第3話 日常
あれから数日たち、座学・実技と学生らしい日々を送っている。
「... 魔力の色というものは8色に分かれています。」
佐々木先生の座学授業がクラスルームに響き渡る。
基礎的なところから、応用的なところまで数多くの雑学を教えてくれる。右も左も分からない生徒からすると嬉しい限り。基礎的な知識がついている人は応用的な内容が思ったより目から鱗は情報も多い。
「色の種類としてはですね~
赤色:攻撃系
青色:魔力コントロール系
黄色:体術・付与系
緑色:自然系
紫色:生成系
橙色:精神操作系
桃色:治癒系
白色:いまだ解明できず。様々な要素が含まれる。
というように、以下の8色に分かれます。これは一般的であるだけで、世の中には白色のように解明されていない色も存在します。まだ見ぬ色があったとしても不思議ではないということを頭に入れといてください。」
「先生。複数色もそんざいするんですか?」
「いい質問ですね。する・しないでいえば存在します。ですが基本的に人間に宿る色は1つ。2色以上は後天的に得たものか、人間ではないか、が一般的な考えとしていますね」
「人間をやめるってのは、具体的にどうゆうことだ?死んだあとってことでゾンビとかか?」
大柄の男、大樹が不思議そうな顔をする。
「あんたねえ、死体が動くわけないでしょ」
後ろからツインテールを揺らして、ツンっとした態度で言葉を返すのはうさみだ。
「死体が動くってのは非人道的だけれども、橙色の精神操作で出来ないことはないとされている。ってのが昔の論文者の理屈ではあるのよね。色を増やすというのはよく分からないけれど…」
黒髪ロングのお嬢、公家院 華は口を手で覆いながら考えた様子で自身に問いかける。
「公家院さん。その論文、僕も見たことがあるがそもそも死体に魂の概念がない状態で精神をコントロールするというのは、それこそ理論的に破綻していると思う。これはあくまで僕自身の感想だけどね」
遠い位置からお嬢に対して反論するのはこの学年の首席、レオナルド・テリオス。
「確かにその通りよね…」
お嬢がまた深く考え始める。
「その論文は私も拝見しました~。面白い話ですよね。難しい話になりますが、謎を謎のままにしたいなら『魔法』というのはそのくらい無限の可能性があるという言い回しもできますね~。もちろん、非人道的な方法や禁術といった方法は魔法という存在を軽んじる悪い行為です。皆さん分かっていると思いますが、このようなことが発覚しだいとても大きな処罰がありますね~」
優しく説明しているが、あまり目は笑っていない。
それくらいしてはいけない。ということだろう。当たり前だが。
「先生。その非人道的な方法や禁術などは、実際に行ったものがいるのでしょうか?」
手を挙げ、質問を投げかけるのはオレンジ髪の太った男、アレクシス・サンドロス。
「そうですね~。まあ、いましたね~」
「へえ。そんな何が正しいか分からない奴がいるものなんですね」
「いますね~。皆さん知っているか分かりませんが…。『十二封陣』という方々をご存じですか?」
新たな単語、十二封陣。
この単語に一瞬反応を示すやつがいたが…
触れないほうがいいか。人には触れてほしくないこともあるだろう。
「十二封陣は聞いたことあります。昔12人の偉大な魔法士が『4つのなにか』を封じたとされる。その『なにか』はだれにもわかっていない。というのを少しだけ」
お嬢が少しうろ覚えそうに答える。
「公家院さん。おおむねその通りです。それ以外の情報を知っている人物は十二の血族、家系の方々のみとされていますね~」
「さすが公家院さん、博識ですね。ですがその偉大な方々と今話している内容と何か関係があるのですか?まさかではないですが、その方々が…なんてことはないですよね?」
アレクシスが怪訝そう顔を見せる。
先生は淡々と告げる。
「そのまさかだったらどうします~?」
「威厳のある人物がそんな…」
爵位や格を気にする奴としては、到底受け入れることができない内容だろう。
「そしてその十二封陣の中の『巳』という人物が非人道的な魔法の開発にお手を染めた。というのがわかっていることですね~」
するとレオナルドの横に座っている人物が発言する。
「…それはなにか証拠でもあるのでしょうか?」
青い眼の男は物静かに問いかける。
「証拠、というと私もただの学園教諭なので詳しいことはわかりませんが…。なにか断定できるものが分かっているからの発言だと思います~。憶測で物は語れませんからね~」
「…なるほど」
表情は変わらないが、納得した…のか?
