第5話 いざ、あの場所を求めて

午前6:30。セットしておいた目覚まし時計を止めて、歯を磨き、着替えてリビングに行くと、

「こんなに早くから遊びに行ってカズシ君のお家の人、困らない?」

と母さんに少し止められたが

「今日は少し遠くの映画館に行くから、早めに集合するだけだよ。カズシの家には昼頃からお邪魔させてもらうつもりなんだ。」

と事前に用意しておいた嘘をついて、期待を胸に家を出た。

まずは電車に乗って遠くの駅を目指す。昨日地図で確認した限りだと、ここから北へ向かうと山がある方角へ行けるらしい。

初めて一人で切符を買い、九つ先の東両駅へ。

通勤中のサラリーマンらしき大人たちの間にはさまって、電車に揺られる。

確かな魅力が溢れんばかりに輝く彼女の元へ。

見渡す限り明るい星々が煌めくあの山奥へ。

期待は膨らむ一方で、同時に不安も重たくなり肩がこわばっていく。

一人きりで、父さんと母さんに嘘をついてまで、こんなに家から遠く離れて行くのが怖かった。

でも、やっぱりというか。レールに乗った電車が恐怖や不安と同時に非日常へと導いてくれる、今までの人生で一番幸せだった夢の中へ連れて行ってくれる喜びも確かだった。

とても不思議な感覚に酔いしれているうちに、気づけば東両駅の手前の駅まで進んでいた。

ここから降りて、やっと会えると思うと胸が急に苦しくなった。

でも、不思議と嫌な感じはしなかった。

ギュッと締めつけられる胸、家から離れた駅、どんどん近づいてくる緑豊かな山。

まるで宙に浮かんでいるような感覚。陶酔するとはこういうことなんだろうか?

そんな事を考えながら、念願の東両駅について、電車を降りた。

これからこの辺りを歩いたり、山に登ったりするうちに。

きっと君に逢える。

僕の夢はここからまた取り戻されていく。

さっきまで乗っていた電車が走り去って行き、気持ちが引き締まる。

さあ、行こう。

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