第13話 来訪者
救護室で休んでいる俺、黒崎 迅は学長と対面していた。
隣のベッドには美登の姿もある。まだ意識は回復していない。
学長の指示なのか、救護室の1室を借り、ほぼ個室のような状態になっている。
「どうしましたか?こんなところにおいでなすって」
「…いや、先ほどの試合の労いにね」
互いに一言発すると、長い静寂が訪れる。
「もうすぐお嬢の試合が始まりますよ」
「あぁ、すぐにでも行かせてもらうよ。でもその前に確認したいことがあってね」
…俺の人工魔装のことか?
魔力0がどうやって使いこなしてるのか?とか、そんなところか。
すると学長は静かに口を開く。
「私は壁の中の光景も見えていた。この意味が分かるかね?」
「…さあ、どうゆういみでしょうか」
「まあそうしらを切る必要はない。別に罰するために来たわけではないのだからね」
「そうですか」
「いっただろう?労いに来たと」
その割には、学長から放たれる重圧は並みの学生なら失神しているほどだ。
言葉からは優しさを感じるが、態度は威圧的だ。
「仮に見えていた。だったら、なんなんです?」
「…君には、美登少年のあれをどう見る?」
「いち学生の私に聞かれましても分かりませんね」
互いに腹の探り合いを行いあう2人。
学長はしびれを切らしたのか、はぐらかすことなく話始める。
「私には、あれが『呪い』見えた」
「…『呪い』…ですか」
「驚かないんだね」
「顔に出ないだけでびっくりしてますよ」
変わらずしらを切り続ける。
「そうか…。君にはあの『呪い』がなんなのか分かるかね?」
「先ほども言いましたが、いち学生の身分で分かりませんよ」
「質問の仕方を変えよう。誰からの『呪い』だと思うかね?」
…誰から…か。
俺はゆっくり、口を開く。
「私には何も分かりません。…が、彼のあれは先天性ではないとは断言できますね」
「…理由を聞いても?」
「魔力の馴染みが通常のそれとは違ったからです。本来、先天性の魔力というのは身体に対して淀みのない『流れ』が存在します。彼のあれには本人の魔力とは馴染みの悪いものに感じました。剣を交えたからこそ、分かったことですが」
学長はふむ…と顎に手をあてる。
「…だれにでも分かると思うかね?」
「眼が良い人ならじっくり見たら分かるんじゃないですか?そもそも魔力の流れを理解していればの話ですけどね」
「先天性ではない。この意見が一致しただけでも話をしに来た甲斐があった。ありがとう」
『呪い』のことでも調べてんのか?
入学したばかりの学生が『呪い』持ちとか、さすがに頭を抱えるか。
「…今回の件は黒崎少年の機転の利いた判断により事なきを得たので、ステージ上に第3者を招き入れたことは不問にしておこう」
…ほんとに見えてたんだな。
ハクノに対して、特に聞いても来ない…か。
対して重要でもないと判断した様子か。
「それでは、私はこれで失礼するよ。時間をとらせてしまった。すまないね」
謝りながら、救護室を去っていく学長。
…それにしても、まさか美登があんなのを持っているとは。
普通に戦っていれば、出ることはなかったんだろうが…。
あれは本来解かれるはずのない呪いのはず。
俺の
美登には悪いことをしたな。
1人で考え事をしていると、急な来訪者が現れる。
「ちょ、すみません。患者様は今休ませている状態で…」
「大丈夫ですよ」
「そうです。これは未来のため」
「邪魔をしないでいただきたい」
多数のおっさんたちが救護班の静止を撥ね退け、俺の救護室に押し寄せてきた。
「おっ、起きているね。どうも、公家院家の護衛さん」
その内の1人が挨拶する。
「試合明けで申し訳ないね。我々は地方の魔法軍の属している上層部共々だ」
…地方?くそ田舎の魔法軍が何の用だが。
「どこの地方か分かりませんが、前線と近いところですか?だとしたらこんなところで油を売っている場合ではないと思いますが」
「はははっ。手厳しい。だがその点は問題ない。我々は前線からさほど近くはないからね」
