第14話 新人戦2試合目①
ーひと時前ー
「…迅。大丈夫かしら」
私、公家院 華は自身の護衛のある黒崎 迅を心配していた。
「あれだけ喋れれば大丈夫じゃない?」
「…でも、傷は深かったように見えましたが…」
灰色ツインテールのうさみさんと紫色のロングウェーブの少女かのんちゃんがそれぞれの意見を述べる。
「だーじょうぶだって。傷に関してはなんか治ってるように見えたぞ?あの人工魔装が治癒効果をあるって考えるのが妥当だな」
ガタイの良い元気な男、大樹くんはガハハッと大きな声で話す。
「そんなことより次は華とかのんの試合よ。2人とも大丈夫なの?」
うさみさんが心配そうに尋ねる。
「私は大丈夫よ!」
「…私は…」
かのんちゃんは俯く…が、
『大丈夫。俺が見てる』
さっきの言葉を思い出す。
「…大丈夫、です。華ちゃんと、戦えます」
気合の入った言葉がかのんちゃんから出る。
「その調子よっ。それじゃあ私は反対のゲートから出るから。またあとでね」
元気そうに立ち去っていく私。
「…大丈夫よ、私。」
反対ゲートで1人言い聞かせるようにつぶやく。
やる気は、ある。それは間違いない。
だが、それと緊張がないは結び付かない。
私は、公家院家で才のない娘。
言い聞かされ続けてきた。
決して、爵位に胡坐をかかないよう、一生懸命頑張ってきた。
相手は、同じ同級生かのん。
彼女も相当の実力が本来ある。
ポテンシャルを秘めている。
それだけで、不安材料は充分。
私は公爵家として、無様な戦いはできない。
「…それでも、私は」
迷いを振り払い、前へ進む。
迅に不甲斐ない姿は見せられない。
「さぁ、皆様お待たせいたしました。ステージの修正が終わり、これより新人戦第2試合目を始めていきたいと思います。佐々木先生、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします~。この2試合目は皆さん期待の公家院さんの出場です~。とても楽しみですね~」
実況解説の音無2年生、教師の佐々木先生がステージ修復の終わりを告げる。
「それでは参りましょう。第2試合目、右からの登場はこの方っ!現公爵家次女にして当主候補!公家院 華選手!」
うおおおおおおおおっ。
大歓声が上がる。
観客は一番私を見に来たといっても過言。
期待による重圧は充分すぎるほど。
「反対のゲートからは、1年生にして成績優秀枠。普段はおとなしいが魔法の繊細さは一番!天縫糸 花音選手!」
ゆっくりと壇上に上がるかのんちゃん。
自身はなさげだが、その眼には充分の気合は入っている。
「かのんちゃん。負けないわよ」
「…私は、私ができる範囲のことをやります」
「さあ、互いの健闘を称えまして。学内新人戦第2試合、開始!」
「さっそく、いかせてもらうわ」
そういって右手の指輪を前に出し、
『我望むは力なり。数多の困難を超えるため、顕現せよ! 』
「
自身の武器である人工魔装を取り出す。
対するかのんちゃんは…
「…!?」
かのんちゃんは周囲に大小兼ね備えたぬいぐるみを広げる。
「…これは私のお友達なの。これはビディちゃん。これはショウティちゃん。これは…」
ぬいぐるみを持ちながら、次々に名前を読んでいくかのんちゃん。
「おい、なんだあれ」
「ぬいぐるみに名前つけてるぞ」
「気味が悪い」
観客席からはコソコソと声が聞こえてくる。
「…分かっています。私は変な子。それは前から言われています。…でも」
かのんちゃんは私の方を向く。
「…でも、そんな私のことを、ちゃんと見ていてくれるって言ってくれる人がいました。…その人は少し口が悪く、素っ気ないですが、周りに気遣いができる優しい人です。…華ちゃんの、大切な人なことは、分かっているけど、今回は、頑張らせてもらいます!」
かのんちゃんの強い意志に当てられ、少し後ずさる私。
「…大丈夫よかのんちゃん。確かにあいつは私にとって一番大事な人だけど、どこを居場所にするかはあいつの決めること!」
大きな銃口をかのんちゃんに向ける。
「あいつを縛るつもりはないわっ!」
叫び声と同時に銃口から魔力弾が放たれる。
かのんちゃんは少し微笑み、
「…黒崎くんは華ちゃんから絶対離れませんよ。…ベティちゃんっ!」
2mほどしかなかったぬいぐるみが魔力注入によりどんどん大きくなる。
約10m程度まで大きくなる。
迫りくる魔力弾を大きなクマのぬいぐるみが手ではじく。
「なっ…!?」
「おぉーっと、これは天縫糸選手!散らばっていたぬいぐるみの1つに魔力を注ぎ、攻撃をはじきましたね」
「天縫糸選手の魔法、
「…そのままっ!」
大きなぬいぐるみは私の方に走ってくる。
あんな10m弱の巨体の攻撃食らったら一撃っ…!
