第20話

 子供達の部屋から、さほど遠くない場所に、奥様の部屋はあった。


 走り回る子供達の行く手を追いかけて、気がついたのだ。


 直線上の廊下の端と端だが、子供達の部屋が、日の良く当るひらけた表の庭へ面しているのに対し、奥様の部屋は館の裏手側、木々に隠れて薄暗さの増す側となっている。


 私の部屋は子供達の隣なのだから、その部屋は目の届く範囲なのだが、扉が開いたところを見たことはないし、まさかそんなところが、奥様の部屋だとは考えもしなかった。



 明らかに、人目を避けるために選んだのだろうと分かる。



 子供達が飛びつくと、奥様はよろめいて、倒れるようにベッドに腰を下ろした。

 私は慌てて、その背を支える。


 だが、子供達を抱きしめ眺めるそのお顔は、この上なく優しい。


「母様! 新しいとうぎゅうし、すごいんだ!」


「かあさま、いつも、ひらりと、よけるんだよ!」


 支離滅裂な子供達の言葉に、奥様は困ったような微笑を見せる。


 私は弁解するように、ことの経緯を伝えた。




 新入りの私を、陰で闘牛士のようだと評して嘲笑っていたのは、井戸端会議中の使用人達だ。


 ちょうど通りかかって、それを聞いてしまった子供達は、喜んで私を囃し立てた。


 言葉の出元達は、子供の前では気まずかったのか、慌ただしく散っていった。


 その背を呆れて見送ると、私は彼らの期待に応えることにした。

 良い遊びの案だと思えたのだ。


 子供達を闘牛に見立て、シャツを振って、いなして遊んだ。




 告げ口のような真似をするつもりはなかった。

 他の使用人から案を頂戴しただけなのだと簡単に告げたのだが、省いた理由に思い至ったようで、奥様の頬は強張った。


 それも誤魔化すように、子供達との遊びについて告げれば、奥様の表情は和らいだ。



「まあ……ごめんなさいね。そんな風に言ってはなりませんよ」



 子供達を諭しつつも、奥様の慈しむ眼差しと笑みは深まった。

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