第5話
当主の妻の話には、もっと昔からの流れも関係している。
まだ当主が学生の時分に、前主とその友が決めた婚姻を一度結んでいた。
初めの妻は、その友の娘だ。
貴族上がりらしい甘やかされ放題に育った若い娘だ。まだ人生を縛られることには耐えられなかった。
現当主の生真面目で厳しい性格とも、到底噛み合わなかったのだろう。
娘は、事あるごとに旅行に出ては、その場限りの火遊びを繰り返すとの噂であった。
前主の死後、すぐさまその婚姻を無効にしたという事は、全くの出鱈目という訳でもなかったのかもしれない。
家柄は申し分のない娘だったが、主の配偶者としての自覚の無さに、町の者達の意見は分かれていた。
『いずれは落ち着くだろう』というものと、『誰の子かも分からない者に跡を継がれては困る』といったもの。
現在も町の主などと呼ばれてはいるが、その実、領主として君臨していたのは、当主の曽祖父の代までである。
しかし今では、他所の一家庭の事情に過ぎない。
だが、そう割り切るには多くのしきたりや慣例行事が、彼の館と繋がっていた。
伝統はそうそう変わることもなく、結局のところ、未だにこの町は、主の屋敷を中心に回っている。
特に、前時代を覚えている年寄り連中にとっては、まだまだ形骸化させまいとしているようだった。
この町の外に関することは、わずかに伝え聞いただけだが、どうもここだけ時が止まっているようにも思える古めかしい町らしい。
話が逸れたが、そんな石頭達の住まう町では、心の自由である恋愛事も制限されがちということだ。
主が奔放な娘と別れたことを、『前主の遺志であるのに』と、年寄りは文句を口にした。
陰では『これで、もっと物のよく分かる者を娶ることが出来る』と、安堵していたにも関わらずだ。
それでいて、昔と違い良家の娘である必要は無いのだからと、独身で年頃の娘を持つ者、特に母親達は浮き足立った。
隣町へ出稼ぎしている娘を呼び戻して、後釜の機会を狙う者まであった。
都合のよいところだけは、新しいことを取り入れたいようである。
しかし主を取巻く、そんな喧騒は、長くは続かなかった。
現在の妻が現れたのだ。
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