「話が脱線しました~。続きを話そうと思いましたが、そろそろ時間が来そうなのできょうはここまでにしときますね~」
そういって片づけを始める先生。
さっきの話が難しかったのか、大樹とうさみは無言のままだ。
「ねえ迅。そろそろお昼だし、今日は食堂で一緒にご飯食べない?」
お嬢が気難しい空気を換えようと食事の提案をする。
「大丈夫ですよお嬢。ほら、お前らも呆けてないで行くぞ」
2人に動き出すように声をかける。
「あっ、ちょっとまって!」
お嬢がストップをかける。
「どうしましたか?なにか忘れ物でも」
「忘れ物というか…ものじゃないんだけど…」
そういいながら、あたりを見渡すお嬢。
「あっ、いた!かのんちゃーん」
奥に1人で座っている小さな女の子に手を振る。
その小さな女の子はおどおどししながらこちらに歩み寄ってくる。
「迅、皆さん。紹介するわ。私の友達の天縫糸 花音ちゃんよ」
紫色のロングウェーブの彼女は小さく声をだす。
「…かのんです。華ちゃんとお友達をさせてもらっています。華ちゃんの護衛をされている黒崎くんですよね。水晶の時にアレクシスくんと揉めてる姿をみて、すごい人だなと思いました。あの子爵位の方に対してあそこまでの物言いはなかなかできません…」
「なにがすごいんだ?なにもしてないぞ?」
「えっと…子爵位の方とあんな形で向き合うのは、並大抵のことはできませんよ」
すこしビクビクしながら話す。
「迅…。もうちょっと優しくして頂戴。かのんちゃんが怖がってるじゃない」
「別に圧をかけたわけではないんですけどね」
「かのんちゃんごめんなさい。悪気があるわけではないの。少し、こじれてるというかなんというか」
「…いえ、全然気にしていませんよ。それに黒崎くんは優しい方です。華ちゃんの護衛としても昔ながらの関係も華ちゃん自身からいろいろ聞いてますから」
「あぁ!かのんちゃん!その話は!」
お嬢が慌てて遮る。
俺の悪口でも言って楽しんでるのか。惰性な話でもすれば怖いもなにもないか。
「ほ、ほら!早く行きましょ!」
かけ早に歩き出すお嬢。
「おまえら、意識は戻ったか?」
「…お、おぅ。難しい話でフリーズしてたぜ」
「…えぇ、まぁ」
大樹とうさみがそれぞれ反応する。
「かのん。この大柄が大樹。二つ結びがうさみだ」
「は、はい。あらためましてよろしくお願いします。大樹くん。うさみさん。」
お嬢のあとを4人で歩き出す。
廊下に歩く音が響いていく。
ー食堂ー
食堂に着き、それぞれ昼食を食べている5人。
おれと大樹は唐揚げ定食
うさみは焼き魚定食
お嬢とかのんはうどん食べている。
「ほうひえば、ほほにひゅうはくひてからひぇんひぇんはくとかはってはかったな」
「…大樹。からあげを飲み込んでから喋ろ」
「大樹さん。今なんて言ったの?」
華が口元に手を当てながら質問する。
「そういえば、ここに入学してからぜんぜん家具とか買ってなかったな。でしょどーせ」
「んぅ、んっあぁ。そうそう!さすがうさみ。よく分かったな」
「腐っても腐れ縁よ。それくらい分かるわ」
「お前が家具とか気にするタイプか?」
「そりゃあねえぜ迅。ダンベルとかもろもろ買いに行きたいと思ってたところなんだぜ」
「…それって、家具なんですか…?」
かのんが不思議そうに首をかしげる。
「家具がどうかはさておいて、買い物に行くというのは賛成ですね。女の子はいろいろと買いたいものがたくさんありますからね」
「買い物に行かなくてもお嬢はたくさんもの持ってるじゃないですか」
「迅はわかってないなあ。あんなんじゃ全然足りないよ、ねえかのんちゃん。うさみさん」
「まあ、買い物は行きたいわね」
「…買いたいもの、あります」
「だ、そうよ?これはもう行くしかないわね」
嬉しそうに同意を求めるお嬢。
いったい何を買うんだが。
「そうと決まったら、次の休みの日に皆さんで行きましょう!」
「はいはい。わかりましたよ」
「皆さんは大丈夫?」
「俺は大丈夫だぜ」
「わたしもよ」
「…私も大丈夫です」
