3 神様仲間? なにそれ?
マルタンと別れてから、アタシ達はオランジュ伯爵家に戻った。
午後の陽がさしこむ居間で、美味しいお茶とお菓子をいただく。
ようやく使徒様の毒気が抜けたような……
くつろぎながら、気になってた事を聞いてみた。
「お師匠様とマルタンは、どういう知りあいなんです?」
「神様仲間だ」
「は?」
なに、それ?
「今世で神様を降ろせるのは、私とマルタンの二人だけなのだ。神様の紹介で知り合ったのだ」
託宣もできるのか、マルタン……
本当に優秀なんだなあ……あれでも。
ん?
てことは……
あの『おっけぇ〜』なきゃぴきゃぴ神様が、マルタンにも憑依するわけ?
無表情でクールビューティなお師匠様も、神様が宿ればきゃぴきゃぴになる。
なら、単なる厨二病にしか見えないマルタンも神様が宿れば、多少はマシに……
「………」
なんないか。
あの外見であの低音声で、かわいい男ぶるのは、それはそれでイタイ。
はぁ〜と溜息が漏れた。
「明日から忙しくなる。今日は休むといい」
と、お師匠様は部屋に帰って行った。
「ジャンヌ」
ジョゼ兄さまが、ぎゅっとアタシの左手を握る。
「今日はこの後、互いに予定がなかったな……その……よかったら、俺とつきあってくれないか?」
つきあう?
ああ……
「ええ、いいわよ、兄さま」
アタシが笑いかけると、兄さまは椅子から勢いよく立ち上がった。
「そうか、ならば、さっそく! おまえに似合いそうな、かわいい……」
「楽しみだわ、兄さまと組み手だなんて久しぶり♪」
アタシに会話を遮られたせいか、兄さまの動きがピタッと止まる。
「組み手……?」
「格闘稽古なんて十年ぶりよねー ずっと、魔法木偶人形しか相手がいなかったから、ジョゼ兄さまの相手がつとまるのか不安だけど」
アタシは兄さまに対し、拳を構えてみせた。
「ジョゼ兄さまと組み手だなんて、昔に戻ったみたいで、うれしー♪」
ジョゼ兄さまの口元に、微笑が浮かんだ。
「……わかった。中庭で組み手をしよう」
「手加減してよ」
「もちろんだ。愛するおまえに、怪我などさせん」
「クロードも行く?」
幼馴染に聞いてみた。
「ボク?」
クロードはアタシと兄さまを順に見つめ、弱々しくかぶりを振った。
「……ボクはいいよ」
「そう?」
「クロードは勉強だろ?」
素っ気無く兄さまが言う。
そいや、そうか。今日中に魔術師学校初等部の教科書を全部読むんだったけ。
「お勉強がんばって」
「うん、ありがとう、ジャンヌ」
クロードは兄さまに手を振った。
「楽しんできてね、ジョゼ」
「言われなくとも」
仲が悪くはないんだけど、この二人、昔っから、こうなのよね。兄さまは、ちょっと偉そうというか、喧嘩腰というか。
クロードはニコニコ笑ってて、まったく気にしてないけど。
アタシはジョゼ兄さまと中庭に向かった。
相手にならないどころじゃなかった。
兄さまの動きが速すぎて、目で追い切れない。
体がついていけないのだ。
素人に毛が生えた程度のアタシが相手じゃ物足りないだろうに、兄さまは好きに動けと笑顔で言った。
アタシの拳を受け、返し技を寸止めし、反撃技を教えてくれる。
これじゃ、アタシが稽古をつけてもらってるようなものだわ。
でも……
昔に戻ったみたいで楽しかった。
兄さまといっしょに、ベルナ・ママに稽古をつけてもらった昔を思い出した。時には、クロードもまじえて三人で体を動かしたっけ。
兄さまはベルナ・ママみたいに強かった。
* * * * *
そんな感じでその日は過ぎた。
使徒マルタンは、いろんな意味で残念なヒトだった……
けど、まあ、凄腕の悪霊祓い師みたいだし……
ま、近寄らなきゃいいのよね。
離れてれば、精神汚染もされないし。
魔王が目覚めるのは、九十八日後。がんばろ〜
きゅんきゅんハニー~モエカレ100名の逆ハーレムパーティーで、魔王を葬れ!~ 松宮星 @matsumiya_hoshi
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