第17話 新人戦3試合目①

ー試合開始数分前ー




「次は私の番だから1人でいたのに…なんであんたがいるのよ」




うさみの前には俺、黒崎 迅が立っていた。




「他の奴らとは挨拶すんだのかよ」




「そんなのとっくに済ましたからここにいるんじゃない」




「どうせ、一方的に話してきたんだろ」




「そんなことはどうでもいいわ。それよりあんたは身体大丈夫なの?それに華だって」




「俺の心配をしてくれるのか?別に俺は問題ない。気分は最悪だけどな」




「勝ったのに気分最悪って、美登に対して失礼じゃない?」




「…まあ、それとは別件でな。お嬢のことは心配ない。顔は見てきたからな」




「あんたならそばから離れないと思ったけどね」




「まあな」




さっきお嬢の容態だけ確認し、救護室を出た。


お嬢のことはハクノに任せている。


なにかあったら連絡が来るから、俺は俺のやることをしに来たわけだ。




「それよりうさみは大丈夫なのか?」




「さっきからなんなの?私が緊張でもしてると思ってきたの?」




「いや?緊張なんてガラじゃないだろ?ほかになんかないのかなと思ってさ」




「…べつに、なにもないわよ」




それが何もない奴の言い方かよ。




「なにかあるなら話くらい聞くが?それとも大樹の方が…」




いいか?と聞く直前で、




「あいつは関係ないでしょっ!」




大きな声で遮られる。




「…すまん。お節介がすぎた。試合頑張ってな」




人には触れられたくないことの1つや2つある。


俺はそれを踏んでしまったようだ。




「…誰が行きなさいって言ったのよ」




うさみが引き留める。




「…私に隠し事があるのは認めるわ。でもそれは言えない。あのバカも知らない。私のことは私が一番よく分かっているから心配される義理もない。…でも」




うさみはまっすぐこっちを見る。




「…それでも私は私のしたいようにする。それに不満があるなら今後一切関わらなくても構わないわ。幸い1人には慣れているの」




うさみがはっきりと線引きをする。




『わたしはっ!1人でもやっていけるっ!強くなって!みんなを見返してっ!一番になるのっ!』




…小さいころ、その身に似合わない重圧を背負った少女が泣きじゃくりながら強がった言葉が鮮明によみがえる。


うさみの姿は、その時の姿と瓜二つのように重なって見えた。


絶対に隣にいて、守ってみせると誓ったあの日の記憶。


どうしてもその時と同じに見えてしまう。




「お前はお前のしたいようにすればいいさ。別にそれを拒絶したりなんてしねえよ」




まっすぐな感情にはまっすぐな気持ちで伝える。




「でも、そんなお前のことを心配している誰かもいるってことを忘れんなよ」




「それが分からないほど、バカじゃないわ」




「お前は大樹とは違うもんな」




「当たり前じゃない」




「…俺にだって隠し事はある。お前だけじゃねえよ」




「みんな持ってて当然よ」




「…試合前にすまなかった。邪魔しに来たわけじゃなかったんだがな」




「そんなの分かっているわ。…ちょっとスッキリしたから許してあげるわ」




「そりゃあ、よかった」




おおおおぉぉぉぉ。




観客席が盛り上がりを見せる。




「そろそろか?無理すんなよ」




「やばそうだったらすぐ降参するから問題ないわよ。それじゃあね」




ツンっとした態度で、飄々と歩きだすうさみ。


その表情は先ほどより晴れた表情だ。




「…お節介だったか」




主人マスターらしい行動でしたよ」




「…やっぱ余計なことか」




「私は褒めてるんですよぉ」




桃色髪の桃夏は嬉しそうに話す。




「周りの様子はどうだ?」




「先ほどビューとも話しましたが特に異常は。まさか公家院当主本人が主人マスターのところにいくとは完全に想定外でした。申し訳ありません」




深く謝罪をする桃夏。




「いや、俺でも想定外だった。桃夏が謝ることじゃない。あいつをこの手で殺る気持ちが高まったくらいだ」




「それはいいことですね」




「そうだろ」




ふふっと笑いながら主人の話を聞く桃夏。




「さてっと、あいつらのところに戻ってうさみの観戦でもしますかね」




「では、私はこれで」




「あぁ、また何かあればよろしく頼む」




そういって、歩き出す俺。


桃夏はこちらにお辞儀したあと、ぼそっと呟く。




「…さっきのうさみさん。…私の存在に気づいてた?…気のせいよね?」




前回の隠密失敗が不安材料になり、またも気づかれているのではないかとそわそわしている桃夏だった。














「両者揃いました!それでは、学内新人戦第3試合、レオナルド・テリオス選手VS宇佐 美鈴選手!悔いのないよう、よろしくお願いいたします!」




顔を見合わせ、お互いに構えをとる。




「ちゃんと話すのは初めましてかな。宇佐さん」




金髪の男、レオナルド・テリオスはあいさつを交わす。




「ええ、そうね。私たちは所詮、華の取り巻きよね。自覚はあるわ。それに宇佐って好きじゃないの。うさみでいいわ」




「それは失礼した。では改めてうさみさん、決して公家院さんの取り巻きと思ったことはないよ。君のことは分かっているつもりだ」




「あら、学年主席様に認知されてるとは、捨てたもんじゃないわね」