「よかったわ!次の休みが楽しみね」
みんなで買い物に行くのが嬉しいようで、にこにこで話を進める。
そんな傍ら、ほかの卓ではお嬢のことを見ている生徒が多い。
ただでさえ、普段食堂を使わずに食事を済ませているお嬢だ。
公爵位であり、学年の有名人が食堂にいるだけで注目を浴びるのは当然か。
話をしたくても、自分からは踏み出せない人が主なのだろう。
かのんも周りの目線が気になるのだろう。
俺の顔を見て、考えていることが分かるのか、話しかける。
「…華ちゃんと話をしたい人はたくさんいると思います。現にわたしが話しているのも普通ならありえないことですから」
「もう、そんなこと言わないでよかのんちゃん。私はあなたと友達になれてよかったと思っているわ」
「…ありがとう華ちゃん」
「そもそもなんでかのんを選んだんですか?何かきっかけでも?」
「授業で一度ペアになったのよ。その時は全然話してくれなくて。確か授業は簡単な魔力結晶を作ってペアに渡すってやつだったんだけどね」
あぁ、このあいだやった授業か。俺は魔力0だったから作れなかった代物だ。
「それからかのんちゃんをたまたま見かけた時に他のクラスの方と話をしてて。なんだろうと思ったら魔力結晶を渡すとかの話をしてたの」
「なんだ。有名人の華が作った結晶を欲しがった奴らがいたわけだ」
「それをクラスのいじめっこがかのんちゃんから奪おうとしたってわけね」
「私、すぐそこに出ようとしたんだけど、かのんちゃんが『…これは公家院さんが作ってくれた大事なもの。公家院さんからしたら授業なのでなんてことないかもしれないけど、わたしからしたら嬉しかったものなんです。渡せません。ごめんなさい』って言ってくれたのよ」
かのんが顔を真っ赤にしている。
正直、かのんほどの臆病ならびくびくしながら歯向かわずに渡しそうな感じだが。
見た感じよりも自分の意思がしっかりしているのかもしれない。
見た目で判断しちゃいけないみたいだな。
「よく言った。かのんはつえーんだな」
「…わたしは、そんな」
「こんな良いひとが一方的に言われるのはとても嫌だったから、ちゃんと制裁入れたわよ」
「制裁って、何をしたの?」
「その場を収めて、学園長に話をしに行った」
「…あぁ、この間一緒に学長のとこに行ったのはそのためだったんですね」
「そうよ。そのあと、バツが悪くなったのか、その人たちは学園辞めちゃって…。そこまで大事にするつもりはなかったんだけど」
「そもそも成績を良いほうではなかった奴らです。やめるのは時間の問題でしたよ。お嬢のせいではありません。それに今の時点で学園についていけずにもう10人くらい辞めている人がいるじゃないですか。それだけ厳しい環境下でやっていけない程度の人間だったんですよ」
「そんな言い方しないの。あの人たちも、きっと魔法士を目指してきたはずなのに。私のせいで…って責任はある」
結果に至るまでの道中にお嬢がいただけ。
お嬢との関わりがなくても、同じ結末だったと思うが。
「まあ、佐々木先生も年々辞める人は一定数いるって言っていたし。迅のいうことも一理はあるか?」
「言い方の問題よ。もうちょっと優しく言いなさいよ。それに決して華の行動を肯定も否定もしてない。ただ結果は変わらないって言ってるだけだしね」
「…難しい話だけどわたしは、自分のことで精いっぱいで…。華ちゃんみたいにみんなに手を差し伸べることはできないかも…。でも、だから華ちゃんはやっていることはだれにでもできない、見て見ぬふりをしないって、すごいことだと思う…な」
「かのんちゃん…。ありがとう。やっぱりかのんちゃんと友達になれてよかったわ」
ちょっとしんみりとしたが、うまく軌道修正できたみたいだな。
「お話し中すみません。公家院さんで間違いないでしょうか?」
突然後ろから優男が声かけてくる。
「あ、あなたは!」
お嬢がびっくりとした表情を見せる。
茶髪の男を先頭に、後ろにさらに2人。
緑髪と黒髪の男がついている。
