第44話 スズメの手紙





 ポスト(瞬間移動)をして部屋へと戻った陽一は、寒い寒いと言いながらすぐにパジャマに着替えてベッドに入った。

 体がすっかり冷え切っている。

 来月はもう十二月で、月日がたつのはあっという間である。


 あの男、佐野は一体何者だったのだろう。自分のことを猫に見張らせていたと言うし、何よりも自分と晶のことを知っていた。

 そして、赤猪子が言っていたことも気になる。


「ああ、もう、わけわかんね……」


 息をついてから寝る前に、もう一度、晶の顔を見たいと思い、スマホを手に取った。


「晶、俺、諦めていないから」


 晶に伝えてから眠りについた。



 翌日、目覚ましの音で目が覚めてから、陽一は暖房をつけて布団の中で丸まっていると、窓の外を叩く音に気付いた。不審に思ってベッドを出て、窓をそっと開けてみると、スズメが一羽飛び込んできた。


「わあっ」


 思わずのけぞると、スズメは机の上に何かを置いてサッと飛び去って行った。


「な、なんだ?」


 机に近づき、スズメが置いて行った物を見ると白い紙切れだった。何か文字が書いてある。


『放課後、やしろに来られたし』


 達筆過ぎて上手とは言えない文字に、佐野だとすぐに分かった。

 陽一は顔をしかめた。


 なんとなく嫌な予感がする。自分の目的は晶との再会だが、佐野に振り回されそうな予感があった。

 陽一はメモを屑かごへ捨てると、制服に着替えた。

 朝食をすませ出かける準備をして外へ出ると、冷たい空気に思わず身震いする。


 陽一の自宅は高校まで徒歩で行ける距離だった。体を丸めてマフラーでしっかりと首を巻いて歩き始めると、同じ学校の生徒たちがちらほらと見えてきた。

 挨拶を交わしていると、後ろからポンと肩を叩かれた。振り向くとクラスメートの森口もりぐち七海ななみだった。


「おはよう笹岡くん」

「おはよう」


 陽一は小柄でほっそりとした同級生を見て、こんなに小さかったっけ、とふと感じた。自分の身長が少し伸びたのかもしれない。

 じっと見つめていると、森口は眉を少しひそめた。


「何? なんでそんなに見てるの?」

「あ、ごめん。なんでもない。それで、何か用?」

「今日、委員会があるから放課後残ってね」

「え?」


 陽一は目を瞬かせた。


「委員会ってなんだっけ」

「保健委員よ、私たち」


 森口は肩で小さく息をついた。


「冬休みを前にすることがたくさんあるから、今日はちゃんと参加してね」


 少女はそう言うと、早足に行ってしまった。陽一は、自分が保健委員だったこともすっかり忘れていた。

 社に行くのは少し遅くなりそうだな、と小さく息を吐いた時、バサッと羽音がしてスズメが目の端を飛び去った。どきりとして電線に止まっているスズメを軽く睨んだ。


 今朝の手紙といい、動物に見張られている気がしてならない。もしかしたら今の会話をスズメが聞いて、佐野に報告するかもしれないと考えたが、それより人間の言葉を理解しているのか? とも思う。


「おはよう、陽一」


 同級生の渡瀬わたせ朋樹ともきの声にハッとする。

 朋樹は、今年の夏に一緒にかき氷をしたこと、晶たちの事をしっかりと覚えていて、彼は晶に会いたがっていた。しかし、朋樹には、晶は自分の恋人だから手を出すなよ、と念を押している。


「今日も寒いね」


 朋樹は、マフラーをしっかりと首に巻いて、温かそうな手袋もはめていた。


「さっきのは森口さんだよね」

「うん」

「何話してたの?」

「今日は保健委員があるんだってさ」

「ああ、委員会か。そっか」


 納得したように何度も頷いている。


「なんだよ」 

「いやー、女子が陽一に声をかけるなんて珍しいから、何かあるのかなって思ってさ」


 陽一は呆れて首を振ると歩きだした。


「なんだよ、ノリが悪いな」


 朋樹が追いかけてくる。

 陽一の頭の中は常に晶のことばかりでそんなこと思いもしなかった。


「あーあ、晶ちゃん、元気かな」


 朋樹の呟きを聞いて、ジロリと睨んだ。朋樹は肩をすくめた。


「冗談だよ、陽一の心を代弁してあげたの」

「もう行くぞ」


 見透かされている。

 自分はそんなに単純だろうかと情けなくなってくる。

 少しは成長したつもりだったのにな、と小さくため息をついた。

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