第47話 保健委員会




 放課後、陽一は保健委員会が集まる教室に残り、委員長の話をぼんやりと聞いていた。

 隣には、森口七海が座っている。森口は真面目にノートを取っていた。

 話の内容は、冬休みの前にトイレットペーパー、手洗いせっけん、アルコール消毒などの在庫確認。そして、いつものようにインフルエンザなどの感染症も増えるし、体調の悪い人たちにできるだけ早く気付いてあげて、保健室へ誘導するよう気を配るなどの内容だった。


「……笹岡くん」

「え?」

「委員会、終わったよ。倉庫に行きましょう」


 気が付けば森口が席の前に立っていて真顔で言われた。

 陽一は、早く赤猪子に会って話が聞きたいと思っていたので、ぼんやりとしていてあまり話を聞いていなかった。


「悪い。森口、もっかい言って」

「……階段下の在庫の確認。すぐに済むから、早く行こう」


 言われた通り、階段下のトイレや掃除に使用する在庫をしまってある戸口の鍵を開けて、森口と一緒に確認をした。陽一が物品の個数を言って、森口がチェックをする。

 終えた頃には外がだいぶ薄暗くなっていて、トイレへの補充は別の日にすることにした。


「森口、一人で帰るんだろ? もう、だいぶ薄暗いから家の近くまで送ろうか?」


 陽一が提案すると、森口は驚いた顔で口を開けた。


「あ、迷惑だったらやめるけど」

「ううん、すごく助かる。怖いと思ってたから」


 森口は素直にお礼を言った。それから少しはにかんだ笑みを返した。


「ありがとう」

「いいよ」


 外へ出ると、今朝よりもずっと寒い気がした。


「寒いな」

「そうだね」


 森口はマフラーに顔をうずめるようにして、静かに隣を歩いている。


「背、少し伸びたね」

「え?」


 小声で聞き取れなかったが、森口はちらちらと自分を見ていた。


「ああ、俺も朝、思ったんだよ」

「私も、今朝、思ったの」


 そう言って二人で笑った。

 辺りはすっかり真っ暗で、陽一は家の近くまで森口を送ってあげた。どうせ、自分は瞬間移動もできるし、急ぐ理由もない。

 森口はありがとうとお礼を言って家の方へ向かって行った。


 これから社に行くにはだいぶ遅くなってしまった。佐野が待っているかもしれない。

 明日も学校の用事で、在庫の補充もしなきゃいけないし。今日中に会った方がいいだろうと思った。

 陽一は、仕方なく辺りを見渡すと、誰もいないのを確認して赤猪子の社へと瞬間移動ポストした。


 鳥居の前に姿を現すといつものように手を合わせた。鳥居をくぐり、社へと続く道を歩くと、真っ暗闇の中に黒い影が見えた。

 ぎくりとして足を止めると、影が走って近寄ってくる。


「陽一くんっ」


 やはり佐野だった。

 佐野は、飛びつかんばかりに陽一の両腕をつかんだ。


「待っていたんだよっ」


 じっとりと見つめてくるが、陽一は、自分も忙しかったの、と言いたいのを我慢した。


「ごめんごめん」


 佐野に謝って社の方へ向かう。赤猪子の姿がない。


「ばあちゃんは?」

「赤猪子さんは留守だ。今朝から姿を見ていない」

「そんな……」


 せっかく来たのに。晶のことが聞けずじまいだ。

 がっくりすると、佐野が恨めしそうに見つめてきた。


「俺の事は心配じゃなかったのか」

「あのね、俺は、晶の事でいっぱいいっぱいなんです」

「いいかい、陽一くん、俺は命を狙われているんだよ。君が晶のことで頭がいっぱいなのは知っているけど、俺は明日殺されるかもしれないんだよ」

「えー?」


 陽一はうさん臭そうに佐野を見た。明日殺されるようには思えない。

 佐野はよく休めたのか、顔の艶はいいし、元気いっぱいの姿だ。しかし、話を聞いてあげないと永遠に泣きつかれる気がしたので、仕方なく耳を傾けた。


「じゃあ、話してくださいよ。聞くから」


 その時、佐野の腹の虫が鳴った。ついでに陽一もお腹が減る。


「腹ごしらえはどうする?」

「は?」


 陽一が口をぽかんと開けると、佐野は眉根を寄せて、朝から何も食ってないんだよ、とみじめな声で言った。


「うちに来る?」


 仕方なく言うと、佐野が大きく頷いた。まるで、大型犬が尻尾をぶるんぶるんと振っているかに見えた。

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