第18話 新人戦3試合目②

ー試合前ー


ベッドで休んでいる救護室にケガ人が運ばれてきた。

俺より重症なその患者は酸素をつけ、意識は戻っていない。


「お嬢!?」


やはり先程の歓声は試合が終わった合図だったのだろう。

ボロボロのお嬢が担架で運ばれてきた。


「お嬢…もしかして…」


最悪の結末を想定し、かける言葉のない俺に、


「大丈夫ですよ。彼女は立派に戦い、試合に勝利しました」


そんな俺に声をかけてきたのは、救護室を統括している保健室の先生、梅野 琴美先生だ。


「梅野先生。お嬢は勝ったんですか?」


「えぇ、それは見事な戦いでしたよ」


「それはよかった」


安堵する俺。

お嬢のそばに行き、再度無事を確認すると、


「先生がいるならここは安心して任せられます。あとはよろしくお願いします」


「あら、もう身体は大丈夫なの?あなたも結構な重症患者なのだけど…」


先生が心配そうにこっちを見る。


「俺は大したことありませんよ。じゃあ、お願いします」


救護室を後にする。

最悪、ハクノが近くから問題はないだろう。

お嬢の試合が終わったということは、次はうさみの試合だ。

何かあるわけではないが、試合前に一声かけてても罰は当たらないと思う。

その後うさみと話をし、試合へと見送り、選手用の観覧席に向かう。

少し歩き選手用の観覧席につくと、見慣れた2人組が談笑していた。


「お疲れ様、かのん」


「…ふぇ、黒崎さん!?」


びっくりした様子で俺を見るかのん。

それとは裏腹に特に驚くことなく話しかける男が1人。


「遅いじゃねえか」


「そんな風に言うなよ。…うさみのところに行ってたんだ」


「…なるほどね」


大樹は何かを察したのか、これ以上は聞いてこない。


「…うさみさんは大丈夫でしたか?」


「心配するようなことは何も。ただ試合前にあいつを見送っただけだよ」


「…そうでしたか」


「こんっな怖い顔してたからな。腹でも痛くてうんこでもいってたんじゃねえのか?」


「帰ってきてから言ってやれよそれ。殺されるぞ」


「あー、怖い怖い」


悪ふざけのように怖い顔の真似をしながら話を進める。


「そういえば、残念だったなかのん」


「…いえ、私は華ちゃんより勝ちたいっていう気持ちが足りなかったんです。それに黒崎さんのおかげで少し前に進めたような気がします。ありがとうございました」


感謝を告げられ、戸惑う俺。


「…おれ、なんかしたか?」


「ふふっ。それでいんですよ、黒崎さんは」


よく分からない話をするかのん。

大樹は珍しく気難しそうな顔をして試合を見ている。

ちょうど、うさみとレオナルドが交戦しているところだ。


「…劣戦ですか?」


「まあな」


「主席との戦いだ。劣戦を強いられるのは、最初から分かっていたことだ」


交戦の最中、2人同時に魔法を唱え、戦いはさらに加速していった。







ー現在ー


…かのんがなんか叫んでいたわね。

残りの2人は変なこと言ってそう。

あとで絶対絞めるわ。

私、うさみはレオナルドの攻撃を直撃しうずくまっていた。


「…はぁ。私の魔法はそんな広範囲に付与できないってんのよ」


何とか立ち上がる私。

そんな姿を追撃せずにじっと待っている対戦相手、レオナルド・テリオス。


「ごめんなさいね。待っててもらって」


「いや、うずくまっている女の子に対して追い打ちをかけるのはいかがなものかなと思ってね」


…上等じゃない。ずいぶん下に見られたものよね、私も。

まあ、実際下なんだけどね。


「気にすることないわ。勝ちにこだわらなくてどうするのよ」


「それは私の道に反するからね。…それに勝ちにこだわる、という点に関しては君の方こそどうなんだい?」


「私?私は私の思うようにする…のよっ!」


話終わりと同時にレオナルドに駆け出す。

レオナルドの懐に飛び込み、ブーツを履いた右脚でレオナルドの勲章を狙う。


「身体能力の付与なしでその俊敏性。素晴らしいね」


私の攻撃をいとも簡単に剣ではじく。


「まだまだぁ!」


攻撃の連鎖をやめることなく、次々に蹴り込みを入れる。

その全ても剣ではじくレオナルド。


「このままじゃ、君のジリ貧だ。申し訳ないけど、終わらせようか」


そういうと、その場にしゃがみ下から剣を振り上げる。


フンッ。


間一髪で攻撃を避けたが…、

振り上げた剣をそのまま振り下ろす。


「なめんなぁ!」


軸にしていた左脚を使い、攻撃をいなす。

そのまま回転し、右脚で廻し蹴り。

避ける。

右脚を着地させ、左脚で顔面に蹴り込み。

それも避ける。


「ちっ。身体付与が邪魔!」


当たれば相当なダメージが入るが、レオナルドはその全てを避ける。


「いやぁ、見事な白兵戦ですねぇ」


「お互いの色を存分に発揮してますね~」


「それに加えて宇佐選手の身体能力!これは目を見張るものがあります」


「レオナルド選手の集中強化アクロワスワン・レンフォーサーに頑張ってついていってますね~。お見事です~」


実況解説席から称賛の声が上がる。


「さっさと当たりなさいよ」


「それはできない相談だ」


攻撃が当たらず焦りがでているのが分かる。

でも、そんな焦りを落ち着かせる時間をくれるほど甘い相手ではない。


「この先の試合のため、無駄な怪我はしたくなくてね」


私との戦いより、先の方が気になるってわけ?