「あれだけの体術の成績を残しときながら、よくそんな謙遜を言えるね」




「…あんなの、ここじゃ意味ないわ」




「じゃあなぜ、ここに来たんだい?」




「…それは、なんとなくよ」




「そうゆうことにしておくよ」




レオナルドは、腰に身に着けていた剣を取り出す。




「話しているだけじゃ観客も飽きちゃうだろうし、そろそろ行かせてもらうよ」




「お好きにどうぞ」




「じゃあ行かせてもらうよ!」




剣を片手にうさみの方向へ走り出すレオナルド。


うさみは右足を後ろに引き、態勢を整える。




ブンッ。




レオナルドの剣がうさみに襲い掛かる。




ギィィン。




金属同士のぶつかる音が聞こえる。




「…それが君の武器ってわけだ」




レオナルドの剣はうさみのによって防がれる。


だが、ただの右脚じゃない。


対近接用の開発されたブーツ型の武器だ。




「貴方の剣じゃ私のブーツは斬れないわよ」




「そりゃ、困った」




「おぉーっとここで宇佐選手!自身の武器であるブーツをうまく活用し見事攻撃を防ぎました!」




「うさみ選手の身体能力と動体視力なら並大抵の攻撃は受け流すことなんて簡単でしょうね~」




全然困った様子の見せないレオナルド。


再び剣を構え、うさみに攻撃する。




キンッ。キンッ。キンッ。




レオナルドは剣を、うさみは左脚を軸に右脚で剣を薙ぎ払っていく。




「体幹が良いねうさみさん。片脚で支えながら防ぐなんてさすがだね」




「あら、お世辞どう…もっ!」




すぐさま軸にしている脚を入れ替え、廻し蹴りのように左脚で迎撃する。


その攻撃をすぐ剣で防ぐレオナルド。




「もちろん、左脚もつけてるよね」




「おしゃれじゃないからねっ」




そのまま、左脚で何度も蹴り込む。


すべてを剣でいなす。




「奇しくも僕たちは同じ色。重なるところはあるけれど、違うところがあるそれは…」




「魔力量よ。そんなの分かっているわ」




「だよね。僕は遠慮なくいくけどいいかい?」




「そのための試合でしょ?来なさいよ」




手で招くようにレオナルド向けるうさみ。


レオナルドはにこっと笑い、




集中強化アクロワスワン・レンフォーサー




うさみと負けじと魔法を唱える。




集中強化アクロワスワン・レンフォーサー




うさみはブーツ本体へ、レオナルドは剣だけではなく身体にも魔法をかける。




「もういっかい、手合わせをお願いするよ」




「かかってきなさい!」




「これは熱い展開っ!同じ色の特色を持った者同士による魔法!ここは地力の差が出るか!」




「魔法範囲の差がちょっと痛いですかね~」




おおおおぉぉぉぉ。




実況解説席や観客席も大盛り上がりを見せている。




ギィィン。




三度鈍い音が響き渡る。


うさみはレオナルドの剣を防ぐことはできる…が、身体まで強化されたスピードにはついてこれない。




ゴンッ。




腹部に打撃音が聞こえ、うさみは後方へ後ずさる。




「ゔっ…」




思わずうずくまるうさみ。




「斬ってはないよ。柄頭で打ち付けただけだ」




「やはり、ここで差が出てきてしまったかっ」




「うーん、思ったより身体強化のスピードが速かったみたいですね~。防ぎきることができなかったようです~」




「…うさみさんっ!」




ステージ端でかのんが叫ぶ。




「んー、ちと分が悪いか」




「そんなの始まる前から分かってただろ」




「…そんなことよりうさみさんがっ!」




かのんが慌てて、俺の裾をつかみながらステージを指さす。




「おうおう。やられてんなぁ」




「…やられてんなぁ。じゃないです!このままじゃうさみさんがっ」




「まあまあ、かのん落ち着けよ」




慌てるかのんを制止する様に声かける大樹。




「あの鬼がこのくらいで根を吐くことは無いぜ。あいつの負けん気は恐ろしいくらいだからな」




「…でもレオナルドくんの魔力量6に対して、うさみさんは…」




「…1」




静かにその差を告げる俺。




「だが、魔力差で言ったら、ここに下剋上を指し遂げた男が1人」




大樹が俺を指さす。




「人を化け物みたいにいうな。…まあ、ここで終わる玉じゃないだろ」




「案外、もう降参したりして」




「…それも充分あり得るな」




「…なんでお2人ともそんなに平然としていらっしゃるんですかっ?」




かのんが不思議そうに尋ねる。




「「あいつが負けると思ってないから」」




一言一句同じことを言う2人。


かのんは驚いた表情で固まっている。




「だよな」




「まったくだ。鬼は強いぞぉ」




そういいながら、頭に角を立てる大樹。




「まあ、1番関係が長い大樹がこう言ってんだ。あくまでこれは試合。俺らはここで見とくしかできないんだぜ」




「そのとーりだ」




「…男の人って、みんなこうなんですか…?」




かのんは疑問が解けない様子だ。




「そろそろ立ち上がる頃じゃないのか」




「沸々と怒ってたらって考えると恐ろしい」




大樹は身震いをしてうずくまっているうさみを見つめるのであった。

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