第3話 エッチな妄想は生野菜の味
「ま、まあ、そこまで私を求めるなら一緒にいてあげなくもないわ」
さっきまで自分から俺を追って来てたくせに、ツンデレかこいつは。
なんて思いながらも、下手に気分を害して急にいなくなられても困るので何も言わない。
妖精さんは求められたのが余程嬉しかったのか、今は踊るように飛んでいる。
「はぐっ!?」
突如、目の前を飛んでいた妖精の顔が歪み、そのまま地面に落ちた。
「おい! どうした!?」
「え、エッチなこと……は、はやく……」
「お、お腹が空いているのか!? や、やばいのか!?」
苦しそうな表情を浮かべた妖精がコクコクと頷く。
いやでもこんな状況でエッチなことを考えるなんて……。
俺は目を瞑り必死にエッチなことを想像する。
いつも通っている酒場お姉さんの一人、シンシアさんのことを……。
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「あ、ハルトさん! こんばんわ!」
俺が酒場の扉を開けると、すぐにこちらを振り向く女性が目に入った。
年齢は20代前半、茶色のストレートロングの髪、特徴的な目の下の小さい泣きボクロ、まん丸のメガネをかけている酒場看板娘の一人シンシア嬢。
俺はいつもの端の席に座りメニュー表を眺める。
ここですぐに決めるのはナンセンス。
何故なら悩んでいるとシンシアさんが来るからだ。
「今日のおススメは野菜炒め定食です! ハルトさんはいつもお肉ばかりなので特におすすめです!」
この声が聞きたくて、俺はいつも悩んでいるふりをする。
本当は野菜なんて食べたくないけど、彼女がおススメと言うなら仕方がない。
「それを頼む……」
「うふふ、ハルトさん、私のおススメは必ず食べてくれますね! 嬉しいです!」
吹き出しそうになる水をごくりと飲みこむ。
落ち着け俺!
そして横を見ろ!
今なら彼女の笑顔が見れ………
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「うわぁ……」
目を瞑りエッチなことを想像していた俺の頬がツンツンされ現実に戻される。
まだ調子はよくない妖精がげんなりした顔でこちらを見ている。
「お、窮地は脱したか! よかったな! 美味しかったか!?」
「いえ……なんて言えば伝わりますかね……生野菜をそのまま食べた感じです。どんなことを想像していたかまではわかりませんけど生野菜です」
「食べれたんだからいいだろ。贅沢言うな」
「そうですね。ありがとうございます……」
不満顔の妖精さんを無視して、俺は再度シンシアさんのことを考える。
エッチな想像をしてもシンシアさんの顔はハッキリ浮かんでいた。
俺は彼女に恋をしているのかもしれないな。
「えーとですねハルトさん。エッチな想像というのは、いつもベッドの上で想像しているようなことです。出会いとかなれそめとかそういうことじゃないんです」
「いつもベッドで想像していることを想像したけど?」
驚愕な表情を浮かべる妖精さん。
「それで出してます?」
「教えない」
出すとか出さないとか、妖精はエッチな生き物だった。
俺の中で神秘的なイメージが強かったけど、頭の上に乗っている妖精は神秘的とは程遠い。
「それじゃあそのシンシアさんのところに行きましょうか」
という提案の下、俺たちは酒場へと足を運んでいる。
「シンシアさんは週に四回、夕方から深夜まで働いでるんだ。で、みんなの健康を気遣ってくれていて、ちょっと顔色が悪かったりするとすぐに気付いてくれる!」
「そういう情報はいりません」
せっかく教えてやってるのにその態度はないだろ。
てかこいつが頭に乗ってたら目立つな。
「安心してください。普通の人には見えませんから」
「じゃあなんで俺は見えたんだ? 普通だぞ俺は」
「どこが普通なんですか……」
転生者……ということ以外だけど。
妖精さんは機嫌が悪いのか、この会話以降話さなくなってしまった。
こういうのが気まずくて誰かと一緒に行動したくない。
相手が自分のことをどう思っているのか、嫌な気持ちにさせていないか。
一度気になると、そんなことばかり考えてしまう。
カラン
「いらっしゃいませ! あっ! ハルトさん!」
酒場に着くとシンシアさんがいつも通り声をかけてくれて、俺はそれに手をあげて応える。
そしてすぐにいつもの席空いてますよと言わんばかりに、笑顔で席を指さしてくれる。
この一連のやり取りが俺は大好きだ。
「この人がシンシアさんですか……なるほどなるほど」
耳元でわざわざ聞こえるように妖精さんが囁く。
周りに人の視線が俺の頭にはいっていないから、見えていないというのは本当らしい。
席に座り今日のおススメは何かと思いながらメニュー表を眺めていると、妖精さんがまた耳元で囁く。
「シンシアさん、今日の下着は赤色です」
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