「あ、入学式の時に壇上に上がってた人か」
「…生徒会長さんです…」
「はじめまして。ご挨拶が遅れましたね。イリーナル学園生徒会長を務めています。アルサッド・ビートレイです。後ろにいるのは森波 木馬と浦々 灰賀といいます」
「森波 木馬ですぅ」
「浦々 灰賀だ」
「公家院 華です。以後よろしくお願いします」
華が立ち上がり、一礼する。
俺を含め、みんな立ち上がり各々自己紹介をする。
「そんな固くなくていいんですよ。今回は、新入生の期待の方々に一度ごあいさつに回ってるんです。公家院さんにお話ししたいことがありまして」
「…お嬢になんか用ですか?」
「おい迅。生徒会長だぞ」
大樹が俺をなだめてくる。
別に食って掛かろうとしているわけではないんだが。
「うちの護衛がすみません。お話とはなんでしょうか?」
「君が公家院さんの護衛をしている黒崎君か。公爵家の護衛と聞いてたが、うん。これは強そうだ」
ハッタリなのか、本音かわからん。食えない奴だ。
「今回はなぁ、公家院家のお嬢様にお知らせがあるんよ」
「新入生の上位実力者には、生徒会長が直々に話をしに行って生徒会への勧誘を行うんだ。生徒会の庶務の位置に入る可能性があるっていうな」
「その理屈で行ったら、レオナルドが一番の候補じゃないんですか?」
「まあまあ、そう警戒しなくても大丈夫ですよ。もちろん、レオナルド君にも話をしに行きましたよ。あくまで皆さん候補ですから」
たしかに、生徒会にはいるということは上を目指す、卒業後の進路にも大きく関わってくる。
お嬢からしたら願ったりな話だ。
「わざわざありがとうございます。生徒会の話は少し小耳にはさんでいました。ぜひ機会があればよろしくお願いしたいです」
「そう言ってくれてよかった。今日はまたまた姿をお見かけしたので場所も問わずに声かけたことを許してほしい。友人間の邪魔をしてしまったね。今日のところは話だけなのでこれで失礼するよ」
そういって3人は食堂から離れていく。
3人が歩くだけで生徒からの賞賛の眼差しがよく分かる。
「…すごいね華ちゃん。生徒会入りなんて」
「まだ決まったわけじゃないよ。それに私に話が来たならレオナルドくんや美登くんにも話はしてると思うし」
「まあ、主席と次席には話がいくわな」
「あの2人も強敵よね」
「とりあえずは、近々行われる学内新人戦での成績が一番の見せ場かしら」
お嬢がやる気のあるポーズを見せる。
『学内新人戦』
新入生がこぞって行う大会だ。
ここでの成績は新入生の上下を明確に分ける。
もちろん、上級生も観客としてみるわけだから立派なイベントとなっている。
まあ、俺みたいなやつは不参加ってところかな。
前回の優勝者は…今井っつったかな。
「新人戦なんてまだ先ですよ。今から気張ったところでなにも変わりません」
「たしかに、それはそう」
大樹が背伸びして、みんなに一声かける。
「みんな食べ終わったか?なら教室戻ろうぜ」
「そうね。なんか疲れたわ」
「…買い物、たのしみです。」
それぞれ食器を片して、教室を向かう。
お嬢はやる気満々だが、正直、レオナルドに勝つというのは難しいところだ。
トーナメントの抽選次第ってところか。
まあ、俺はお嬢が進む道を邪魔する奴を退かすだけ。
俺が表立つ理由もない。
…次の休みか。特に何事もなく済めばいいが。
ーどこかの屋敷ー
「…私は、どうすれば」
「大丈夫ですよ。あなたには私がついています」
「…どうしても、これが必要なんですよね?」
「はい。公爵家である『公家院の血』は、私にとって、あなたの野望にとって一番の近道になります。そのためには…」
「…分かりました。ちょうど次の休みに出かけるといっていたので、絶好の機会だと」
「…期待していますよ」
そういって、黒ローブの男は消えていく。
「…私が一番になるには、これしか…」
男の独り言が、これから起こることも重さを実感させる。
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