第16話 後腐れなく

ー回想ー




かのんが発動した魔法『土喰羅ドグラ』。


まさか地面からモグラと空想上の生物である龍を兼ね合わせたオリジナルのぬいぐるみを展開されるとは思わない。


これがかのんの奥の手。


お嬢の魔法『認知可視化ルール・ルコネトル』は自身を覆う空間を展開し、如何なるものも空間内に入った瞬間認識し迎撃を行える。


いわば、オートカウンターに近い代物。


常に空間を展開することで膨大な魔力消費を余儀なくされる。


ハクノが生みだした防御魔法だが、完全無欠なわけではない。


お嬢が使用するにあたっての弱点、それは自身の足元まで認識を伸ばすことができない点。


その弱点を理解していたか分からないが、かのんの攻撃手段としては一番効果的なものを選んだといっていい。


勝敗はこの魔法で決まった、と言いたかったが。


下からの攻撃だと気づいたお嬢は長銃魔装ウェポン・カノンレイを即座にとり、足元に銃口を向ける。


魔法発動と同時に魔装の全力発射で応戦。


だが、これまでの魔力消費が激しく土喰羅ドグラのパワーに押し切られ上空へ。


上空に押し切られ、終わり際のとこで簡易的な防御魔法を発動。


魔法同士のぶつかり合いにより威力が落ち、直撃を避けたといえど、ダメージは相当な物。


それでも身体が動いたのは、勝ちたいという気持ちの問題だろう。


意地を見せ、油断を誘発した結果、最後の最後に上から距離を詰め勲章を壊すことができたのだろう。


最後に命運を分けたのは、実力云々ではなく、『勝ちたい』という気持ちの問題と結論付けるのはいろいろと物議を醸しそうだが、それでも勝ち切ったお嬢の有志を賞賛してほしい。






