第7話 優秀な受付嬢の秘密

 受付嬢に案内された部屋はギルド建物の奥にあり、当然俺のような冒険者が普段入れる場所ではない。

 部屋の中はソファー二台とテーブルが一脚あるだけの簡素な部屋。

 ただ窓がなく閉塞感が強い。


「どうぞソファーに座ってお待ちください。私もすぐ来ますので」


 言われるがままにソファーに座り、受付嬢が来るのを待つ。

 たしか名前はサラさんだったはず。

 長い紫色の髪が似合っていて、細身でスタイルも良い。

 いつもニコニコ笑顔で、目が合えば会釈してくれる。

 性格も良さそうでそれでいて仕事が出来るから、受付嬢で一番人気なのも納得だ。


『冒険のアドバイスをさせていただきます』


 でもそんな人が何故俺に冒険のアドバイスなんてするのか。

 いつもぼっちで討伐しているから?

 しかも最低ランクのEだから心配してくれたんだろうか。

 

「エッチなアドバイスかもしれませんね」


 耳元で囁かれる声、エロ妖精であることはすぐにわかったが俺は敢えて無視する。

 ケンカしたわけでもない、なにかされたわけでもない。

 でも急に目の前から消えたんだから、一言なにかあってもいいだろうと考えた。


「手取り足取りアドバイスされて、途中で胸が当たったり……。サラさんは20歳なのでハルトより年上です。あんなに人気があって可愛いのに処女です」


 無の境地。

 俺はいま無の境地を体現している。


「あ、お腹へってたんです。ありがとうございます。いくら深呼吸して落ち着こうとしてもなんの意味もないですよ? ムラムラって本能なんで人がどうにかできるものでないので」


「うっせぇわ! お前がムラムラさせたんだろうが! てか今までどこいってたんだよ!」


 我慢の限界がきて、怒鳴りながら妖精の方を向く。

 けどこいつは頭の後ろを右左と移動し、いっこうにその姿を捕らえることが出来ない。

 てかどこから来たんだよこいつ……。


「でも残念ながら想い人はいます。頑張りましょう!」


「何を頑張るんだよ……」


 俺がここにいる理由を完全に無視して、何かを頑張ろうとするエロ精霊。

 とりあえずは戻ってきてくれて安心はしたけど、それを伝えるのも躊躇われるような言動だ。



「お待たせしました。改めて自己紹介させていただきます。ギルド幹部職員サラと申します」


 丁寧にお辞儀をされ、俺も立って頭を下げる。

 サラさんは手に水晶玉のようなものを持っており、それをテーブルの上に置く。

 そして俺の対面にあるソファーに座り、今度は魔法のスクロールを取り出す。

 

「ご安心ください。これは音を遮断するための魔法スクロールです」


 俺の不安な気持ちを察したのか、すぐに説明をしてくれるサラさん。

 こういうところが優秀なんだろうなと感心する。


『ほうほう、喘ぎ声を消すためにここまでしますか……』


 エロ妖精は意味もなく小声になり俺の耳元で囁く。

 どうせお前の声は聞こえないんだから普通に話せ。


 サラさんが使った魔法が部屋に展開されると、先ほどまで聞こえていた外の喧騒が一切聞こえなくなる。

 こりゃ凄いわ。

 攻撃魔法はぼっち冒険に出ていた時、ほかの冒険者が使うところを見たことがあるけど、こういう特殊な魔法は見たことがなかったのでその効果に驚いた。


「便利ですね。初めてこういう魔法見ました」


「ふふっ。大事なお話がある時にはよく使われるんですよ。一つ100万ゼニーです」


 めちゃくちゃ高い! 

 そんな効果なものをわざわざ冒険のアドバイスをするために使ったのか!?

 目の前では何でもないっといったような表情でこちらを見るサラさん。

 でもこれはあきらかに異常なことが起こっているような。

 そんな俺の不安は的中した。


「それでは第一級スキル鑑定士の私が、冒険者ハルトの鑑定を実施します」

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