第8話 夢の続き
あれから一週間。膨らむ期待は大きく、眠れない日々が続いた。
旅行先に決まったのは○○県✕✕市の田舎の宿だった。僕はよく知らなかったが父さん曰く、全国的にも有名な天文台が近くにあるそうだ。
いざ荷造りを終えて、車に乗り込む。だが、何か違和感がある。
父さんに連れて行ってもらった方が絶対に目標に近づくはずなのに。どうしてか"あの夢"には自分の手でたどり着かなければいけないような使命感に似た感情を抱いていた。
これでいいのだろうか?彼女は僕が家族で迎えに来ることに対してどう思うだろうか?
もちろん、答えなど出ない。
後部座席でただひたすらに考えているうちに、眠くなってきた。
今週は期待のしすぎで、なかなかぐっすりとは眠れなかったからだろう。
そうこうしていると気づいた時には夢の中だった。
…僕は0.1秒とかからず気づいた。ここは"あの夢"の中だと。
でも前とは違う。美しい星空は少し淀んでいて、何より彼女が居ない。
地平線まで続きそうな草原をひたすら走って探した。
走っても走っても上手く走れないし、叫ぼうとも声も出ない。
どうしよう。駄目だ。これが最後のチャンスかもしれないのに。
この夢を逃せば君にもう逢えないかもしれないのに。
走って、走って、最後の力を振り絞って叫ぼうとしたその瞬間。
目が覚めた。
そして気づいた。
「この夢を逃せば君にもう逢えないかもしれないのに。」
と思ったということは、現実では絶対に出逢うことはないという事実に背を向け続けてきた自分に。
とても寂しくなった。あんなに望んで、憧れて。一人で怖い思いもして探し回って。
全てが水の泡になる音が聴こえるほどに、僕の夢は崩れていった。
宿に到着するも、僕はやつれたような顔でずっと俯いていた。
今思えば、ただの夢ひとつに人生がどうのなんて言うほど馬鹿馬鹿しいことなどない。
ただ、僕はひとつ大人になった様な気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます