第4話 日常の崩壊
今日は前に話してた町に出かける日。
隣にいるお嬢、公家院 華は、うきうきで準備をしていた。
「ねえ迅。今日は何を着ていこうかしら?」
「なんでもいいんじゃないでしょうか」
「なによもう。全然たのしそうじゃなさそうね」
「…まあ、買いたいものなどありませんし」
「そうゆう問題でもないでしょう?せっかくみんなで買い物なのに」
「お嬢はそのままでいいんですよ」
そういって俺は座っていた椅子から立ちあがる。
公家院家の屋敷には俺ら以外にも使用人が何人かいる。
べつに俺がどうこう言わなくても使用人たちが支度をしてくれるのでこちらから手を加える必要はない。
「準備はできた?そろそろ行くわよ」
「俺は元々、待ってる立場だったんですけどね」
やれやれ、とあきれた様子でお嬢の後ろを歩いていく。
今日1日は忙しい日になりそうだ。
ー数十分後ー
人が賑わっている。休みの日ということもあり人混みも多い。
町の入り口での待ち合わせだったはずだが、これ合流できるか?
そんな懸念を抱いていると
「あんたねぇ、なんでそうデリカシーってものがないの!?」
「なんだよ!?思ったことを言っただけじゃねえか」
「…あの、ふたりとも。落ち着いてください…」
見慣れた声の3人組が何やら騒いでいる。
そのうち1人は騒いではいないのだが。
「…なにやってんだ。周りの迷惑だぞ」
「…あっ、黒崎さん」
いやいやに声をかける俺を見て、一目散に助けを求めるかのん。
「迅からも言ってやって!この馬鹿にお灸をすえないと」
「何も悪いことはしてねえだろうがよ」
「…まあ、大樹が何かしたと思うんだが、大目に見てやってくれないか?それにここじゃ人目が多すぎて邪魔になる」
ようやく俺の声が届いたのか、うさみも落ち着きを取り戻していく。
「…ごめんなさい。今度こいつにはきついのを見舞いしていくわ」
「わかってもらえて何よりだ」
「…あの、華ちゃんは?」
…?お嬢は俺の近くにいたはずだが?
「華ならあそこだぜ」
大樹が1つの店を指さす。
さっそく物色しているみたいだ。
「お嬢!みんなここにいますよ」
「あら、ごめんなさい。ちょっと目移りしちゃって。皆さんおはようございます」
「おう」
「おはよう華」
「…おはようございます。華ちゃん」
挨拶も済ませたところで、さっそく買い物にでも行くとするか。
みんなそれぞれ歩き出す。
「…黒崎さん。先ほどはありがとうございました。わたし1人じゃとても止められませんでした」
「いや。あいつらの言動を止めるのは苦労するよ。2人とも人型の魔法列車みたいなもんだからな」
クスッと控えめに笑うかのん。
「そういえば、その服に似合ってるな」
「…えっ。あ、ありがとう、ございます」
恥ずかしそうに顔を隠すかのん。
身長・容姿に合ったフリルのスカートは言葉の通り似合ったものだ。
「そう、やっぱりそうよね。すごく似合っているのにこの馬鹿は『歩きずらそうだな』っていったのよ!?ほんっと乙女心がないったら」
「そんなものなくても俺にはこの肉体があるからな。お前こそ男心が分かっていないな。なあ迅」
俺に話題をふるな。変な揉め事に巻き込まないでほしい。
そんな談笑が繰り広げられる。
お嬢は、一歩引いて話を聞いている。
「どうしたんですかお嬢」
「…いや、ふと思ったことがあってね」
「なにか不都合なことでも?」
「違うわ。昔と比べると、ずいぶん見慣れない光景だなって」
「まあ、お嬢は友達なんて雀の涙程度ですもんね」
「私に問題があるみたいな言い方じゃない」
「そんなことはないですよ。公家院という肩書を背負っている以上は、仕方がない、と思われているのでしょう」
「…そうよ。私は公家院次期当主。下手なことはできないもの」
「重く考えすぎないことです。見てくださいよあの馬鹿の顔を。昔の人脈じゃ絶対会えない人材ですよ。それもこれもお嬢の選んだ道だからこそ出会えた人達です。お嬢はお嬢の思った通りの道を進んでください。道端の障壁は、俺が全部退かしますよ」
「…ありがとう。やっぱりあなたがそばにいると安心感が違うわ。気持ちの持ちようもね」
「そりゃよかった」
そういって、お嬢は3人のもとに足を運ぶ。
この光景はずっと続くべきだ。これからお嬢が歩む茨の道にはこうゆう日常に助けられる日が必ず来る。
少しでも、日ごろの重圧が下りてくれればいいんだが。
それから、俺たち五人は軽く買い物と食事を済ませた。
すると女性陣から、
「それじゃあ、私たちは今から別行動をとります」
「あんたたちは帰ってきてからの荷物持ち係だからね」
「…あの、すこしだけ時間をいただいても大丈夫でしょうか?」
「おう、いいぜ。大丈夫だよな?迅」
「…充分、気を付けてくださいね。お嬢」
「わかっているわ。周りには充分」
…ちょっとなら、大丈夫か。
「なんだよ。そんなにお嬢様が心配か?」
「そりゃあな。何のための護衛か。って怒られそうだからな」
「公家院の当主にか?」
「…いや、どうかな」
「なんだそりゃ」
話をしながら街中を歩く。
すると、うぉぉぉぉっ!
