第6話 夜の山奥
駅を出て、歩き始める。ほとんど田んぼだらけで、たまに自動販売機があるだけ。あとは、全部木や草で覆われている。全く見たこともない光景にあっけにとられたが、本来の目的を忘れてはいけない。
まずは人気のありそうな辺りを散策して、彼女に似た人物を探そう。
来たことのない慣れない土地にびくびくと怯えながら、犬の散歩をしているお爺さんのうしろをつけてみたりしてみる。
お土産屋さんを見つけたけれど、お金がないから入るのが怖くて、外から覗いてみたりした。
結局、何も手がかりがない。
…少し正気に戻った気がした。
感情に酔いすぎて忘れていたが、目的もなにもないじゃないか。ただそれっぽい山を見繕ってただそこに近づいてうろうろしているだけのただの小学生がここに居るだけになってしまっている。
夢の内容を記録したメモを取り出して、もう一度冷静に何をするか考えることにした。
今は午前9:02。今日は夜になっても家に帰らないで済む。警察官に見つからなければの話だけど。
夢で見た景色は夜だった。つまり夜まで待たなければいけない。
昨晩は早く寝たとはいえ、朝が早かったからか少し睡魔に襲われてきた。
「どうせ、夜まで待つんだ。平和そうな場所だし。」
そう呟いてやたら大きなバス停のベンチの端っこで座り込んで、またあの夢を思い出しながらうとうとと過ごしていると、気づけばとっくに日が暮れていた。
真っ暗な視界に焦って時計を確認すると、針が指していたのは午後7:45。
ちょうどいい時間になった。
街灯もなにもなく真っ暗で、オバケかなにか出そうでかなり怖かったが、僕の衝動はそれを上回り、とうとう山道の入り口の階段を登り始めてしまった。
懐中電灯で足元を照らしながら石段を登っていく。
聞いたことがない何かの鳥のような鳴き声がより一層恐怖心を掻き立てるが、いくら怖くてもここまで来て引き返すわけにもいかない。
長い長い石段を登りきって、汗だくになって辺りを見渡すと、神社があった。
夜に見る神社はどこか神秘的で、気味が悪かった。
そしてなにより、こんな夜遅くに子どもが一人で山奥にある神社なんかに来てしまったことに対して、神様に叱られてしまうのではないかと無性に怖くなり、ついに夢への衝動よりも恐怖心が勝った僕は急いで石段を駆け下りた。
駅まで引き返してきてやっと気付いたが、僕は今日何も食べていない。
幸いなことにまだ家の最寄り駅までの電車があるらしい。
「今日はもう、帰ろう。」
誰かが言ってた、時には諦めも大事だって。
僕の中の夢への憧れは半分以上朽ちてしまい、空腹と疲労に苛まれながら帰りの電車に乗り込んだ。
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