第7話 本家からの招集
…んっ。…ここは、どこだ?
眼を開け、あたりを確認すると見慣れた風景がある。
「…あぁ、自室か」
そう。ここは公家院家が所有している屋敷。
今いる場所は俺、黒崎 迅の部屋だ。
あのあと意識を失ったが、どれくらい寝ていたんだ?
身体は…動く。俺は上体を起こし、ベッドに座り込む。
状況を整理したいところだが。
「…ハクノ」
「…はっ。
ハクノという美女の声だけが聞こえる。
「現状報告を」
「おそれながら、その必要ないかと」
…ん?どうゆうことだ?
疑問を感じていると、
トントンっ。
扉のノック音が聞こえた。
…なるほどな。
「…迅?入るよ?」
そっーと、お嬢。この家の主公家院 華が入ってくる。
「えっ!?迅!起きたの!?」
すぐさま駆け寄るお嬢。
「申し訳ありませんお嬢。ご心配かけました」
「…ほんとよ、あんなことまでして。だれが許可しましたか」
泣いているが怒った様子で問いかける。
「今後気を付けますよ。それより、事情を把握したいのですが…」
「…もう。少しは自分のことを心配しなさいよね」
そう言いながら、俺の隣に座り話し始める。
「まず迅は3日寝てたの。その間に今回の騒ぎが家に伝わったみたいで。起き次第招集がかかったわ。騒ぎに関してなんだけど、私が魔法警備団の皆様にアレクシス子爵位が取り残されているっていう形で伝えたわ。ハクノさんが魔法で跡形もなく吹き飛ばしたなんて口が裂けても言えないもの。そしたら警備団の隊長を除いた団員すべてが惨殺されたらしいわ。殺ったのはローブの男よ。あの場にいた」
…なるほど。やはりあのローブが絡んでいるのか。ハクノの探知にも引っかからないとことを見るとよほどいい装備を携えている様子。
「さらにもっと悪い情報よ。廃墟内の捜索中、ローブの男もなんだけど他にもいたらしいの」
「…いた?なにが?」
「…アレクシス子爵」
あいつの死体が残っているのは意外だ。ハクノの魔法は並大抵ではないことは俺が一番わかっている。
「そのアレクシス子爵なんだけど、魔物?のように姿が変わったらしいの」
「!?…ほんとかよ」
「えぇ、隊長さんが直接見たらしいわ。ローブの男は『マガイモノ』って呼んでいたようね」
「『マガイモノ』…。この情報は、前線の人は?」
「もちろん。情報共有は行き届いているはず。…父様にも」
…それで招集か。
俺らは見たわけでもないから、何の情報もないっていうのに。
「その件はお偉いさんに任せよう。情報だけでも武器になるはずだ」
「…そうね」
お嬢が俯く。
「…ねえ、迅。あなたはまたあの時みたいにぜん…」
お嬢が何か言いかけた時、
「
泣きじゃくった声が響き渡る。
「…桃夏か」
「まさか見つかると思ってなかったんです~。それにご無事で何よりです~」
「あぁ、雑な隠密して見つかった挙句、言われたこともできなかったのを謝っているのか?もう気にしてないぞ」
「めっちゃ気にしてるじゃないですかぁ」
びぇぇぇんと泣く声が強くなる。
「かのんは1年生の中でも優等生側の人間だ。見つかる可能性は0ではなかった。ただそれだけだ。それとハクノ。そのうるさいのをどっかやってくれ」
「はい。
「
泣く声が遠ざかっていくのが分かる。
「…お嬢。ずっと黙ってどうされたんですか?」
「…ううん。ちょっと昔を思い出して。あるはずないことを聞こうとしちゃった」
「なんでも聞いてください。お嬢に隠し事なんてありませんよ」
「…いえ、大丈夫よ。変なことを聞こうとしてごめんなさい!」
「お嬢が元気なら、それでいいんですよ」
「…それより、こんな暗い話ばかりをしにきたわけじゃないわ!むしろここからが本題といっても過言ではないのよ」
「…まだなにかあるんですか?」
「…来月、とうとう学内新人戦が始まるわ!」
