第15話 新人戦2試合目②
ステージ上では公家院 華が無数のぬいぐるみを相手に戦闘を繰り広げている。
観客も大盛り上がりだ。
「…あんなの早く倒しなさいよね」
「公家院様はあのぬいぐるみ使いに多少苦戦されているのでは?」
「あの子があの程度なわけないじゃない。仮にも私と同じ公爵家よ。過小評価はされているけど、地力はある子よ」
観客席では、青色短髪少女が爪を噛みながら、歯がゆそうに観戦している。
隣で話をしているのは、その従者だ。
「お嬢様はあの2人に固執しすぎる節があります。公家院家で見るのであれば、長女様や三女様の方が危険極まりないかと」
「そうゆう問題じゃないのよ。あの子とは同い年でよく顔を合わせてたのは貴方も隣で見ていたでしょう?」
「ですが、大抵次女様だけでなく長女様もいましたよ」
「あんたねぇ…」
分かってないわねぇ、と首を横に振る。
「何度も言うけど、そうゆう問題じゃないのよ。それに土壇場に強いのよ。あの子は」
「今回も勝利は揺るがないと?」
「さぁ?弱いから勝てるかしら?」
「どっちなんですか…」
意見がコロコロ変わる主にため息をつく従者であった。
ーステージー
スパッ。スパッ。
迫りくるぬいぐるみたちを切り倒しながら、思考を重ねる。
ぬいぐるみの数が多すぎて、こっちの体力が無駄に消耗されていく。
キリがいいところで、打開していきたいけど魔力操作が精密すぎて綻びがない。
「…これが、かのんちゃんの実力…」
「…まだまだいきますよっ。ショウティちゃん!」
小さなネコのぬいぐるみが背後から切りかかる。
「…っ!?」
間一髪のところで避けたが、この交錯する中で全部避けるのは無理。
「かといってどうすれば…」
「…もう一度!」
ネコのぬいぐるみが再び襲ってくる。
…やばっ、避けられない。
とっさに左腕で防御するが、守った左腕が切り裂かれる。
ザクッ。
「…いったいわねぇっ」
「…もっと大きな攻撃じゃないと、華ちゃんは倒せないよね」
「当たり前じゃない。このくらいなんともないわ」
「…じゃあどんどん行くね。ベティちゃん」
クマのぬいぐるみが再度大きくなる。
ドォォォン。
振り上げられた手は、ステージに亀裂を走らせる。
このままじゃ質量で押し切られるっ。
「こうなったらっ!」
双剣をしまい、
「いっけぇ!」
クマのぬいぐるみに魔力弾の連射を浴びせる。
動きは止まるが、倒せるほどではない。
「動きがとまれば、ただのでかい的よ!」
「…ベティちゃん!やっちゃって!」
再び手を振りかぶる。
私は襲い掛かるぬいぐるみに銃口を向け、
「食らいなさいっ!」
ボォォォォ。
銃口から魔力弾ではなく、魔力砲が放たれる。
直撃したベティちゃんの胸部に穴が開く。
「…えっ、ベティ…ちゃん…?」
…ごめん、かのんちゃん。
素早く双剣をとり、かのんちゃんとの間合いを詰める。
…とった。
この胸についている勲章を斬れば…
ザシュッ。
あとちょっとで届く…はずだった。
何かを斬った音は、勲章を斬る音ではなく…私のふくらはぎを斬る音。
「……っっっ!?!?」
激痛に耐えながら斬られた方を振り向く。
「…ショウティ…ちゃんか」
「…ごめんね、ベティちゃん。仇は、ショウティちゃんが…」
「な、めんなぁっ!」
片足引きずりながらかのんちゃんとの距離を詰める。
「これでっ、おわりっ!」
今度こそ勲章をたたき斬る…が。
かのんちゃんは周囲を囲んでいるぬいぐるみたち盾にし、私の攻撃を防ぐ。
「…この子たちは、身を挺して私のことを守ってくれるいい子たち。…ほんとにごめんねっ、華ちゃん。この勝負、私の…勝ち」
勝利を確信したかのんちゃん。
その眼はとても申し訳なさそう。
…でもっ!