なんだ。ほんとのド田舎集団だった。
学長が出てから来た感じ、1人になるタイミングを見計らってたな。狸じじいどもめ。
「…何の御用で?」
「いや、大したことではないんだが。…君が持っているそれ。対価が大きそうで大変だろうと思ってね」
「そうそう。なので我々で有意義な活用をしてあげようと…ね」
…はぁ。大方俺の人工魔法狙いできたってことか。
重症の学生1人相手なら言い負かせられると。
良い度胸じゃねえか。そのケンカ買ってやるよ。
「前線に出たことないおっさんどもが面の前に出された餌につられてやってきたか」
安い挑発を送る。
すると、魔法軍の方々がえらくご立腹される。
「このがきっ!おとなしくしていれば!」
「お前から奪うことだってたやすいものなんだぞ!」
「立場というものが分かっているのか!」
声を荒げ、集中砲火を受ける。
「強い武器持ったところで、肝心の成果を上げないと本部への昇進は難しいじゃないですかね?それともこの指輪があれば簡単だとでも?」
「それを使えば前線なんてたやすい。いとも簡単に制圧できるわ!」
学生の人工魔装にえらく期待されているもんですな。
まあ、そのくらいやばい代物だって、傍から見ても理解できる物なのも事実だが。
「安置で口出してるだけのおっさんには使えない代物ですよ」
「…さっきから聞いていれば舐めた口を!少し痛い目を見せてやらないといけないみたいだな!」
おっさんの内の1人が手を前に出し魔法陣を出す。
ここで魔法を使うのか。ほんとに小さなおつむで行動してんだな。
利口なことで。
あと少しで魔法が発動する…と思いきや、
「…これはいったい、どうゆうことだ」
唐突に救護室の入り口から、低めの声が響き渡る。
俺は声のする方を向く。
…ここでご登場ですか。
「…く、公家院公爵」
「いや、これは、その…」
「公家院公爵こそ、いかがされましたか?」
黒いスーツ姿にビシッと決まった黒髪。
公家院当主、公家院 総次郎だ。
俺に向けられていた魔法陣をすぐに止め、公家院当主に注目がいく。
「娘の護衛を労わりに来たんだが、いけないことかな?」
公家院公爵は不思議そうに問いかける。
「…どうゆうことだ?」
「公家院公爵は次女には興味を示さないはず」
「ということは次女の護衛なぞ気にすることはない…はずなのだが」
なるほど。
腐っても上層部様か。
公家院家の家庭事情も把握したうえでの行動ってわけね。
確かに本来なら、俺のことなんて眼中にないはずだが…どうゆう風の吹き回しなのか。
「…もう一度聞く。これはいったい、どうゆうことだ?」
公家院当主の圧が救護室全体を覆う。
地方の魔法軍のお偉いさん方は言葉を発することができない。
「…ご無沙汰しております。このようなところからのご返答で申し訳ありません。この者たちは私の指輪に興味がおありなようで、こちらにいらしたみたいです」
ベッドの上からではあるが、失礼のないように言葉を返す。
「そうか。…して、貴方がたはその指輪が欲しいと」
お偉いさん方は俯いたまま、動くとこはしない。
「それでは、実際に使ってみるといい。その身でいかに異常性のあるものか体験してもらおうじゃないか」
公家院当主は少し微笑みながら使用するよう促す。
「…ここでですか?」
「もちろん。さぁ、早く渡してあげなさい」
俺は仕方なく、1人のおっさんに指輪を渡す。
「…これがあれば、たとえ公爵といえど…」
…なんか小言でよからぬこと考えているみたいだな。
「劣弱。結界を張りなさい」
当主様は俺に命令してくる。
…ハクノを使えってか。
お嬢の護衛代理をしてもらっているから、今近くにはいない。
「当主様。僭越ながら私は魔力0の故、結界など張れませんよ」
当主様はきつい眼差しを浴びせる。
「…そうか。そうだったな」
懐から小さなスイッチを取りだし、起動する。
「
起動と同時に救護室を覆う空間が形成される。
完全に別の空間を作り、多少のことでは外部に漏れることはない。