先ほどのことに対して、少し虚勢を張るように元気にふるまうお嬢。
だが、その前に片すことがある。
「…その前に当家に行かないといけないのでは?」
「…そうね。そうだったわ」
落胆するの姿がかわいらしく見えた。
ー時は流れ、公家院本家ー
「…相変わらず、でけえ屋敷だな」
上を見上げるほどの豪邸。
これが現在の公爵家。公家院家の本家である。
当主公家院 総次郎は、今の魔法社会を充分引っ張っている存在として名を馳せている。
…その裏では悪い噂も絶えないのが難点だが。
「迅。いくよ」
お嬢がゆっくりと歩きだす。
広い庭も、庭においておる銅像も俺からしたらイキってるだけの親玉という風にしか見えない。
「あらぁ。珍しいお客様じゃなぁい」
扉の前には黒い髪をなびかせた年上の女性が立っていた。
「…高嶺お姉さま。ご無沙汰しております」
そう。この女性は公家院 高嶺。お嬢と同じ公家院家次期当主候補だ。
お嬢の姉にあたる人物である。
「お久しぶりです。高嶺様」
俺も深く会釈する。
「んもぅ、迅ちゃん。そんな堅苦しいのはやめて頂戴な。もうちょっと肩の力を抜いたらどう?」
「…ありがたく、そうさせてもらいます」
「お姉さまは、どうされたのですか?」
「それより迅ちゃん。今夜お姉さんの部屋にでもいらっしゃらない?妹のこととかお姉さん心配で。貴方から話を聞きたいわぁ」
「お話なら、私が直接できますよ」
高嶺様とお嬢が見つめあうにらみ合う。
「…今日は当主様の招集にて足を運びました。用件が済み次第、帰る予定でしたので泊まることはないと思います。せっかくのお誘い申し訳ありません」
「あぁん、いいのよぉ。貴方だけでも残ってくれればぁ」
…話が通じない。相変わらずキツめの香水が鼻につく。
お嬢のことを心配するふりをしながら、その実一切視界にすら入れていない。
欲しいものは何でも手に入れる性分。公爵家の長女ということもあり並み大抵のことは許されてきた。
他人のでさえ奪い取る性質から
本人の前でその呼び名を口にしたものは、怒り狂いすべてを盗られる。とされている。
「お姉さま。迅は私の…」
お嬢が静止しようとすると途中で遮られる。
「貴方には聞いていないわ。早くお父様のところに行ったらどう?それとも迅ちゃんがいないとなーんも出来ないお子ちゃまなのかしら?」
先ほどの緩い口調はどこにいったのか、抑揚のない言葉をお嬢に突きつける。
お嬢は何も言えず、唇を嚙むばかりだ。
「高嶺様。あまりお嬢をいじめないで頂けないでしょうか?きっと当主様と会うのも久しぶりで緊張していらっしゃいます。それに少しでも手助けができるよう隣にいるのが護衛の務めですから」
「ほんっとぉに迅ちゃんは優しいのねぇ。やっぱりあの時に迅ちゃんを選んでおくべきだったわぁ」
…あの時、か。
相変わらずこちらの気など一切気にせず、好き勝手される方だ。
「…これ以上当主様を待たせるわけにはいきませんので、私たちはこれで失礼します」
そういって、お嬢に声をかけ高嶺様の横を通り過ぎる。
「…まさにおんぶに抱っこね。才能のない子にはピッタリだわ」
お嬢にだけ聞こえるように小さな声で話す。
お嬢は反論せずにただ俺の後ろをついていくだけだった。
「お待ちしておりました。こちらにどうぞ」
本家の使用人から当主様がいるところまで案内される。
「…お嬢、大丈夫ですか?」
「…大丈夫よ」
その割には顔が曇っている。
先ほどの高嶺様との会話が相当効いている様子だ。
「ここから先は、華お嬢様一人でお願いいたします」
部屋の入る直前、お嬢一人での入室をお願いされる。
「…わたしはほんとに大丈夫だから。行ってくるね」
扉を開け、部屋に入っていく。
…当主様とお嬢との話が終わるまで待機だ。