「レステ!」
魔法を唱えるとぬいぐるみの地面から魔法陣が出現する。
するとぬいぐるみの動きが止まる。
「あれは~静止魔法ですね~」
「魔法の種類はその人も色によって特色が分かれますが、公家院選手の青色はああいった魔法を使えるのでしょうか?」
「使えないことはないですが、その色に合った魔法以外は精度が落ちますよね~。その辺は公家院くんの努力の賜物と言えますかね~」
「…ベティちゃん!」
大きなぬいぐるみは通常の2mほどの大きさに戻り、かのんちゃんのもとに帰っていく。
「…かのんちゃん」
「…いいんです。ぬいぐるみが友達なんて…。変な人だって自覚があるから…」
自分を卑下することを言い切る前に、
「すごいわぁ!ぬいぐるみ使いなことは分かっていたけど、私の人工魔装の攻撃をいとも簡単にはじくなんて!ベティちゃんも強いのね」
かのんちゃんはきょとんとしている。
「…変な人って、思わないんですか?」
「なぜ?立派な魔法じゃない。それこそがかのんちゃんの強さよ。私も負けてられないわ」
かのんちゃんは俯いたまま、何も言わず肩を震わせている。
「…私、なんかおかしなこと言ったかしら?変だって言うなら、迅の方が変よ。魔力なんてないくせにいつも私の前に立って守ってくれるの。ちゃんと勝って帰ってくるのよ?あれこそこの世の誰よりも奇妙な存在よ」
「…ふふっ。たしかにそうですね。それほど華ちゃんのそばにいたい、ってことじゃないのかな」
かのんちゃんは涙を浮かべながら、笑う。
「それにしても、この攻撃が効かない以上次の方法を考えないとね」
花音ちゃんの話も聞かず、ぶつぶつと独り言のようにつぶやく。
「…ありがとうございます。華ちゃん」
「どういたしまして…?とくになにかした覚えはないのだけど」
「…お礼に、ちゃんと全力で相手をさせてくださいね」
「最初からそのつもりなのだけど!」
「…
多くのぬいぐるみが、私の方へ襲い掛かってくる。
「ぬいぐるみさんたち、ごめんなさいねっ!」
「いやあ、すごい激闘ですね」
「あの多数のぬいぐるみに対して~、的確な剣さばき~。近距離戦の鍛錬を~欠かさずやっている証拠ですね~」
「それにしてもえらく話されていましたが、なにを話していたんでしょうか?」
「好きな男性の奪い合いとか~だったら面白いですよね~」
「ま、まさかぁ」
音無2年生は苦笑を見せていた。
「実況解説席は言いたい放題だな」
「ほんとにね」
ステージ端の大樹とうさみはアナウンスの対しての意見を話していた。
「華の人工魔装も威力高そうだなぁ」
「本人は表立って言わないけど、公爵家なのよ。強いに決まっているじゃない」
「たまに、公爵家って忘れちゃうよな」
「えぇ。これもあの子の人柄よね」
「うーん、どっちにも勝ってほしいんだがなぁ」
「そんな難しいこと言わないの」
「へいへい」
「…まあさっきのかのんを見れば、どっちが勝ってもあと腐れなく帰ってくるわよ」
「たしかにな」
そう言って、2人は送り出す前の状況を思い出す。
『かのん、大丈夫?』
『無理すんなよ』
『…大丈夫です。華ちゃんもきっと、私たちの知らない重圧を背負ってこの舞台に立つと思うんです。それと比べれば、わたしのなんて些細なものだと思います』
『人の感じ方はそれぞれあると思うがな』
『そうよ。この馬鹿の言う通り、嫌なことや苦しいことなんてそれぞれ違うんだから』
かのんはクスッと笑い、
『…ありがとうございます。私は勇気をもらったので、ここで頑張ってみたいと思います。…じゃあ、行ってきますね』
『がんばれよ』
『ほんとに無理だけはだめよ』
「吹っ切れたような感じだったな」
「ほんっと、あの男は。たらしもいいところね」
「団子はきなこ派だ」
「…誰がみたらしっていったのよ…」
呆れた様子のうさみであった。
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