第14話

 大人の背丈ほどある噴水から、さらさらと流れ落ちる霧のような水しぶきを横目に、招待客の皆が帰りの門へと足を向けている。


 その列の先、門の傍には、一人一人に挨拶を交わしつつ見送る主が立っていた。


 私は多少の緊張に襟を正しつつ、時が過ぎるのを待つ。


 そこへ、子供らのはしゃぐ声が聞こえて振り返った。


 お仕着せの夜会服を着た男の子二人が、走り寄るところだった。

 上等な服と二人の髪の色から、あれが主の子供達であろうと思われた。

 そもそも、この日は、お披露目に参加できる年齢の者しかいないはずだからだ。


 その子供らの視線の先を追えば、父である主の元へ行こうとしていたようだった。


 そして、その後に距離を置いて続く人影に気付いた。

 奥方だ。

 彼女は噴水の手前で足を止めた。

 人の列から距離を置くためなのか、噴水の側に留まり走り去る二人の姿を見送っている。



 その時、ちょっとした事件が起こった。



 酒に弱いのか、飲みすぎたのか。

 足取りの安定しない男が、噴水の側に差し掛かった。


 よろめきながら歩く男は、奥方にぶつかると倒れそうになり、体勢を立て直そうとして突き飛ばす形となってしまった。


 体力仕事である私のように、手足も胴もがっしりしているならば、少しよろめく程度だったろう。

 だが彼女は、心許ない見た目通りに、あまりにも、か細かった。


 噴水はさして大きくないため、両腕で底に手を付いても、頭まで浸かることはなかったが、噴水なのだ。

 上から降り注ぐ水を上半身に被り続けたまま、動かない。



 唖然として身動きできずにいると、帰ろうとしていた客の幾人かが、慌てて駆け寄った。

 客らは酔った男を助け起こし、連れ去ろうとしていた。


 酔った男の口からは、奥方に対する罵りが漏れていた。



 奥方に手を貸す者はなく、声すらかける者もなかった。

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