」
大樹もさすがの反射神経で間一髪避けるが…、
「…これにて終わりじゃ」
大樹は身体は無傷…だが、すでに大樹の紋章は砕かれている。
「…まじかよ」
「姑息な手を使い、卑怯と罵るのも甘んじて受けよう。じゃが、試合の合図があってからのお主の油断は戦いに臨むそれではなかったと言えよう」
「…たしかにな。俺の油断が招いたことだ。こりゃ、一本取られたな」
「おぉーっと、これは全くの予想外!試合が始まるな否やクノウ選手の先制により、あっけなく東郷選手の勲章が壊されてしまいました」
「う~ん、東郷選手の油断が招いた結果とはいえ、非情なことではありますよね~」
「反則ではないんですがねぇ…」
実況解説席も反応に困る。
「…東郷くん」
かのんは横で何とも言えない表情で呟く。
「まぁ、あいつの油断だな」
ばっさりと慈悲もないとはこのことだ。
実際この通りだしな。
「…クノウさん、あんなことするような人ではないと思っていたんですが…」
「別に悪いことはしてないだろ。いろいろ考えがあったってことだ」
「…そうゆうものなのでしょうか?」
「それより俺ら以外のところの方が騒がしいかもな。ほら、あそことか」
そういって、観客席を指さす。
かのんが指さす方へ視線を向けると、
「なんだその試合は!」
「そんな卑怯な真似をしないで全力で戦えよ!学生だろ!」
「つまんねー試合見せんな!」
外野のヤジがヒートアップしている様子が見える。
「観客席の皆様は落ち着いてください。学生への口撃はおやめください!」
実況の音無2年が静止を求めるが一向に止まず。
「…え~皆様、お気持ちは充分に理解できます~」
解説の佐々木先生が割って入る。
「お前の生徒だろ!どうなってるんだ!」
「そうだ!担任の怠慢じゃないのか!」
罵声は先生に移り変わる。
「待つのじゃ。これはわしの独断。佐々木先生はなにも関係…」
クノウが言い切る前に先生がさえぎる。
「大丈夫ですよ~。たしかに観客の方の意見も分かります~。で・す・がっ」
温和な先生が急に雰囲気を変える。
「これは私の見解なのですが~そもそも生徒には常に将来を考え動くように指導しております~。その将来とは卒業後の候補の1つ、つまり~前線ですね~」
「たしかに。先生方で教育方針の違いはあれど、前線に行くという生徒は多いです」
音無2年が便乗する。
「その通りです音無く~ん。その前線には試合のようによーい、スタートといった合図はありません~。今回の試合はより分かりやすい結果が出ましたよね~。あれが勲章ではなく心臓だったら…と考えると、皆様どうです~?」
先生の問いかけに観客は静まり返る。
「…でもそれと試合は関係ないだろ!」
「そうだ!そうだ!」
一部はまだ激情している客もいる。
「この試合も将来への練習です~。生徒だからとか、変なフィルターをかけて将来の卵たちを勝手に決めつけないでくださいね~」
図星をつかれたのか、言い返せない観客たち。
「えーっと、先生?お説教は終わったでしょうか…?」
隣でおそるおそる問いかける音無2年。
先生は張り詰めた空気をやめ、元の温和な状態に戻る。
口調は変わらなかったが、相当なプレッシャーだな。
隣にいた先輩が冷や汗だらだらで可哀そうだ。
ここにいるかのんも怖かったのか、俺の腕を離さない。
「すみませんね~進行の邪魔をしてしまって~続けていいですよ~」
「は、はい。分かりました!では学内新人戦第4試合目、勝者クノウ イチカ選手」
実況の大きな宣言により、1回戦のすべての試合は今、終了した。
劣弱と言われた最強護衛 佐藤 拓磨 @satotaq
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