第9話★名のあるサキュバスは今日も生きている
悪魔族サキュバス。
幻影と魅了のエキスパートで、高位のサキュバスともなると姿を見せるだけで相手を虜にし、さらに男女関係なくその力は発揮される。
『淫夢の誘惑』
私は密室にいる二人の男女に自身のスキルを放つ。
女は若干抵抗したが、それでも私のスキルから逃れることは出来ない。
即座に体は火照り、目の前にいる男とくっつきたい。
その欲望は服という邪魔なものを取り除かせ、肌と肌の密着を求める。
さっそく上着を脱ぎ始めた女を見て私は満足に頷く。
次はハルト、先ほどから下を向き汗をダラダラと流している。
いきり立つものを抑えようと必死なのだろう。
そんな様子を見て可愛いなという感情と無駄だよという感情が私の中で入り混じる。
なんの備えもなく私のスキルを、しかもこの至近距離で受けたハルトは、もうエッチなことしか考えられない。
あとは前にいる女に触れれば、お互いが求めあいすぐに交じり合う。
私はご馳走が運ばれてくるのを今か今かと待ちわびるていると、ついにハルトが顔をあげた。
「あの……ハルト」
「は、はい! 全て話させて……え?」
ハルトは下着の姿の彼女を見て再度うつむいてしまった。
おかしい、何故手を出さない!?
手を伸ばせば届く距離に下着姿の女がいるのに、それを我慢出来るはずがない。
欲望丸出し、飛びついて胸を揉んで下着をとってキスをして、これくらいのことはどれだけ奥手でもするはずだ。
ていうか童貞のほうが効果があるはず。
私はハルトのアレと女の様子を交互に見る。
女は防御魔法の効果でギリギリ精神を保てているようだけど、肌に触れればすぐにこの抵抗は無くなる。
それに対してハルトは上下運動を繰り返すだけで絶頂には程遠い。
「あのね……ハルトの顔は……その……別に悪くないと思うの……でも私は、ギ、ギルド長のことがす、す、す!」
「え!? サラさん!? え!?」
「好きなの!! だからハルトとはエッチできない!!」
バタン!!
密室にいた男女が淫夢の誘惑を受け、何ごともなく別れた。
私はハルトの性の残滓を食しながら、ありえないことが起こったとショックを受ける。
「いやぁ~。普通の人ならあそこでエッチ出来るんですよ? でも思っていた以上の精神力です!」
と言い誤魔化してみたものの、実際精神力でなんとかなるものではない。
私はテーブルに置かれていた水晶の玉の上に移動。
もしかしてこれが何かしたかと思ったが、おそらくこれは鑑定に使うためだけの道具。
まさかハルトには私のスキルが効いていないのか。
注意深く観察していると、性の残滓を食べられたハルトは賢者モードで私を見ている。
「あいつここに来る前に強化魔法を使ってます! しかも精神操作防御強化の魔法です! やられました! すみません!」
私が直接あの女に触れていればよかった。
そうすれば女のほうから襲ってきたことを考えると、今回は失敗したと言わざるおえない。
「でもハルトも悪いですよ。ちょっと胸の一つでも揉めばたぶん大丈夫でした」
なんて文句を言ったらハルトに摘ままれた。
勢いよく持ち上げられたため服が食い込む。
「あん……。だめ……」
「おいおまえ、精霊じゃねぇだろ」
ハルトは真剣な顔でそう言うと、私を頭の上に乗せ部屋から出て行く。
先ほどの女が上半身下着姿で廊下に立っていたが、ハルトはそれには目もくれずスタスタとそのままギルドを出てしまった。
外に出た今なら空に飛んでまた逃げることも出来る。
でも逃げてどうする。
私はどうせハルトがいないと数日もあれば消えてしまう。
「転生者っていうのは、ほかの世界から来た者の総称だ。俺が住んでいた世界、ここにいる人たちからすれば異世界。俺にとってはその逆でここが異世界になる」
ハルトは歩きながら急に私に説明する。
私の鑑定でも説明が出なかった転生者スキル。
「そ、そうなんだ……ちょっと意味がわからないけど」
異世界……神界や魔界のことを言っているのだろうか。
「俺の元いた世界には魔法とかスキルとかはない。いやスキルって言うのはある意味あるって言えるのかな。この世界ほどハッキリとしたものではないけど」
「ふ、ふ~ん……」
どうしてこんなに淡々と自分のことを語っているんだろうか。
私のことが気になっているなら聞けばいいじゃん。
もう隠すつもりはないよ。
どうせいずれバレることだったし、それでダメなら仕方がない。
そんなことを考えていると、ハルトはまた私をつまんで目の前に持ってくる。
目と目が合う私たち。
「俺の名前はイノウエハルト、17歳、むっつりで童貞で性格はあまりよくないって自覚がある」
「知ってます……」
「そうか。あと人に関心がない。特にここに来てからは関わらないようにしてる。シンシアさんのことは好きだけど、実はそれもわりとどうでもいいと思ってた。でもさ、なんかきっかけが出来たから……少し前に進もうかなって思ってる」
私が返事を返す暇もないくらい、ハルトは自分のことを語る。
ゲームが好き、カードでの戦いは無敗を誇っていた、両親はもういない、モテたことがない、でもそれは本気を出していなかったから、周りの評判が気になる、それでたまに落ち込む。
「まあ今はこれくらいだな。もっといろいろ話せるけど、エロ妖精にとって未知の物質とか物体が話に絡んでくるから伝わらないと思う」
「うん……あの、私は……その、実は妖精じゃなくて……」
「だろうね」
私は目を瞑る。
これを聞けば、ほとんど人間は私を殺そうとする。
「悪魔族、さ、サキュバスです……」
次の瞬間、私はデコピンされた。
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