ー現在ー




「ただいまステージの修復、選手の治療を行っております。第3試合までもうしばらくお待ちください」




実況の音無2年が観客席へ呼びかける。




「面白い試合でしたね~。生徒の成長が目の前でみれて嬉しいです~」




「たしかに!後輩のすごさを改めて見せてもらうことができました。今年の1年生は実力者ぞろいですね!これも先生の指導の賜物でしょうか?」




「いや~、私は特に何もしていませんよ~。生徒らのポテンシャルですよね~」




激闘を制した1年生達への賞賛が贈られる。




「ですがっ!まだまだ新人戦はこれから!魅力ある選手が多いですからね」




「大本命のレオナルドくんが~いまからですからね~楽しみな方も多いのではないでしょうか~」




「たしかに。優勝候補筆頭には大きな期待がかかります」




実況解説席でも盛り上がりを見せている様子。






「かのん。あとちょっとだったわね」




「めちゃめちゃいい戦いだったぜ」




「…ありがとうございます」




ステージ端では、うさみ・大樹・かのんの3人が健闘をたたっていた。




「…最後、勝ったと思って気が緩みました。…その間にも華ちゃんは勝つために思考を重ねてました…。…わたしが負けるのは必然です」




「そんなことないわよ」




「そうだぜ?ほら」




大樹が観客席の方を指さす。


かのんも観客席に目を移す。


すると…




うぉぉぉぉぉ。




「いい勝負だった!」




「ぬいぐるみ使いの勝ちかと思ったぜっ。公爵家相手にあそこまでやれるなんてな」




「よく見りゃかわいいじゃねーか!」




数々の賛辞が贈られる。




「…えっ」




不思議そうに、びっくりした様子で固まるかのん。




「これがあんたの勝ち取ったものなんじゃないかしら」




「ここまで盛り上がるくらい良かったんだぜ?胸張って行こうぜ」




「そうよ。きっと華も同じことを言うと思うわ」






「…そういえば華ちゃんは…?」




「華は救護室に送られたぜ」




「傷は浅くはないものね」




「…私の、せいですよね」




かのんは俯く。




「そうね」だぜ」




思ったより辛辣な言葉を贈る2人。


だが、




「かのんが強すぎたせいよね」




「あんな実力があるならビクビクする必要ないのにな」




それは実力を認めているからこその言葉だった。




「…華ちゃんは、怒ってないでしょうか?」




「なんで怒るのよ」




「負けてたら怒ってたかもなっ」




大樹はハハッと笑いながら冗談を言う。




「冗談に聞こえないわね、それ」




「…ですね」




2人して笑いながら顔を見合わせるのであった。










「救護室にいかなくてもよろしいのですか?お嬢様」




従者が主に問いかける。




「…いってどうするのよ」




「労いでも…と思いましてね」




主は、はぁとため息をつき、




「たかが1回勝っただけじゃない。別に褒めることでもないわ」




「負けるかとそわそわしてらっしゃいましたが」




「黙りなさい!…それに公爵家としてこのくらい勝たないといけないことくらいあなただって分かっているはずよ」




「重々承知しておりますよ。だからこそ、我々はこの場にいるわけですからね」




「そうよ」




主はふと、あたりを見渡す。




「ここにきているのは、私達だけじゃないことも分かっているでしょう?」




「周りに気を配るのは得意ですから」




「でしょうね」




「偵察に来られるのは、私どもの学園だけではないですからね」




「あそこにいる白服の生真面目そうなところが聖マリウス学院のところよ」




「別の方向にいるのは、老游院の生徒ですね。赤色が派手で分かりやすいです」




「あそこは隠れる気がないだけでしょ」




「上が上ですからね」




「今度ある『統合新人戦』に向けての4校が勢ぞろいよ」




「この時期におおやけで大会を公開するのはイリーナル学園ここくらいでしょう。何を考えているのか」




「さぁ?そんなの知らないわ。…まあ私達はこの機を逃すほど馬鹿じゃないわよってことかしら」




「あちらからすると公開したところで優勝はもらいますよっていう、余裕の表れでしょうか?」




「去年負けているところが?イリーナルは昔からこの伝統はあるのよ。嫌味をいうものじゃないわ」




「…すみません。…ところで」




従者があるところを指さす。


主が指さす方向に顔を向けると、呆れたように頭を抱える。


視線の先には黄色いバンダナをつけた少年がこちらに手を振っている。




「どうしましょうか?あれ、殺りましょうか?」




「…いいわ、ほっときなさい。どうせ何もしなくても勝手にこっちに来るわ」












ー数分後ー




「水炎寺じゃないか」




食べ物を口に入れながら水炎寺と呼ばれたお嬢様の隣に座る風間。




「…風間君。遠くから手を振らないで頂戴。注目の的じゃない」




注意するお嬢様…もとい、水炎寺 波流渦。




「いやぁ、ごめんごめん。知り合い見つけてつい…ね」




「おい、お嬢様に気安くするな」




「まあまあそうゆうなってレイリー。お前がそんなんだから水炎寺の周りに人が集まりにくいんじゃないのかい?」




反対で立っている従者…レイリーに声をかける。




「ケンカを売っているのなら喜んで買うが?」




「なーんでそんなケンカ腰かねぇ。そんなんだから風がチクチクしてんだよ」




「その風っていうのをやめろ。お前の独特の感性で話を進めるな」




「もう2人もやめなさい。レイは少し落ち着きなさい。風間君はここにいていいけどあまり騒がしくしないで頂戴」




「申し訳ありませんお嬢様」




「分かりましたよ~お嬢様」




この3者、風間の知り合いという点でお分かりの通りサンジュ学園の生徒だ。


各々この大会を見に来たところ、鉢合わせをした感じなのだった。










ー観客席ー




「次の試合って、今戦った2人よりも強い人が出るってことだよな」




「学年主席なんだから、当然じゃない」




「うちの首席様とどっちが強いんだろうね」




「さあね」




「冷たいねぇ。学年1優しいと評判の本城さんはどこにいったんだが」




「あんたに優しくしてどうするのよ」




「たしかに」




「ほら、変なこと言ってないで。そろそろはじまりそうよ」




「さあ、皆さんステージの修復が終わりました!これより新人戦第3試合目を開始したいと思います!両者、前へ出てください!」




ステージの修復が終了し、各選手が歩き始める。


片方には剣をつけた金髪の男性。


もう片方にはすました顔で登場した灰色ツインテール。




「両者揃いました!それでは、学内新人戦第3試合、レオナルド・テリオス選手VS宇佐 美鈴選手!悔いのないよう、よろしくお願いいたします!」




3試合目が始まる合図がなった。

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