第4話

 この地方の領主といっても差し支えない地位にいる男。

 それが、この館の主である。


 彼は前主を亡くして間もなく、若くして跡を継いだ。

 まだ少年の面影を残していながら、なかなかの豪傑だとの評判で、多くの事業、社交を切り盛りし、すぐにも実力を知らしめたという。


 若さ故の強引さはあるようだが、生まれついての指導者たる迷い無き決断力、理知を備え、また正しくあろうと根気強く努力する姿勢に、男達は一目置くようである。


 容貌も、その性格を表したように頑なで冷ややかだ。

 瞳は淡い琥珀色に時折、虹彩は冷たい銀色のきらめきを放つ。

 その瞳よりも淡い琥珀色の髪は、日差しを受けてさえ、やたらと艶を反射することなく涼しげに揺れる。


 男から放たれる威厳と、艶を消した金属のような質感が、冷ややかに思わせる由縁だろう。


 意外にも、胸の内まで見通すような鋭い視線に魅了される女も多いというから、容姿は優れているようだ。


 一応は私も女の身であるが、長らく拗ねた子供達の世話をしているせいか、人の外見というものに無頓着となっていた。

 良い印象を与えて悪さを企む子らの表の姿に惑わされることなく見抜かねばならないという、職業病故かもしれない。




 ともあれ、ほぼ完璧に見えるその男は、当然のように美しい妻と二人の幼い息子を持つ。

 多忙に追われ、ままならず、子供達の教育係を求めているというお触れであった。


 このような家格の館で働けるのならば、幾らでも働き手があるだろう。

 本来ならば。


 だが、この町に住む者にとって彼の後継者――しかも大層元気で利発だという男の子、二人の面倒を見ることは苦労もあろうが、重責である。


 何より、誰もが出来るだけ避けたいと考える原因が側に在ることが、躊躇わせるのだろう。




 誰もが現当主を申し分ないと認めている。

 それだけに、あまりに口惜しい一点。

 そのたった一つは、あまりに大きな瑕疵であった。


 それが、蔑む者の存在。


 彼が妻に迎えた、その人であった。

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