先の広場で歓声が上がる。
「なんだなんだ?」
大樹が興味深そうに前を見つめる。
広場では1人の男を囲むように集まっている。
「んだありゃ。物が宙に舞ってるぞ」
…魔法か。重力?風の可能性もあるな。
大道芸に近い感じなのかも。
「…っ!」
数多い人混みの中、遠くで見ている俺らに向かって手を振ってくる。
「…見えてるのか?そんなに近づいてない俺らのことを?」
「見えてるから、ああゆう行動がとれるんだろうな」
「なにもんだよ。あいつ」
「俺が知るわけないだろ。その反応ってことは大樹の知り合いってわけじゃないみたいだな」
大樹が警戒心を高める。
何十メートル先の大多数にいる俺らを見つけるのはさすがに常人の技じゃない。
魔法が関係しているとしか言えないが、詳しい内容はわからない。
広場の騒ぎが終わり、街の住人は男にチップを投げている。
やはり、大道芸の類か。
「やあ」
男が近づいてくる。
黄色いバンダナを巻いた優男の男は自己紹介をする。
「俺の名前は風間 風助。サンジュ学園の1年だ。あんたらイリーナルの人だろ?」
…他校の生徒か。なんも考えずに魔法を披露していたんのか?何か考えが…?
「俺らはただの一般人だぞ?今日は買い物に来ただけだ」
俺は平然と嘘を返す。
「ははっ。警戒するのはわかるけど嘘つくのはよくないね。そんな風巻いてて一般人なわけないじゃないか」
風?何言っているんだ。
「ほら吹いてるのはそっちじゃねえのかよ」
「確かにそっち目線はそうなるか。じゃあこれならどう?」
そういって人差し指を天に掲げる。
大樹は身構えるが、俺は動くことなく眺めている。
すると、風間の周囲から風が吹き荒れる。
「これが俺の魔法。風を生み出す魔法」
「こりゃあすげえな」
「…この場にある『風を動かしてるだけ』だろ」
「!」
風間は驚いた様子を見せる。
「お前が遠い俺たちを見つけたのは、賞賛に値するが。風を生み出すなんてお恐れたこと言うもんじゃないぞ。でかい吹聴は自分の価値を低くする」
「どうゆうことだよ迅」
「こいつは風を生み出してるんじゃなくてここにある風を動かしているだけ。その証拠に俺らの周りの風があいつに集まってるだろ?生み出すなら周囲の風まで操る必要ないからな」
「…さすがイリーナルの生徒だ。なんの情報もわからない他校の生徒に対して、こちらの優位性をすぐさまひっくり返すとは」
「その生徒だと断言するのは、風巻いているってのが関係しているのか?」
「その通りだよ。ここまで丸裸にされちゃ素直に話そうか。俺の目は少し特殊でね。魔法の影響もあるが魔力が風となって見えるんだよ」
…なるほど。一般人は魔力を持たない。その根本的な常識から大樹の魔力を読んだわけだ。
「筋肉質の君の魔力もそうだが。特に黒髪の君」
「迅。大樹」
俺は自身の名前と隣の大樹を指さし答える。
「失礼した。迅の周りにある風。それはなんだい?魔力、なんだろうけど。風が君を縛っているようにみえてるんだけど」
「…お前の魔法の概要を俺が知るわけないだろう」
「あれ?っつーことは、迅には魔力があるってことになるのか?」
「風巻いているってことはそうゆうことになるね」
「…それって変じゃね?この間の水晶には魔力0って」
「…さあな」
俺はぶっきらぼうに返す。
「まあ、その点はあまり触れないでおくよ」
「それで?サンジュの生徒が何の用だ?密偵か」
