第21話

 噂の内の一つ一つについて真偽を提示されるのは、不思議なものである。


 町の風評など、普通は特に解決しないまま終わるものではないのか。


 奥様は、就寝用の薄手のドレスのまま、一日を過ごすこともあった。


 多くを寝室で過ごす原因が、産後に体調を崩したからというのは定かではないが、実際に顔色が悪いことも多く、やせ細っている。


 そして、部屋で塞ぎこんでいるのは事実であった。




 長引いているのは、この館で働く者のせいもあるのではないかと思えた。


 奥様がこのような状態にも関わらず、側付きの使用人は一人としていなかった。


 食事は用意されている食堂で摂る。

 風呂も着替えも、お一人で済ませる。


 体調が優れないときでさえ、だ。


 新入りの上に、ただの子守に過ぎない私に、他の使用人らへ何かを指示する権限はない。

 それに、旦那様の意向である可能性もある。他の何かしらに波及する可能性があるかもしれず、不用意に口を出すべきではない。




 奥様の、子供達への優しさは、本物であると思えた。


 去り際に、物寂しさが伝わったほどだ。


 本当は、もっと側で過ごしたいのだろう。




 子供達も、母親を忌み怖れているわけではなかった。


 ならば、共に過ごす機会を作ることくらいは構わないだろう。


 私自身が、でしゃばった行為をするわけにはいかないけれど、と、少しばかり考える。


 そこで時折、子供達を奥様の部屋へ向かうよう、追い立てながら過ごすことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る