どうやって暇をつぶそうかと考えていたところに新しい人物が俺に声をかける。
「…高嶺お嬢様の誘いを断るなんて、万死に値する」
声のする方に視線とやると、小さい赤紫色の小さな少年がこちらをにらんでいる。
「…禪」
こいつの名前は禪。苗字はない。高嶺様の護衛として選ばれた人物だ。
「まあ、誘いを受けたところで僕が殺していたがな」
「…お前に殺される?誰がだ?冗談はよせ」
禪は目くじらを立てながら、
「魔力なしの無能が!少し高嶺お嬢様に気に入られているからって調子に乗るなよ!」
「気に入られて調子に乗っているのはお前じゃないのか?どこの人間かもしれない奴が護衛に選ばれて喜ぶのは勝手だが」
「…僕は伯爵家の出だぞ!お前みたいなのと一緒にするなよ!」
「はっ。その伯爵家の名を捨ててまでここに来たのにもかかわらず、今その名を出して威圧とは。未練が駄々洩れじゃないのか?伯爵家に帰ったらどうだ」
「…無能の役立たずの分際でぇ!」
禪が魔法を展開しようとする。
…おいおい、屋敷内での魔法かよ。ほんとに頭沸いてんじゃないのか。
俺は剣の柄に手を伸ばす。
禪の魔法が発動する瞬間、
「そこまでだ」
また新たな声が2人の行動を制止する。
「禪。落ち着きなさい。ここをどこか今一度考えてから行動しなさい。…それに久しいな、劣弱」
「…鏡夜」
「鏡夜にいさん」
水色の髪に白のスーツ姿の男、鏡夜・ザンヴォルグ。
二つの血筋を持つハーフだ。
「…劣弱。あまり悪さをするな」
「そこのくそガキがなんかしたとは考えないのか?」
「たとえそうだとしても、仮にも弟のしたことだ。大目に見るべきだと思うが」
「勝手に血の繋がってない他人を兄だの、弟だの決めたのは当主様だろ?俺には関係ないね」
「護衛になるうえでの制約は3人とも兄弟とすること。だったはずだが…」
「そんなの形だけだ」
俺の嫌がることを的確に把握してるのは、地頭の良さなのか。性根が腐ってるのか。
そんな会話をしているうちに、禪は頭を冷やしていた。
「すみません。鏡夜にいさん。おかげで目が覚めました」
「別に構わないよ。私も蕾様を迎えに行く途中だっただけだからね」
「私も高嶺お嬢様のところに戻ろうと思います」
「そうした方がいい」
そういって2人はその場を離れていく。
「…劣弱。あまり公家院に汚名を着せるなよ」
去り際にまた嫌気を指すようなことをいっていく。
…蕾様。お嬢の妹にあたる人物。
わずか10歳満たずして、天才とされている少女だ。
その才覚が開花されたときにその膨大な魔力によって、少し身体への弊害もあるが天才を欲しいがままにしている。
鏡夜は、その蕾様の護衛をしている。
公家院家長女 高嶺様 元伯爵家 禪
公家院次女 お嬢 凡人 俺
公家院三女 蕾様 ハーフ 鏡夜
という組み合わせだ。
「…迅?いる?」
タイミングよく、お嬢が扉から声をかけてくる。
「ここにいますよ。お話は終わりましたか?」
「…うん。ほんとは迅にも話を聞く予定だったんだけど、急用ができたみたいでまた今度だって」
まあ、正直顔も見たくなかったから好都合。
「構いませんよ。別に会いたくもありませんし」
「…ここ一応、父様の屋敷だよ?そんなこといってほかの人に聞かれたら…」
「もともと、ここでは俺の評価は最底辺。何も気にすることない」
早くこんなところから帰りたい俺は、足早に去っていく。
「早く帰りましょうお嬢。みんなが待ってますよ」
「そうね。次の新人戦に向けてまた強くならないと」
充分気合が入っているお嬢。
ぜひ、良い成績が残せたらいいと思う。
2人は帰ってからの話をしながら、学園へと帰っていった。
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