「密偵なんてそんな。1年がそんなことしないでしょ」
「それはどうだかな」
「ここには観光だよ。特に理由もない」
「ほんとかよ」
2人して疑念を抱く。
「ほんとなんだけどな…。今日はみんなに喜んでもらえたし、イリーナルの生徒と知り合いになれたから良しとするか」
「他人の間違いだろ」
「そんな冷たいこと言うなよ。『統合新人大会』にもでるんだろ?」
『統合新人大会』
各校の1年生が集う団体戦だ。
各校というのは具体的には4校。
イリーナル学園・サンジュ学園はそのうちの2校。
俺らは今度ある学内新人戦の結果がメンバーとなる。
「俺らは出ないぞ?」
「あれ?戦いにはあまり興味ない感じ?」
「いやあ、俺らは凡人だからメンバーに選ばれることすらないんだよな」
「凡人…?君らが?なんの冗談だよ」
「…イリーナルは爵位が絡んでくる。主席とか称号を重んじるところがあるからな。才能のない連中には縁がない」
「俺たちの学園は実力主義なんだけどな。それにそこに入学している君たちは才能があるって認識なんだけど」
「偶然だよなあ」
「…まあな」
「まあ、学園の特色ってのはそれぞれあるからな。楽しみだったんだが仕方ないか。それじゃあ俺は行くね。今日はありがとう」
「おうまたな」
大樹と風間はあいさつを交わす。
「…そういえば、今日はなんか変な風が見えたな。お前らも気をつけたほうがいいよ」
そういって、ある方向を指さす。
「…っ!おい、あっちの方角って」
「…お嬢!」
俺は指さすほうに駆け出す。
ただの他校生徒の忠告だ。
真に受けるわけではないが。
大樹がついてきているかなど、見向きもせず走り出す。
「おいっ!…ったく、すまねえ風間。俺ら行くわ」
「おう、うん。また…?なにをそんなに焦ってるんだ?」
風間の不思議そうな顔が遠くになっていく。
ー数分後ー
俺は女性陣のところにたどり着く。
「お嬢!」
「あっ。迅」
お嬢はうさみとかのんと3人で買い物中だった。
息を切らしながら、姿を確認し安堵する。
「どうしたのよ。そんな走って」
「…なにかありましたか?」
「い、いや。ただの早とちりだ」
少し遅れて大樹も到着する。
「おっまえ…早いって…」
大樹もさすがに息を切らす。
なにもなくてよかった。息を整えながら胸を下す。
ムゥゥゥゥン。
すると突然、空間がゆがむ。
「な、なによこれ…?」
「
「…こんな街中でですか!?」
「んだそりゃ」
「
お嬢に向けて手を伸ばす。
お嬢もこっちに向かって手を伸ばす。
その中間にどこから投げられたか分からない煙幕がたかれる。
「華!?」
「華ちゃん!?」
「迅!?」
お嬢と俺は煙幕に囲まれる。
「お嬢。無事ですか!?」
あたりを見渡すがなにもみえない。
「……んんっ」
お嬢の声だ。
声に向かって煙を払う。
視界に移った姿は、見覚えのある男とぐったり倒れているお嬢の姿。
「…お前、こんなことしてただで済むと思ってんのかよ」
「……凡人が護衛なんてできるわけないだろう。安心してください。けっして無駄にはしませんよ」
そういって、結晶瓶を地面に投げその場から消える。
「
煙が晴れていく。
「…華ちゃんは?」
「うそでしょ…」
「…くそっ」
3人は落胆する。
その場は静寂が流れる。
…お嬢はこの日、俺の前から姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます