第10話 仲間ならキブアンドテイク

 俺は深刻そうな顔をしているエロ精霊に軽くデコピンする。


「痛っ! なにするんですか!」


「いや、サキュバスとかそういうことじゃなくて、もっといろいろ話せよ。俺たくさん話したじゃん。なんで俺のところに来たとかそういうことを聞きたいの。それが話せないなら年齢とか趣味とか」


「な、なんでそんなこと話さなきゃいけないんですか!」


「俺はこれからモンスターを狩りに行く。別にエロ妖精が戦力になるとは思ってないけど、急にいなくなられても困るんだよ。付いて来るなら仲間としてなのか、ただの見物なのかそのへんハッキリしろ」


 仲間としてならいなくなれば探す。

 見物ならいなくなっても逃げたり移動しただけと判断するので、このあたりはモンスター討伐するにあたって非常に大事なことだ。


「ハ、ハルトはどう思ってるんですか……私のこと」


「仲間に決まってるだろ。だから自分のこと話したんだよ。俺の性格とか考え方を知っていればエロ妖精も対応しやすいだろ」


 俺の言葉を聞いて信じられないといった顔を向ける。

 別におかしいことは言ってないし、むしろ優秀な冒険者はみんなそうすると思う。

 よって俺はEランクだけど優秀である。


「な、仲間でお願いします……」


「わかった。よろしくなエロ妖精。仲間ならギブアンドテイクを忘れるなよ」



 街の門についた俺たちは出発前に討伐の作戦を立てる。

 結局エロ妖精は自身がサキュバスであることしか話さないので、どのように戦うかなどはわからない。

 ただ俺は知っている。


「さっき使った相手を変な気持ちさせるやつ。あれをモンスターに使え」


 受付嬢が突然上着を脱ぎだした行為。

 どう考えても異常行動なので、こいつが何かしたことはわかっている。

 サキュバスであれば誘惑とか幻影とかそのたぐいのやつだ。


「あれ、モンスターと魔族には効きませんよ」


「ほんと使えねぇな」


 嫌味を言ったらエロ妖精は激怒し、手を尻尾で刺されるが痛くない。

 相手がフラッとなったところをサクッと斬って倒す作戦はすぐに破綻した。


「ハルトだってカードを使うスキルとか別に凄くないですよね! スライム、ゴブリン! 攻撃力とか防御力がちょっと上がったところでハルト自身が強くないと意味ないです! バカ!」


 最後のバカに憎しみを感じる。

 こいつが言ったことはある意味正しい。

 でも俺は別に凶暴なモンスターと戦いにいくわけじゃないし、今日討伐するのもスライムとゴブリンだけ。 

 俺は不敵な笑みを浮かべ、手持ちのカードを見せる。


 スライム9枚、ゴブリン4枚


 本来ならこの三倍くらい倒しているのだが、当然カードを使用しながら戦うので残っているのはこれくらい。

 カードを地面に並べて見せていると、空から一枚カードが落ちてくる。


 攻/闇属性 名のあるサキュバス 状態異常付与:常闇 レア度A


「な、な! なんで私のカードが出てくるんですか!!」


 突然エロ妖精の書かれた新規のカードが空から降ってくる。

 驚きたいのはこっちで、これはモンスターを倒した時に起こる現象だ。

 でもエロ妖精は健在、自分のカードを手に持って飛び回っている。


「うんうん。私、客観的に見ても可愛いですね! この背中のラインを強調して振り向いてる感じもいいです! これ誰が書いているんですか。ハルト自身ですか?」


 有名イラストレーターだよとだけ答えておいた。

 この異世界がゲームの世界なのか、小説の中のものなのか、それともそれらが関係のない異世界なのかは俺にもわからない。

 モンスターの絵に関しては、俺が以前遊んでいたカードゲームのものに似ている気はする。

 まあ今はそこはどうでもいい。


「エロ妖精。そのカードを寄越せ。さっそく実践で使うぞ」


「エッチなことに使うんですね。よろしくお願いします」


 精霊が無駄に丁寧に差し出すカードを奪い、俺はスキルを発動する。


「セット」


 俺の言葉に反応し、散らばっていたカードが浮遊。

 トランプを並べるかのように全カードが目の前にセットされる。


「うわっ! 見た目だけはカッコいいですね! 手品みたいです!」


 俺もそう思う。

 ここから五枚選び、その五枚が同時使用可能な枚数になる。

 もちろん一枚ずつの使用も可能だし、途中カードの入れ替えも自由。

 今回はスライム、ゴブリン、サキュバスの三枚だけをセット。


「カードが消えました! 手品です!」


「これで俺の準備は完了。あとは戦闘になったらこのカードを使うだけ」


 俺たちは街を出て近隣の森へと足を進めた。

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