第16話

 誰が奥様を、感情のない闇のようだと評したのだろうと訝しんだ。


 とても傷ついているようにしか、見えなかったのだ。




 主は、心の傷から守るために、身柄を引き取ったのではなかったのか。


 だが私は、そういった子供達の親も見てきた。


 どうにか折り合いをつけて頑張ろうとしても、心折れてしまう人々はいる。


 青臭い正義感だけでは、どうにもならないことに気付いたのかもしれない。


 不躾ながら、噂からの流れで考えれば、そういうことなのだろうかと想像を巡らせていた。



 ただ、この館で働くことになるのならば、そういった噂は頭の隅に追いやらねばならない。


 自分の目で見たものだけを見、自分に任せられた仕事だけに精を出す。



 家庭によって違うものは、価値観、習慣、関係と幾らでもある。


 余計な詮索も、口出しもすべきではない。




 『奥様』と、既に心の中で呼び変えていた。


 恐らく断られることはないだろうという、確信めいたものがあったのだ。




 そして、あの傍若無人で無礼な子供達と、この屋敷でどう向き合っていくか、頭で算段をつけつつ。

 なにより、周囲から邪魔があろうとも、やり通すと腹を決めていた。

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