「これで問題ない。はやく使いたまえ」
当主様はおっさんたちを催促する。
「…ええい、ままよ」
おっさんが指輪をつけ、詠唱する。
『世の理よ。統べるべき王のため我が身に纏え』
「
おっさんの身体に鎧が形成されていく。
「おぉ!おぉ!これで私も本部へ…っ!」
…ところが。
鎧は形を変え、詠唱したおっさんだけではなく周りのおっさんたちも覆い始める。
「我々にも力を与えるというのかっ!」
「周囲にも影響を与える代物!これは『幻想遺産』にも匹敵するのではないか!?」
上層部のおっさんたちは歓喜をあげている。
すると突然、そのうちの1人が叫び始める。
「うわぁぁぁ」
叫び声をあげたおっさんは鎧に包まれて魔力の塊とともに消滅する。
「な、なんだこれはっ!?」
「おい、どうなっている!?」
おっさんたちはどよめく中、俺と当主様は表情を変えることなく淡々と告げる。
「…足りないってよ」
「それを望んだのは貴方たちだが?」
「こ、こんなのきいてないぞ!?」
言ってもないし、聞いてもないだろ。
断末魔をあげながら、次々と霧散していくおっさんたち。
その中、指輪を起動したおっさんが地面に膝をついて苦しんでいる。
「魔力が…流れ込んでくる…」
…
過剰な魔力摂取により、身体に負荷が掛かりすぎている。
人工魔装に必要な魔力量が足りず、周りから魔力を強制的に供給している形となっておっさんの身体を蝕んでいる。
スィヨンの作った人工魔装を奪おうなんて…命知らずな奴らだ。
「おっさん。解除した方が身のためだと思う…が、もう手遅れか」
そこにはすでに指輪を起動した人物の姿はなく、指輪だけが地面に置かれていた。
あたりを見渡すまでもなく、残りの人物たちも跡形もなく消滅している。
「…ふん」
当主様は、何事もなかったかのように
落ちている指輪を拾い、俺の方に投げつける。
「管理するならば、しっかりと管理をしておきなさい」
「…申し訳ありません」
「…それと、この間の件だが」
この間というと、お嬢が誘拐されたときの…。
当主様は鋭い眼光を突きつける。
「事件の対応は良し。だが、事件を未遂で防げなかったのも己の失態」
「…おっしゃる通りです」
「…まあ、
「…は?」
俺からとてつもない殺気が当主様に向けられる。
「なんだ?癇に障ったか」
「…殺すぞ、ごみ公爵」
「やめておけ。指輪も使えない貴様など赤子を捻るよりたやすい」
だからどうした。
こいつ、このまま五体満足に返さねえ…ぞっ!?
唐突に、俺の頭がベッドにたたきつけられる。
ごみ公爵は決して動いているわけではない。
…くそ魔術がっ。
「…護衛ごときが殺意をこちらに向けるな。…まああれにはまだ使いようがある。無下にする気はない」
「使い…ようだ…?お前の…人形じゃ…ねえんだぞ…!」
「あれは私の娘だ。どうしようが私の勝手だ。貴様がどのような感情を抱いていようと関係ない」
そう言って、部屋を出ようと歩き出す。
歩き出した瞬間に俺は頭を押さえていたなにかから解放される。
「…また来る。貴様はしっかりあれがダメにならないように守っておけ」
救護室を去っていく当主様。
足音が遠ざかっていく。
「…くっそが…」
己の弱さを痛感し、悔し紛れの言葉が吐き捨てられる。
「…なにが護衛だっ!なにが護るだっ!こんなんじゃ…お嬢はっ!…もっと上の連中を倒すには手段なんて…選んでなんか…」
「…
誰もいないところから声が聞こえる。
「…ビューか」
いつの間にか、背後には青色ツインテールの子が立っている。
「華様を含む、
「…すまない。少し考えすぎていた」
「いえ、人は迷いそして歩んでいくものですわ。
左目の眼帯を触りながら、その場を後にするビュー。
その直後に、外では歓声が上がる。
「…お嬢たちの試合が終わったか。試合が見れなかったのは残念だが…」
第2試合が終わりをつげ、新人戦は続いていく。
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