天才魔術師……?【クロード】

1 魔術師はおっさんばかり

「今日は、魔術師協会推薦の仲間候補達と面談する。おまえは『異性しか仲間にできない』という託宣を受けた事にしてある。心しておくように」と、お師匠様。


 アタシの託宣は、《汝の愛が、魔王を滅ぼすであろう。愛しき伴侶を百人、十二の世界を巡り集めよ。各々が振るえる剣は一度。異なる生き方の者のみを求めるべし》だけど……

『百人の伴侶を探してる勇者でーす! 格好よくて強いカレシ候補、大募集ちゅ!』なーんて正直に宣言したら……やっぱ変な目で見られちゃうわよね……うん。


 ジョゼ兄さまも、一緒に行くらしい。

 それは、いいんだけど……今日も金髪のくるんくるんのカツラを被るの? 外出着も、貴族らしく派手だし。

 むぅぅ……

 兄さまは美男子だと思う。

 でも、眉が濃くて、まつげが長くて、目鼻立ちはくっきり。顎の先も割れている……いわゆる、くどい顔だ。

 正直、その貴公子な格好はどうかと……

「兄さま、そういう格好が好きなの?」

「まさか!」

 兄さまが、ぶんぶんと頭を横に振る。

「おばあ様からの押しつけだ。貴族の子息は、それにふさわしい装いをし、身だしなみを整えねばいかんのだそうだ。全身美容、化粧、爪の手入れで、毎日、何時間も拘束されている……」

 ありゃ。

「男の見目などどうでもよかろうに……貴族は実にくだらん」

 兄さまが重々しい溜息をつく。身軽な格好で、一日中、格闘の修行がしたい、と言うかのように。



 人がいっぱい居る所に行くって聞いてちょっぴり緊張してしまった。

 この十年、アタシは賢者の館でひきこもり生活だったから。


 けれども、お師匠様の移動魔法で跳んでった先には、一人しか居なかった。

 応接室みたいな部屋、そのテーブルの所に、白髪白髭のおじいさんが。


 お顔はしわしわ、黒のローブに、杖。

 見るからに魔術師って感じだけど……


 駄目っ!


 無理っ!


 萌え要素なさすぎ!


 アタシ、この十年、お師匠様と二人っきりで暮らしてきたのよ。

 お師匠様の美貌に見慣れちゃってるの! このおじいちゃんが、すっごい魔術師でも駄目! ふつーのおじいさんじゃ、キュンキュンできないわ!


「魔術師協会長にございます」

 おじいさんが、まずはお師匠様に、それからアタシへと挨拶をする。

「魔術師をお探しとのお話でしたな? 隣室に二十人、別所に一人、一流の魔術師を手配しております。どうぞご面談ください」


「魔王への大ダメージが確実な者を、仲間としたい」と、お師匠様。

「一名でいい。ジャンヌは職業(ジョブ)ごとに一人の異性しか仲間にできぬ。最も優秀な者から順にひきあわせてくれ」


「一名しか仲間にできないのですか? でしたら……」

 協会長のおじいちゃんが、白い顎髭を撫でた。思案するかのように、ふむぅとつぶやきながら。


「来ていただいたばかりで申し訳ありませぬが、ご移動いただけましょうか?」

 へ?

「仲間候補の筆頭者がよそに居りまして……魔術師学校の高等部の学生なのです」

 え?

 学生?


「あ〜 いやいや、ご心配は御無用。魔力は豊富。一通りの魔法を修め、更には新(オリジナル)魔法をも多数編みだしております。魔術師協会の期待の星なのです」

 お。


「十八歳の若輩ながら、きっとお役に立つでしょう」

 おお、十八歳!


「由緒正しい侯爵家の嫡男で、剣技にも優れた、礼儀正しい方です。容姿端麗で、社交界の花形。いずれは王室付き魔法騎士(マジックナイト)に……」

 おおお! 容姿端麗! 魔法騎士!


「おそらく十年に一人、いえ、百年に一人現れるか現れないかの逸材……天才です。いかがでしょう?」

 おおおおお! 天才!


 それだっ! それしかないっ!


* * * * *



 協会長の移動魔法で、アタシ達は魔術師学校に移動した。


 だけど、跳んでった先は、校長室だった。

 居たのも、でっぷりとした校長(おじさん)だけ。キュンすらしなかった。


「申し訳ございません、ただ今、学科試験中ですので……少々お待ちいただけましょうか?」


 でっぷり校長との歓談はイマイチ気乗りしなかったんで、校内見学って名目でそのへんをぶらぶらさせてもらう事にした。


「では、わしは魔術師協会に戻っております。仲間候補の者達に、面談の遅れを伝えてまいります」

 貴公子様を仲間に出来なかった時は、魔術師協会に戻り仲間探しをやり直すこととなった。



 廊下は、天井も床もツルツルのピカピカだった。何処かに魔法の光源があるらしく、窓もないのに、やけに明るかった。


 授業中なんで、教室の扉は閉ざされている。廊下に生徒の姿はなかった。


 学校なんて、久しぶり。

 小学校に上がってじきに、アタシ、勇者見習いになって山ん中にひきこもっちゃったもんなー

 兄さまや幼馴染(クロード)と手をつないで小学校に通ったのは、ほんの数カ月。

 アタシの最終学歴は、小学校中退だ。


「俺もそうだぞ」と、兄さま。

「伯爵家にひきとられてからは、ずっと家庭教師に教わっている」

 へー さすが貴族。


「お師匠様は?」

 と、聞いてみた。知的なお師匠様は大学卒ってイメージ!

 しかし、意外な事に、

「学校とは縁はない」

 との答え。お師匠様は淡々と言葉を続ける。

「私は二才の時に勇者見習いとなったからな」

 そーいや、そうだった。



 玄関の脇から隣の校舎に向かう、渡り廊下にさしかかった時。

 元気な声が、校庭の方から聞こえた。


「ファイあー」

「ファいヤー」

「ふぁイアー」


 花壇の向こうで、横一列に並んだおチビちゃん達。手に構えた棒を前へとつきだし、呪文を叫んでいる。

 十才ぐらいのクラスだろうか。全員、地味な灰色のローブ姿。

「集中! 集中!」

 子供達の後ろを歩いているのは、先生だろう。ローブは黒で、杖頭に宝石のついた立派な魔術師の杖を持っている。


 中には、前方にちっちゃな炎を発生させてる子もいる。一瞬だけで、すぐ消えちゃうけど。


 列の端っこに、子供じゃない人がいる。

 子供達と同じ灰色のローブを着てる所を見ると、お手本を見せる先生ってわけじゃなさそう。

 右手に持ってるのも、木を削っただけの杖だし。


「ファイアぁぁ〜」


 何度も何度も杖を振っている。

 でも、何にも起こらない。炎が生まれるどころか、前方の空気はぴくりとも揺るがない。熱すら発生してないようだ。


 ローブのフードから髪が、こぼれる。めったにない特徴的なあの髪の色は……


「ん?」

「あ?」

 アタシとジョゼ兄さまは、同時に声をあげた。


「クロード?」


 どう見ても子供じゃない生徒が、アタシ達の居る渡り廊下へと顔を向ける。

 ストロベリーブロンドの髪に、大きな緑の瞳、すらりとした鼻、薄い口唇。

 ちょっと見、女の子みたい。頬もふっくらしてるし。顔だちが、かわいいのだ。

 この女顔といい……

 間違いない。

 クロードだ。


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