第5話 賢者になって数字を分析したい
シンシアさんが処女だった。
この事実は俺の中に眠っていた感情を爆発させた。
スキップをしながら宿屋まで移動し、普段声をかけない店主に挨拶するほどにだ。
「毎度様です!」
「お、おう……お疲れ様」
気分は最高潮、今なら何でもできそうだ。
そう思いながらベッドの布団に飛び込んだ瞬間、俺の心は急激に冷めた。
「俺、気持ち悪いな」
「そうですね。私もドン引きしてます」
エロ妖精がドン引きするくらいの気持ち悪さって。
普通の女性だったら二度と話してくれないレベルかもしれない。
俺は尻尾で頭をツンツンしてくるエロ妖精を手で払いのけ、体を起こしてベッドに座る。
「想い人がいないということには関しては喜びたい。でも処女であるかどうかは関係ない」
コクコクとエロ妖精が頷く。
どうやら正しい答えを導きだせたようだ。
「よ、よし! これより、こ、恋バナを実施する!」
俺が腕を上げ高らかに宣言するも、エロ妖精はやる気がなさそうにベッドに寝ころび始めた。
「おい、エロ妖精はこういう話が好きだろ? やる気だせよ」
「いま私お腹いっぱいで賢者モードなんです。それと勘違いしないでほしいんですけど、私自身はそんなにエロくないです。ハルトさんより変態じゃないです」
妖精の賢者モード、そういえば心なしか話し方も大人びた感じになっているような気がする。
ただ恋バナって勢いでするのが大事なはず。
寝て起きて朝になったら絶対恋バナしようなんて思わなくなっちゃうし。
「俺は変態じゃないからな。エロ妖精は……てか名前は? なんて呼べばいい?」
「エロ妖精呼びで構いません。それけっこう気にいってます」
「そうか。えーとそれなら、エロ妖精は女性視点から俺にアドバイスをしてくれ!」
「ほう、私にアドバイスを求めちゃいますか……この経験豊富な私に!」
エロ妖精はテーブルの端に腰をかけ、その小さな足を組み始める。
歴戦の恋愛猛者と言わんばかりの風貌。
小さくてお人形にしか見えないけど、不敵な笑みは余裕すら感じられる。
これにより第一回俺の恋バナ大相談会が開始された。
「えーと、まず初めに、ハルトさんはシンシアのことを恋愛対象として好きなんですか?」
「当たり前だろ。好きだから恋バナするんだろうが」
「そうですか。男の人はエッチしたいだけっていうのがありますからね。一応確認です」
一理ある。
と思いつつ、俺はエロ妖精が暴露した、シンシアさんの個人情報を冷静に分析するところから始める。
恋愛とは相手を知るところから始まるものだ。
シンシア・アルグレット、23歳、ドエス、想い人なし、俺に対する感情10パーセント、知人レベル
「おいエロ精霊、俺に関する感情10パーセントってどういうことだ?」
「私が鑑定出来る感情は全部は五種類あるんです。恋愛、好意、存知、嫌悪、無。相手に触れることが出来れば完璧に数値を把握出来ますが、見ただけだと一部の数字しかわかりません」
なんかすごいことが出来る妖精であることはわかったけど、ちょっと何を言っているのかいまいちわからない。
「わかりやすく説明してください」
俺が頭を下げてお願いすると、妖精はテーブル上においてあったペンを両手で持ち紙を要求。
テーブルに上に広げてやると、そこからスラスラと書き始めた。
ハルト→シンシア 恋愛0好意50存知50嫌悪0無0
「ハルトのシンシアに対する感情は数字に表わすとこんな感じです。当たってますよね?」
「お、おう。当たっている感じがする」
数字で見る自分のシンシアさんに対する感情。
ゲームなどではよくあることだけど、こうして実際に見ると不思議な気持ちになる。
「対してシンシアさんのハルトに対する感情は存知90ってことしかわからないんです。つまり残りの10パーセントがどこかに振り分けられているのかですが、おそらく好意に。存知90、好意10、この数字は挨拶をかわす知人レベルってことです」
「めちゃくちゃ凄いな鑑定スキル!」
「この鑑定は私にしか使えませんけどね!」
ドヤ顔エロ精霊に思わず拍手をしてしまった。
俺のスキルが鑑定であったらものすごく便利だったのに……なんて嘆いてもしかたないか。
これから俺がやるべきことは、シンシアさんの存知90の気持ちをいかに好意にもっていくかということだ。
まるで恋愛ゲームをやっているような感覚。
でもここは異世界とはいえ現実、何をやるにも俺が実際に動かないと始まらない。
「好意を上げるには……プレゼントがいいかな」
ボソッと呟き精霊の反応を確認する。
しかしペンを振り回し遊んでいる。
「お話をするっていうのはどうかな」
精霊に聞こえるよう少し大きめの声を出す。
しかし精霊は紙にお絵描きを始めた。
「どうしたらいいんだろうな……こういう時、恋愛マスターのアドバイスがあれば……」
ピクッと反応する精霊、振り向きざまのドヤ顔。
「プレゼントです!」
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