「…片足やられたくらいで、私が諦めるとでも思っているの!」
後ろにバックステップをとり、かのんちゃんとの間合いを広げる私。
「…今の距離感が、華ちゃんにとって一番の好機だったはずなのに…。なんでわざわざ距離をとったの…?」
「いったでしょう?私は諦めが悪いのよ」
傷ついたふくらはぎにはスカートを破り止血。
さらに、
「ゲリオン・キュア」
傷口に治癒魔法をかけ、致命傷を避ける。
痛みはまだ残るが、この程度大きな問題はない。
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
魔装を構え、静かに呼吸を整える。
「…何をしてこようと、華ちゃんはもう早く動けないでしょう?…ショウティちゃん」
気配を消し、私の背後から奇襲をかけようとするショウティちゃん。
だが、気配を察し双剣を突きつける。
「…なんでわかったの?魔力探知には引っかからないように魔法を施しているのに…」
「ごめんね。奥の手は、まだまだあるってこと」
「佐々木先生、先ほどの攻防はすさまじいものを感じました。今回のこれは、なんなんでしょう?第6感というやつでしょうか?」
実況の音無2年が佐々木先生に問う。
「いや~あれはですね~第6感なんて感覚的なものではありませんよ~」
佐々木先生は目を細める。
「公家院選手の周りに、う~っすらと空間が生じているのが分かりますか~?それは、彼女の特色をうまく利用した魔法の一種ですね~」
「ほうほう。と、いいますと?」
「魔力探知にはひっかからない~けど、その空間に足を踏み入れた時点で~認識されるとおもうんですよね~。彼女の魔力コントロールならではの魔法~ですね~」
「さしずめ、
「…それを維持するのは、苦労するんじゃないですか?」
「それはそうね。でも、気合と根性よっ」
「…なら遠慮なく続きを」
そういって全方向からぬいぐるみを飛ばす。
「無駄よっ!」
手を前に出し、魔法
だが、高度な魔法にはそれ相当の代償がある。
「…きっついわね」
鼻から流れてくる血を拭き、苦しそうに顔を歪ませる。
身体への影響は計り知れない。
…ハクノさんから教えてもらった奥の手の1つ。
今にも倒れてしまいそうだわ。
「…大丈夫ですか?華ちゃん?」
かのんちゃんが心配そうに尋ねる。
「心配いらないわ。…でもそろそろ決着を決めようかしら?結構立ってるのもやっとなのよね」
「…分かりました。じゃあこれで最後にしますね」
かのんちゃんはそうゆうと、地面に手を置く。
「…これは、私のオリジナル」
ドドドドッ。
地面が揺れる。
…大丈夫。何が来ても
「…
ぬいぐるみ?の名を呼ぶと、地中からもぐらのような龍のような物体が私の下から現れる。
「…これはっ!?」
「…食べちゃって」
ボウォォォォ。
光り輝く物体に包み覆われる。
…シーン。
かのんちゃんの魔法発動後、私がいたはずの場所は何も残らず、静けさだけが残る。
「…もう魔力が空っぽ…。…みんな、よく頑張りました。ありがとねっ」
かのんちゃんはぬいぐるみたちにお礼を言っていく。
「…こ、れは、公家院選手の姿が…ありませんね。天縫糸選手の魔法によってやられてしまったか…?」
「…う~ん、それはどうでしょうかねぇ~」
実況に困っている音無2年を横目に佐々木先生は上空を見つめる。
「…えー、公家院選手の姿が見えませんが。早急に捜索隊を出してもらいましょう。こほん、では学内新人戦第2試合目!勝者…」
実況が高らかに勝者を宣言しようとしたその時、
「…来ましたよ~」
佐々木先生が眺めていた上空を指さしながら呟く。
「…遅いわ。もっと早く決着つけなさい。ヒヤヒヤさせないでよね」
観客席にいる青髪の少女が聞こえないように呟く。
「勝者…えっ?何がでしょうか…?」
指された上空を見上げる。
すると、
「………とっっったぁぁぁぁ」
シュンッ。
姿が見えなかった私がボロボロになりながら、かのんちゃんの胸についている勲章をたたき斬る。
「…えっ?」
何が起こったか分からず唖然とするかのんちゃん。
観客席も何が起こったか分からずといった様子。
現状を説明すると、私が上空から急に現れ、かのんちゃんの勲章を斬り、そのまま地面に倒れ動かなくなっている。
「いやぁ~、一本やられましたね~」
佐々木先生は嬉しそうに語る。
「これは、どうゆうことでしょうか…?」
「簡単に説明すると~公家院選手が天縫糸選手の勲章を斬った~。なおかつ公家院選手の勲章は壊れていない~。と、いうことは~?」
実況の音無2年に分かりやすく解説する。
「と、いうことはぁ、そうゆうことですよねっ。改めましてっ!学内新人戦第2試合!勝者!公家院 華選手っ!」
うぉぉぉぉぉぉ。
勝者が倒れ、敗者がほぼ無傷にで立っている。
観客席の大きな大きな歓声が上がった。
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