上等じゃない。

キリの良いところで後方へ下がる。


「いい度胸ね。そんなに先のことが気になるわけ?」


「もちろんうさみさんのことを軽んじているわけではないよ」


「どの口が言うんだか」


レオナルドは剣を構え、じっと私の方を見つめる。


「本気で来るんだろう?そのすべてを返してみせようか」


どこまでも上からってわけ?


「じゃあ、遠慮なくいかせてもらうわ」


「ん?宇佐選手距離をとったかと思ったがあの体勢は…」


「クラウチングですね~」


「いかにも突進していくような姿勢ですが…」


「そういうことでしょうね~」


静かに呼吸を整え、全力の一撃の準備をする。

観客席も息をのみ、静かな空間がステージを支配する。

…次の瞬間、


――――スンッ。


音もなく、何かが通り過ぎる。

気づけばレオナルドを通り過ぎ、悠然と立っている私の姿が。


「…音速を超える技、見事だったよ。腕を犠牲にしなければこちらがやられていた」


レオナルドの左腕はボロボロになり、血が滝のように流れる。


「…だが、相手が悪かったね。君が相手にしているのは…学年主席だよ」


ブシャッ。


私の左肩から右脚にかけて斬られた跡が残り、血が噴き出す。


「…くそっ。…なにものなのあんた…」


バタッ。


その場に倒れ込む私。

勲章も割られ、致命傷をもらう。


「…うさみさん!」


再びかのんの大きな声が響く。


「救護班の方々。彼女をお願いします」


レオナルドは救護室へ運ぶようお願いする。


「…早すぎて見えませんでしたね」


「う~ん、正直私も見えるか微妙なラインでしたね~」


「と、とにかく、第3試合!圧倒的な実力を見せ勝ち進んだのは!レオナルド選手!」


う、うおぉぉぉぉ。


観客席も戸惑いを見せながらも大きな歓声が上がる。







俺たち3人はうさみが運ばれていく姿をじっと見つめていた。


「負けちまったな」


「実力差はあったわけだ。妥当っちゃ妥当だな」


「…お2人とも負けると思ってないって言ってたのに…」


「負けると思ってなかったのはほんとだぜ」


「勝算はあった、ってことだ」


「…それが、ですか?」


あれとはさっきのクラウチングでの攻撃のことだろう。


「ん-、いや。あれは完全に予想外。目で追えないほど速く動くなんて人間じゃねえな。やっぱ鬼だったか」


「…それを防御し致命傷の反撃を繰り出せるレオナルドもまた…」


「…人間じゃない、ですか?」


「ここにも人間じゃないのがいるからな。2~3人増えたところで変わらんだろ」


大樹の言葉を無視し、黙ってレオナルドを見る俺。

…それにしても、身体付与の魔法や反射神経の話じゃすまされないぐらいの出来事。

見切ってやったのなら、なおのことだ。

レオナルド・テリオス。あいつまだなんか隠してるな。

澄ました顔しているが、食えない奴だな。


「…うさみさん、大丈夫でしょうか?」


「さあな」


「大樹を向かわせてやりたいが…試合、次だしな」


「救護室にいる梅野先生に任せていれば大丈夫でしょ」


「…行かなくていいのか?」


「多分、1人の方がいいって言うでしょ」


「確かに」


「…救護室には華ちゃんもいますから、きっと大丈夫です」


「えー、第4試合のお知らせです。ただいまステージを確認したところ、大きな損傷はなかったとのことなので、このまま続けて試合を行っていきたいと思います!」


「クノウさん~東郷くん~準備の方をよろしくお願いしますね~」


「呼ばれてるぞ」


「…頑張ってくださいっ!」


「おう、まかせろ!」


大樹は入場口に向かって歩き出していく。

…ハクノ・桃夏から異常事態の連絡はない。

今のところ問題は生じていないということだ。

外部からの出入りが多い中、大会自体も何も問題ないのは学園の警備が優勝な証拠。

なにもなさすぎるのは、逆に心配になりそうなものだが…

お嬢に被害が出なければ外で騒いだところで好きにしてくれればいんだが。

大樹たちあいつらも含めとくか。


「…東郷くん、きっと勝ちますよね?」


かのんは不安そうに聞いてくる。


「うーん、正直クノウが未知数。よく分からんってのが俺の感想だ」


素直に分からないとかのんに伝える。


「…負けるってことは…?」


「さあな」


俺たちは若干な不安もありながら、大樹の戦う第4試合を観戦するのであった。

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