第12話 新人戦1試合目②

ーステージ端ー




「迅って魔力0じゃなかったかしら…」




「水晶が壊れてたってことか?」




「…それでは、私たちが使用した際も壊れていたってことになりますよね?」




「…いえ、水晶は壊れていないわ。あれは、あの指輪に込められた魔力。内蔵されているものよ」




「人工魔装ってそんなこともできるのか?」




「そんなこと聞いたことないけど」




「…人工魔装は外部からの魔力供給によって顕現されるものです。多少の魔力を内蔵してはいるものの、基本的に内蔵されるのは魔装自体だけのはずですけど…」




「あれは、特注も特注。迅専用と言っても過言ではないわ。外部からあの魔力量を身に宿すのは本来自殺行為」




「っぱ、迅はすげえやつってことだよな」




「その一言ですましていいのかしら?」




「…さすが華ちゃんの護衛ですね」




本当なら、あんな力を目にしたら不気味に感じるのが普通。


なのに、この人たちは怖がるどころか、迅のことを認めてくれている。


こんなに嬉しいことはない。




「…ありがとう。あの人は私の、最高で最強の護衛なの」












ー観客席①ー




「ありゃあ、なんだ?」




「あんたがわかるわけないのに、私が分かるわけないでしょう」




今井 翔は不思議そうに問いかける。




「会長や先生方なら分かるもんか?」




「知らないわよそんなの」












ー観客席②ー




「…さすが」




「早く本気を出していればいいものを…」




「まあ、仕方ないわ。彼には彼なりの事情があるのよ」




「…お嬢様はあいつに甘すぎます」




「そう?私は正当な評価をしているつもりよ」




水色の短髪少女は微笑みを、その従者は辛辣な言葉を述べる。












ー???ー




「みてみて~。主人マスターが成ったよ~」




桃夏は嬉しそうに報告する。




「さすがスィヨンの作った人工魔装ね」




『人工魔装ぉという枠組みにあること自体ぃ可哀そうなもんだがぁ』




メメはその場にはいないが通信とハクノと桃夏の視覚共有にて確認している。




「完全に上位互換だよねえ」




真理鎧纏レゾナンス・フェール。あらゆる真理を捻じ曲げることができる鎧。普通に考えれば国家転覆できるほどの代物。時間制限があるとはいえ、一見ただの学生が使うにしては出来すぎたものではあるわね」




『あるじぃもそうだがぁ、スィヨォンも化け物だのぅ』




「…いや、複数人に対して遠隔操作で通信と視覚共有することができるメメちゃんも充分…」




「化け物と言えるわね」




『なぁに冗談をいっとるかぁ』




「…冗談ではないのだけど」




呆れたように物言うメメ。


それに対し、自身の存在価値が分かっていないことに疑問を抱くハクノ。


桃夏は主人の戦う姿をみて、楽しそうにしていた。












ーステージー




…見えなかった。


俺の視界に入っていた。


防御態勢をとろうした。


速すぎて、瞬間移動でもしたかのよう。


抜刀スピードの比ではない。




「…くそっ」




美登は悔しそうに呟く。


次席という肩書を持っていながら、この体たらく。


外部からの評価もある。




「一撃でギブアップか?」




「…なんだ?その力は」




「借り物ってところかな。卑怯とでもいうか?」




「…いや、問題ない」




「そうか」




再び、構えをとり、即座に抜刀する。




「…『居合・翁』」




キイイィィン。




…当たった。


その場を確認するが、黒い鎧はビクともせず仁王立ちしていた。




「…ばかなっ!?」




「すまねえな。この鎧は並みのもんじゃ捻じ曲げちまうんだ。完全防御ってわけではないんだがな…」




言葉が途切れると、また美登の視界から黒い鎧が消える。


…どこだ?


