第6話 幕引き後

ー廃墟ー




「…反魔法結界アンチマジックフィールドの中での出来事、第3者の魔法士」




ローブの男は、数時間前に自身にあったことを振り返っている。


視線の先には、魔法警備団が廃墟内の捜索を行っている。




「まさか、あんな事態になるとは。やられるのは問題なかったのですが、完全に想定外なことが多すぎる」




考えても、起こったことは変わらない。




「まあ、目的は達成しました」




懐から出す血の入った小瓶を見つめ、安堵する。




「…それにを見つけられては、困りますからね」




男には現場に残っている理由があった。




「見つかったか?」




「いえ、見つかりません」




「やはり、跡形もないんじゃないのか?ここまで探していないとなると…」




「それでも手がかりを見つけなければならん。ある生徒の証言だと子爵位の子供がいるみたいだからな」




「それもホントの話なんですかね?魔法学園の生徒が悪さして暴発したのを隠しているだけじゃないですか?」




警備団の人たちは、生徒たちの話を話半ばで聞いており、信じているものはいないようだ。




「それでも、念のためだ。魔力痕跡をしっかり追え」




警備団の隊長らしき人物が統率を整える。




「そうですよ。しっかりしてないと、こうゆう目にあいます」




「だれだ?」




隊長が振り返る。




するとローブを着た男性が、隊長以外の警備団を無惨に殺していた。




「…音もなく、か。きさまなにも・・・!?」




隊長は声を出し切る前にローブの男に取り押さえられる。




「…騒がれたら困ります。わたしはただ忘れ物を取りに来ただけですよ」




そういって遠くを指さす。


指さした場所を確認すると、禍々しい光が瓦礫からあふれ出ている。




「…なんだ?あれは?」




「あれが私の忘れ物ですよ」




光はさらに輝きを増し、やがてが出てくる。




「△▼#▽▲△*▼▽▲!!!」




3メートル弱の巨体をした化け物が理解できない言語を叫ぶ。


人の形に見えるが頭がない。




「頭がない…制御する脳がないということですか。まあいいでしょう」




「…おい。これはなんなんだ?」




「これ、ですか?…そこに書いてますよ?」




ローブ男が床を指さす。


視線と合わせると…そこにはある学園の生徒手帳があった。


名は…アレクシス・サンドロス。学生の証言と一致する。




「そんな…まさか」




「いい表情ですね。信じたくないでしょう?でも、これが現実です」




ローブの男は機嫌が良い様子で語り始める。




「彼は、先の戦闘で確かに死んだ。ですが、彼にはまだ救済措置が残されていたのです。戦闘中は、意志が弱く使用することはありませんでしたが。自分の死地を悟り、意を決しを飲んだ」




男は、くるくると回りながら嬉々として続ける。




「結果、身体と適合し『半魔人』へと至った!見立てとしては1割も確率はなかったんですが、子爵位という血統が%を上乗せしたのでしょうか?興味深いものです」




「…『半魔人』」




『半魔人』


後天的に人間に魔物の力を与え、魔人に近い形へと進化させると言われている。




「そんなもの作って、どうするつもりだ?」




「どうするも、今冷戦状態となっている前線に送るもよし。このまま学園に送り惨劇を生むもよし。正直選択肢はたくさんありますね」




「…そうなる前に、止める」




隊長は自身の命共々、これ以上の被害を出さないように構える。




「今日のところはこのまま帰りますよ・彼はまだ『半魔人』ではないですからね。さしずめ、『マガイモノ』といったところでしょうか」




「マガイモノ…」




ローブの男は小さな箱を取り出し、『マガイモノ』へ投げる。


すると箱が開き、中からクモの足や蛇の体のようなものが大量に飛び出し、『マガイモノ』を捕まえる。




「『レインジメント』」




合図と同時に箱の中に収納されえる。




「これでこの場は安全ですよ」




「…お前を、ここで逃がすわけにはいかん」




ローブの男はクスッと笑い、結晶瓶テレポーテーションを取り出す。




「あなたじゃ私を捕まえるなんて無理ですよ。その気になればあなたを殺すなんてこと造作もない。ですがあなたには、別の仕事を頼みたくて」




「…仕事だ?」




「そうです。ここで起きたこと。アレクシス・サンドロス子爵の暴走とこの『マガイモノ』。嘘偽りなく伝えてくれればそれでいいんです」




「なにを考えている?」




「そこまであなたに教えるわけないじゃないですか」




隊長は少し迷いながらも、情報共有を優先する。




「…わかった。いいだろう。ここで死んで情報がないほうがこちらとしても痛手だ」




「分かればいんですよ。…それではまた」




結晶瓶テレポーテーションを地面の落とし、ローブの男は消える。


その夜は隊長一人を残し部隊全滅。


報告書を書き、上層部へと話が伝達されていった。










ー?ー




「首尾は上々らしいじゃないか。」




「…思わず、隠すべきことを話してしましました。反省ですよ」




ローブの男は少し、申し訳なさそうにする。


もう一人の人物は続ける。




「これで駒が一つ増えたということだ。奴らがいくら警戒したところで我々にはなにも問題はない」




「そうですね。私はこの『マガイモノ』をどう扱うかを考えておきますよ」




「我々には必要ないものだからな。どうしようが貴様の自由だ。…ところではどうなった?」




「…ここに」




懐から、小瓶を地面におく。




「血は回収しました。それでは」




そういって、その場から立ち去るローブの男。




「人間の分際で、我々と同等だとでも思っているのか奴は?」




「…滑稽」




「と、いうよりは『半魔人』を目指しているのではないですか?」




新たに2つの声が増える。




「…笑止」




「まあ、なんのために俺らと行動してるかって言ったら、それくらいしかメリットないか」




「まあ、私達からしたらというのは彼も変わりませんがね」




「これからどうするつもりだ?」




「んー。彼の作戦に乗じて、楽しいことができたらいいでしょうねえ」




「最前線での戦いを癒すためにこんなところで身を潜めるのは癪だが、仕方ない」




「…苦痛」




「…まあ我々も最前線にいる人間を甘く見ていたのは事実。特に万有引力の魔女グラビティ・ウィッチ。あいつは人間をやめている」




「あいつと戦うのは骨が折れる」




「…苦戦」




「…入念に作戦を立てる必要がある。気長に行こうじゃないか」




話を終え、3つの声は暗闇へと消えていく。


新たな思惑も錯綜し、物語は少しずつ主人公たちへと近づいていく…。

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