あたりを見渡すが見当たらない。




…ドンッ。




…気づいたら再び攻撃を食らい、吹き飛ばされていた。




「…タハッ…」




口から血が飛び出る。


…やばい。視界が…。


美登の意識はそこで途切れる。



すると、




ボオオォォオオォォ。




急に美登の身体からどす黒いオーラが溢れ出る。




「あれは、なんでしょうか?佐々木先生」




「うーん、あれはぁ…」




先生も少し困った様子だ。




「…少し困りましたねえ」




閲覧席から見ていた学長がひとりでに呟く。




「おい、あれって…」




「美登からなんか出てるわね…」




「…あれはいったいなんなんでしょうか…?」




「…迅…」




お嬢を含む、皆から不安の声が上がる中、突如ステージを覆い囲むように魔力の壁が出現する。




「…あれは…!?」










数十秒前…




俺、黒崎 迅はどす黒いオーラを目の当たりにしている。


美登がこんなのを隠し持ってるとはな。


それに、当の本人は意識がないと見た。


これが観客席に飛び火すると瞬間的に被害が拡大する。




『…ハクノ』




『はい』




『観客席に被害が出ないよう対処を頼む』




『…分かりました。主人マイ・マスター




すると即座に魔力の壁がステージを覆う。


内側からは見えるが、外側からは見えないようになっている。


さすが、仕事が早い。




『桃夏は周囲の警戒を』




『はい、主人マスター。ご武運を』




…さて、これをどうするかね。


タイムリミットを差し迫る中、状況確認を行う。


観客席は壁が出現し、どよめいている。




「おい、どうなってるんだよ」




「ステージがみえないじゃないか」




「なんとかしろよ」




次々に非難の声が上がる。




「申し訳ありません。こちらでも現在確認をしていますので、少々お待ちください」




実況の音無2年が観客席を落ち着かせる。




「いやぁ、すみません。ちょっとトラブルがありまして。私の顔に免じて少し待ってもらえないでしょうか?」




学長が一瞬で、場を収める。


さすがは、学園の長といったところか。




「ありがとうございます~学長~。ですが~、これでは中が見えませんね~。中ではどうなっているんでしょうか~?」




「…んで、これはちょいとめんどいか…」




どんどんオーラが大きくなっていく様を見ながら思考を巡らせる。




「…『呪い』、か」




『呪い』


普通の魔法とは違い、代償を用いて常識とはかけ離れた力を手にすることができる。


その代償とは様々あるが、中には寿命という対価もある。




「どこでそんなもんを手にしたんだか…。いや、それとも…」




最悪のパターンを想像していると、どす黒いオーラは美登の後ろに憑き、形だっていく。


オーラは俺を包んでいる魔力を飲み込もうと襲い掛かっていく。




「少々手荒だが、しかたねえよ…なっ!」




襲い掛かるオーラに対し、軽々と薙ぎ払う。


…くそがっ。キリがない。


このままじゃ、タイムリミットが先に来て俺の負けだ。


それどころか、学内新人戦すら危うい。


それじゃあ、せっかくのお嬢の晴れ舞台が台無しだ。




「その呪いのことは…今度聞き出すからな、美登」




オーラの中心に向けるように手を前に出す。


膨大な魔力が手に集まる。




「これでおしまいだ」




真理為る幾多の星々レゾナンス・デ・エトワール




手の平から繰り出される魔法は、どす黒いオーラを包み込むように放たれていく。




ヴオオォォォォ。




どす黒いオーラが徐々に小さくなっていく。




『ハクノ』




「ここに。主人マイ・マスター




俺の隣にハクノが現れる。




「あの呪いを閉じ込めろ」




「了解」




ハクノは両手を美登に向け、




『アンプリント』




魔法を唱えると、どす黒いオーラが美登に集結し次第に消えていく。




主人マイ・マスター。とりあえずは、これで大丈夫かと」




「助かる」




「いえ、それでは」




別れの言葉を残し、すぐさまその場から離れるハクノ。


と同時に魔力の壁もなくなっていく。




「おぉーと、ようやく壁がなくなりましたねぇ。状況はどうなっているんでしょうか?」




「これは~決着がついているみたいですね~」




周りから見た光景は美登が倒れており、人工魔装のタイムリミットが切れた俺が座り込んでいる光景だ。


ぱっと見れば、引き分けにも見える絵だ。




「迅!大丈夫なの!?」




「あぁ…お嬢。大丈夫ですよ」




「そう…」




お嬢は安堵するように胸をなでおろす。




「えーと、今黒崎選手の生存が確認されましたので、ここで試合終了とさせていただきます!学内新人戦第1試合、大方の期待を良い意味で裏切り、数々の下馬評を覆したのは、黒崎選手ですっ!」




ぶううぅぅぅぅ。




観客は次席の敗退と肝心の場面が見えなかったことで、不評が続いている。


言い返す力も残っていない。




『…ハクノ。一定の時間俺は動けない。何もないと思うがお嬢の周りを頼んだぞ』




『はい。主人マイ・マスター




「再度お伝えしますが、不必要なヤジをおやめください。これ以上の警告は退出もやむを得ないので、ご自身で注意をお願いします。えー現在、壊れたステージを修復しているので、第2試合まで少しお待ちください」




実況の音無2年が周囲呼びかける。


修復班がステージの修理を行っている。


美登とともに救護班に運ばれる俺。


お嬢はついて来ようとするが、




「お嬢ダメですよ。ステージが修復したら次はお嬢の番なんですから」




「でも…」




「それに、お嬢が勝てっていうからここまでやったんですよ?強いて言うならお嬢のせいでもあるんですから。お嬢も勝たないといけませんよ」




笑いながらお嬢に冗談を言う。




「…余計な一言が多いけど、任せなさい」




お嬢も涙をぬぐいながら答える。




「…かのん」




大樹・うさみ・かのんたちが後ろで心配している中、お嬢の次の対戦相手を呼びかける。




「…な、なんでしょうか?黒崎さん…。華ちゃんが相手だから、手加減しろとか、そうゆうのでしょうか…?」




かのんはオドオドしながら、近づき、問いかける。


俺はハハッと笑い、




「なんでそんなこと言う必要があるんだよ。…大丈夫だ、俺が見てる。他の誰がなんと言おうと気にすんな。公爵家がなんだ。ぶっ倒してやれ」




そういいながら、かのんの頭をなでる。




「…そんなこといったら、華ちゃんから怒られちゃいますよ…?」




泣きながら、ふふっと笑うかのん。




「私の目の前でいい度胸じゃない、迅!?」




「お嬢のわがままを聞いたんです。これくらいいいでしょ。それにすべての逆境を撥ね退けるからこそ、公家院 華でしょ」




「…そうね。当たり前じゃない。…それにかのん!」




かのんはビクッと驚いた様子。




「手加減なんて、言語道断。私たちは友達でもあり、好敵手でもあるのよ!全力でぶつかってこそ、より仲良くなるものよ!これは喧嘩じゃない。私たちの『勝ちたい』って想いのぶつかり合いよ」




「いいこと言うじゃない華」




「成績優秀者同士の戦いか。勉強にさせてもらうぜ」




「…大樹。その言い方だと俺の試合は勉強にならなかったみたいだな」




「そりゃ、お前のあれは参考にならん!それに美登の奴も魔法なしの剣術のみだったから素手の俺にはどうやって受け身とるしか考えられんかった」




「なるほどな」




周囲はクスクスっと笑いあっていた。

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